同僚が「土地を相続したけど売れなくて、固定資産税を払い続けててキツイ…」と言っていました。売れない土地を相続した場合、どうしたらよいのでしょう?
配信日: 2024.08.27
売却をしたくても、売却できない土地は、長く保有するメリットもないため、対応に苦慮されている方も、多いのではないでしょうか。
相続してもメリットのない土地
地方出身の方が、出身地を離れ都会で就職後に定住します。地方に住む親が高齢となり病気などで亡くなると、とりあえず、親が住んでいた土地と建物を相続します。相続した不動産は、登記の義務化が決められているため、相続をせずに放置することは難しくなります。少子高齢化の進行は、相続後に利用不可能な住宅や土地の増加に拍車をかけています。
相続した土地が、売却や賃貸が可能であれば、まったく問題はありません。ところが、その土地を利用する方法が考えられない、売却したくても売却自体が難しい、といった場合は、非常に悩ましい問題が発生します。こうした土地は地方で多く見受けられますが、最近では都市近郊の住宅地でも増加しつつあります。
もし利用が難しい土地を相続すると、固定資産税・都市計画税がかかり、家の保全や庭木の伐採といった管理・維持の費用も発生します。そのため土地を保有し続けるメリットはほとんどありません。もし空き家の手入れを怠ると、現在認められている固定資産税の減額措置がなくなるだけでなく、所有者の責任が問われるケースも出てきます。
こうした背景を考慮し、国が不要な土地を引き取る「相続土地国庫帰属制度」を、2023年4月からスタートさせました。一定の負担金を払うことで、使用していない土地を国に引き取ってもらう仕組みです。個人が国に対し決められた負担金を支払う仕組みですが、一方で各種税金から解放され、維持・管理費用も不要になるメリットがあります。
「相続土地国庫帰属制度」とは
この制度は、国が個人から土地を引き取ることができるように制度化されたもので、2023年4月から施行されています。一定条件が満たされた土地に関して、所有者が負担金を支払って国に引き取ってもらう仕組みです。この制度を利用したい方は、全国にある土地の登記を管理している法務省の出先機関の「法務局」へ事前相談をします。
ただし、どんな土地でも引き取ってもらえるわけではなく、決められた条件をクリアしない限り、引き取ってはもらえません。
例えば、建物が残っている土地は、対象にはならないため、建物を解体し更地にする必要があります。さらに、隣地との境界が不明確な土地、大きな樹木が残っている土地、確認できない埋設物がある土地なども、やはり引き取りの対象にはなりません。
法務局による事前相談の後、実態調査や正式な審査を経て、土地の引き取りが決まります。通常の土地の売買のケースとは異なり、土地を提供する側が負担金を支払い、なおかつ条件を満たした土地だけが引き取り対象になります。違和感をもたれる方もおられるかもしれませんが、土地を所有していれば有利だ、との発想は通用しないのです。
それでも、税負担や維持・保全の費用から解放される、使い道のない土地を子どもたちに負担させなくて済む、といった理由から、法務局へ相談、国の引き取りを希望する方が増えています。
【PR】「相続の手続き何にからやれば...」それならプロにおまかせ!年間7万件突破まずは無料診断
制度利用希望者も増加傾向に
2023年からスタートした制度のため、現在までに引き取りが決まった件数は、全国で200例ほどに過ぎません。しかし、法務局によるPR活動も行われているため、誰でも気軽に利用できるという環境が整いつつあり、相談件数は増えつつあります。
実際に引き取りが確定したケースのうち、50%ほどが宅地で、農地は約25%程度、山林は5%にもなりません。宅地が多いということは、都市部で利用されない土地が増えていることを伺わせる内容になっています。
審査期間が少なくとも半年はかかることも、まだ成約件数が少ない理由の1つといえます。制度の周知化がさらに進めば、引き取りの件数も今後増えていくと思われます。
国の引き取りを希望する土地がある場合、まず法務局の窓口に相談に行きます。この事前相談には予約が前提ですが、何回でも無料で相談できます。条件などをクリアし引き取りが認められそうであれば、その段階で審査手数料として1万4000円を法務局に納付します。別の土地の引き取りも希望する場合は、1件ごとに同額の手数料を支払います。
国に支払う負担金は20万円以上
審査手数料が納付されると、法務局による審査が正式に始まります。この時点で、該当する土地のある地方自治体に、審査情報が提供されます。法務局の担当者による実態調査を経て「問題なし」と判断されれば、正式に引き取りが確定します。この後に負担金を納付すれば、該当の土地は国庫に帰属します。
負担金の金額は、市街化区域以外にある宅地と農地の場合、一律20万円です。市街化区域の土地の場合、面積等を考慮し算定されます。計算式に当てはめて算出されますが、面積が広いほど金額は高くなります。
例えば、100㎡の宅地で負担金は約55万円になり、決して安い金額ではありません。この審査期間中に、土地のある地方自治体への情報提供がされるため、地方自治体が利用可能と判断すれば、寄付の形で受け入れに動くケースもあります。
とくに市街化区域の土地を、公園用地などに活用できれば、自治体としても好都合です。無償提供になりますが、国に引き取ってもらう場合に比べて、負担金がないというメリットがあります。また民間の不動産会社などでも、この情報を収集し、無償あるいは安い価格で引き取るケースも出てきました。
制度がスタートとして約1年、試行錯誤の状態が続いており、多くの国民に制度として周知され活用を考える方が増えるかどうかは、未知数の点が多いかと思われます。
出典
法務省 相続土地国庫帰属制度について
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。