更新日: 2024.06.14 相続税
父が亡くなり、実家の遺品整理で高級腕時計と絵画が出てきました。相続税は払う必要があるのでしょうか?
執筆者:小山英斗(こやま ひでと)
CFP(日本FP協会認定会員)
1級FP技能士(資産設計提案業務)
住宅ローンアドバイザー、住宅建築コーディネーター
未来が見えるね研究所 代表
座右の銘:虚静恬淡
好きなもの:旅行、建築、カフェ、散歩、今ここ
人生100年時代、これまでの「学校で出て社会人になり家庭や家を持って定年そして老後」という単線的な考え方がなくなっていき、これからは多様な選択肢がある中で自分のやりたい人生を生涯通じてどう実現させていくかがますます大事になってきます。
「未来が見えるね研究所」では、多くの人と多くの未来を一緒に描いていきたいと思います。
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相続財産とは
相続とは、亡くなった人(被相続人)が所有していた財産などの権利・義務を、別の人(相続人)が受け継ぐことです。このとき受け継ぐ財産を、「相続財産」と呼びます。
相続財産には、預貯金や不動産、株式などの投資資産といったものだけでなく、被相続人の借金といったマイナスとなるものも含まれることに注意が必要です。
相続税の課税対象となる相続財産
相続財産のうち、現金、預貯金、有価証券、宝石、土地、家屋などのほか、貸付金、特許権、著作権など「金銭に見積もることができる経済的(金銭的)価値のある全て」が、相続税の対象となります。
なお、死亡退職金や、被相続人が保険料を負担していた生命保険契約の死亡保険金などといった「みなし相続財産」と呼ばれるものもあり、それらも相続税法の規定などにより相続税の対象となりますので、注意が必要です。
高級腕時計と絵画も相続税の対象となる?
高級腕時計や絵画といった美術品は「一般動産」に分類され、経済的価値があるのであれば、相続税の対象となります。たとえ遺品整理を他の人にさせたくない場合でも、高級腕時計や美術品などを見つけたとき、まず注意すべきことは、一人で判断しないことです。
親族間でトラブルを招くことがないよう、遺品整理に当たっては、事前に方向性を決定しておく必要があります。親族には高級腕時計や美術品が出てきたことを共有し、遺産分割協議をし、合意のうえで査定をする……といった手順を踏みましょう。
形見? それとも相続財産?
亡くなった人が生前使っていた身の回りの品を、「思い出の品」として受け継ぐ場合もあるかと思います。その習慣は、「形見分け」と呼ばれます。形見のもので経済的価値がなければ、相続税の対象とはなりません。
しかし、形見のものでも経済的価値があれば、相続財産となり、相続税の対象となります。
例えば、亡くなった人が愛用していた高級腕時計を形見として受け継ぐことになっても、それに経済的価値があるのであれば、「相続財産」として扱われ、相続税の対象となります。
一般動産の評価額
高級腕時計や絵画などの美術品のような一般動産にかかる相続税が、どのくらいになるかを確認するためには、まず、それらの評価額がどのように決まるかを知る必要があります。
相続税法22条における相続財産の評価は、「当該財産の取得の時における時価」とされています。相続において「当該財産の取得の時」というのは、相続を開始した日(被相続人が死亡した日)となります。
また、時価については「売買実例価額」や「精通者意見価格」などを参考にして評価するもの、と国税庁の法令解釈で通達されています。売買実例価格は、世の中にほぼ同じようなものが複数流通している場合、それらの販売価格を調べ、それを基準として時価とすることができます。
精通者意見価格は、専門家に鑑定してもらって調べるほか、買取業者の査定を利用する方法もあります。絵画など美術品のように、1点しか存在しない場合に有効な手段となります。
特に美術品のような場合は、本物であるかどうかの見極めが大切になります。美術商などの専門家であれば、その美術品の真贋(しんがん)や芸術的価値などを、より正確に見定めることができるでしょう。ただし、美術品を買い取ってくれる業者であればどこでもよい、というわけではないことに、注意が必要です。
なお、専門家の鑑定にかかる費用は、相続財産から控除することはできません。しかし、「美術品などを勝手に価値のないものと判断したことにより申告漏れが起きる」などのトラブルを未然に防ぐためにも、費用を惜しまず専門家に適切な鑑定をしてもらうことが望ましいでしょう。
1個または1組の評価額が5万円以下のものの評価
高級腕時計や美術品であっても、1個または1組の評価額が5万円以下である場合、「家財道具一式」といった形で、ある程度まとめて評価を行うことができます。つまり、よほど高価なものでなければ、1つずつ個別に申告する必要はありません。
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相続税はいくら払う必要がある?
遺産総額から葬儀費用や非課税財産(仏壇や祭具、生命保険金のうち500万円×法定相続人の数までの額など)、債務などを引いた「正味の遺産額」から、さらに基礎控除額を引いた残りの額が「課税遺産総額」となります。
この課税遺産総額を法定相続分で按分したものに、それぞれの取得金額に応じた相続税率を掛けた額の総額が、相続税総額となります。基礎控除額は、以下の計算式で求められます。
基礎控除額 = 3000万円+600万円×法定相続人の数
例えば、法定相続人が妻1名と子2名の3名だった場合、基礎控除額は3000万円+600万円×3(名)=4800万円となり、正味の遺産額が4800万円以下であれば、相続税はかからないことになります。
実際に納める相続税は、計算された相続税総額を、各相続人が実際に相続した遺産割合で按分し、そこから各種の税額控除を差し引いた残りが、各相続人が納める相続税となります。
納めるべき相続税がある場合、仮に、高級腕時計や絵画などの美術品の経済的価値が高く、それらが相続財産のなかでも遺産額に占める割合が高いのであれば、それを実際に相続した人が納めるべき相続税も、他の相続人と比べて高くなる可能性があるでしょう。
まとめ
高級腕時計や、絵画などの美術品も、相続財産として評価をする必要があります。高額なものになればなるほど、申告ミスや申告漏れがあったときのペナルティーも大きなものとなります。高級腕時計や美術品などは、専門家に鑑定を依頼することで、正しい申告をできるようにしましょう。
また、遺品整理を一人で行う場合でも、トラブルを招くことがないよう、遺品整理については親族間で事前に方向性を決定しておきましょう。
出典
国税庁 No.4105 相続税がかかる財産
国税庁 法令解釈通達 第6章 動産 第1節 一般動産
国税庁 財産を相続したとき
デジタル庁 e-GOV 法令検索 相続税法
執筆者:小山英斗
CFP(日本FP協会認定会員)