更新日: 2024.10.22 その他相続
私は80歳で配偶者も子どももいません。親から受け継いだ遺産がかなりあるのですが、死後、財産はどうなるのでしょうか?
しかし、自分の財産を有効利用するために、必要な手続きを行って、特定の目的をもって活動する団体へ寄付する方法があり、最近は死後に自分の財産を、国ではなく特定の目的をもった公益の財団などに寄付したいと思う方が増えています。
相続人がいないと遺産は国へ
「家族関係が希薄」「子どもがいない」といった事情で、亡くなった方の財産の相続人がいないケースが、ここ数年増えています。相続人がおらず遺言状もない場合、残った財産は最終的には国庫に帰属します。
この金額は毎年増加傾向にあり、最高裁判所の資料によれば、2013年には約380億円でしたが、2022年には約780億円となり、ここ10年ほどで2倍以上になっています。少子化が進み、今後この傾向が続くと思われます。
その一方で、相続人がいないといった事情だけではなく、「相続人同士の仲が悪く遺産分割で対立が予測される」「相続税が多額になり相続人に迷惑がかかる」など別の事情で、「自分の財産を非営利団体などへ寄付したい」という方も増えています。
もし自分が財産を多少残したとしても、「親族間のムダな争いを助長する」「自分の希望どおりには利用されない国庫への帰属は望まない」などの理由により、自分が関心をもつ団体への寄付を希望する方が増えているのです。
このように自分の残された財産を、公益の団体などへ寄付する行為を「遺贈」といい、最近かなり希望者が増えています。この「遺贈」を行うには、生前に手続きを行っておく必要があります。
特に難病患者や交通遺児、世界温暖化対策、増加する難民救済など、社会のさまざまな分野で支援への関心が高まっており、そうした活動に共感し協力したいと考える方が増えている証左といえます。
元々、この自分の残す財産を遺贈したいと考えている方の多くは、配偶者と子どもがともにいない方でした。しかし最近は、配偶者がいる、配偶者・子どもともにいる、という方もかなりおり、社会的にも定着しつつあります。自分ができる最後の社会貢献と考えている方が増えているのです。
「遺贈」はどのように進めるか
遺贈をしたいと考えても、正しい手続きが必要になります。簡単なメモをつくる、誰かに自分の希望を伝えておく、といっただけではまったく効力をもちません。遺贈をするためには、正式な遺言状を作成するなどの作業が必要になります。
遺贈寄付の手続きとしては、まず自分が共感している活動分野は実際にはどこかを考え、その分野から遺贈先の最適と思われる団体を絞り込みから始めます。漠然とこの分野の団体へ寄付したい、という気持ちから一歩進める必要があります。
できれば、所轄の官庁が認可している公益法人やNPO法人の開示している事業報告書などを、詳しく調べることも必要になるかもしれません。それを行うことで自分の考えをまとめ、具体的にどの団体に遺贈するかを決めることができます。
遺贈先が決まったら、次に行うことは正式な遺言状の作成です。これは簡単な自筆のメモを残すといった程度では、遺贈を実現することはできません。どの財産をどの団体にどのくらいの金額を遺贈するかを、具体的に記述します。
遺言状は法的な要件を満たしていることが必須となるため、本人による「自筆遺言」では要件を満たさない事態も起こりうるため、避けたほうがいいでしょう。
手数料など費用は多少かかりますが、遺言状の保管のことを考え、公証人が作成する「公正証書遺言」が望ましいといえます。特に身寄りのない方の場合は、弁護士や司法書士といった遺贈の作業を実行してもらう、「遺言執行者」を同時に決めておきたいものです。
遺言状を作成した後に、より最適な遺贈先が見つかった、別の分野の団体に興味をもった、といった心境の変化が生まれ、遺贈先を変更したくなる事態も考えられます。その場合は、遺言状を書き直すことも可能です。
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遺贈を実施する際の注意点
実際に遺贈を行う際の注意点もあります。善意で遺贈すると考えても、受け取る側に税金が課せられる場合があります。
具体的には民間会社などの営利法人は、遺贈された財産が受贈益とみなされ、法人税の課税対象になります。団体ではなく個人に対して遺贈すると、受け取る方が相続税の支払い義務が発生します。遺贈先が、非営利の公益法人・学校法人・宗教法人などにすれば、課税対象になることはありません。
また遺贈する側に、有価証券や不動産などが多く、評価額に比べ購入価格が安いと含み益が発生します。すると遺贈者自身に「譲渡所得」が発生したとみなされ、相続人に対し所得税が課税される可能性があります。
これは結構見落とされることも多いのですが、遺贈額も多額になることが多く、知らずに遺贈をすると大きな問題が発生します。有価証券や土地については、遺贈する時点より前に、できるだけ現金化しておくことが、トラブルを防ぐことにつながります。
また遺贈者に、配偶者や子どもがいた場合の注意点がもう一つあります。相続人である彼らには、法的に保障されている最低限の取り分(「遺留分」という)が認められています。
これを超えた額の遺贈を行うことは避けることが賢明です。遺留分を超えた贈与は、自分の死後にトラブルを残す結果となるからです。留意しておきましょう。
出典
裁判所 最高裁判所
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。