更新日: 2024.12.01 その他相続
母が亡くなり、知人から借金していることが発覚しました。知人いわく、借用書などはないようですが、口座には確かに知人の貸したお金が振り込まれていました。これは私が返さないといけないのでしょうか?
執筆者:吉野裕一(よしの ゆういち)
夢実現プランナー
2級ファイナンシャルプランニング技能士/2級DCプランナー/住宅ローンアドバイザーなどの資格を保有し、相談される方が安心して過ごせるプランニングを行うための総括的な提案を行う
各種セミナーやコラムなど多数の実績があり、定評を受けている
個人間の貸し借りは、借用書がなくても成立
今回の相談者の方は、母親が亡くなり、無事に葬儀も済ませた後で遺品整理を行ったときには、借入金があるとは思っていませんでした。
しかしある日、母親の知人だという人が訪れてきて、「母親にお金を貸しているので、その分は返してほしい」と告げたそうです。相談者は突然のことに驚きましたが、その場では即答できずに「あらためて連絡する」ということで、その日は帰ってもらいました。
相談者が母親の預金通帳を確認すると、確かに訪れた知人の名前で、貸付金と思われる振り込みがされていました。しかし借用書もなく、相談者は「果たして自分が返さなくてはいけないのか」と疑問に思ったそうです。
基本的に親子であっても、生きているときの借入金は個人に対するものなので、返済義務はありません。しかし相続が発生した場合には、不動産や預貯金などの正(プラス)の財産だけではなく、借入金など負(マイナス)の財産も相続することになります。
今回のように、個人間の貸し借りで借用書がない場合でも、金銭貸借契約は成立することになります。実際に母親の口座には貸付金が振り込まれていますので、相談者は負の財産も相続することになり、返済をしなければいけません。
返済をせずに済ませる方法は?
個人間の貸し借りは、借用書がなくても成立してしまうため、親が他界した場合には、前述したように負の財産も相続することになります。しかし、負の財産があることを知ったときに、それらを相続しない方法があります。それは、「相続放棄」と「限定承認」です。
相続放棄は、「相続すべきものを全て相続しない」という選択です。
また限定承認は、「正の財産の範囲内で、負の財産を相続する」という方法です。例えば、相続財産が1000万円あったとして、このとき負債が1500万円あれば、正の相続財産に当たる1000万円で負債を弁済し、残りの負債500万円は相続しなくてもよいことになります。
逆に正の財産が負の財産より多い場合は、正も負も全ての相続財産を相続する「単純承認」と同じように、正の財産から負債を返済して、残りを相続することになります。
ここまで見ると、相続放棄も限定承認も、負の財産が多い場合は、違いがないように感じる方もいるでしょう。しかし実際のところ、相続放棄は相続人単独でできますが、限定承認は相続人全員の合意が必要になります。
また、どうしても相続したい不動産などがある場合、相続放棄すると相続できなくなりますが、限定承認を行った場合には、競売にかけられた不動産を優先的に買い戻すことができる「先買権」があり、不動産を手元に残すことができるようになります。
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熟慮期間を過ぎてしまったら
相続放棄や限定承認をする場合には、熟慮期間内に手続きを行わないといけません。熟慮期間は、「相続が発生したことを知ったときから3ヶ月以内」とされています。
仮に相続が発生したことを知ってから3ヶ月以内に借金も分かっていれば、この期間に、正の財産も負の財産も全て相続する単純承認をするか、相続放棄や限定承認をするか、決めることができます。
ただし個人間の借入金の場合、前述したように借用書がないケースもあり、時間がたってから分かることもあり得ます。基本的には、熟慮期間を過ぎると、相続放棄や限定承認を行うことはできなくなりますが、全くできない訳ではないようです。借金の存在を知らなかった場合には、借金の存在が分かったときから熟慮期間を起算する判例もあるようです。
借入金が少ない場合は、相続した財産から支払うこともできるでしょう。ただし、借入金が多額となり、相続した財産よりも多い場合は、専門家に相談してみましょう。
まとめ
親が亡くなって相続が発生した場合には、正の財産だけではなく、負の財産も相続することがあります。
正の財産の範囲内で負の財産を返済することができるのであれば、単純承認をして、負の財産を清算することができます。しかし負の財産が多い場合は、相続人がその返済義務を負うことになります。
こういったときには、「相続放棄」や「限定承認」という方法も考えられます。熟慮期間を経過してしまった場合でも、相続放棄や限定承認ができる可能性もあるので、親の借入金が分かった場合は専門家に相談するとよいでしょう。
執筆者:吉野裕一
夢実現プランナー