相続対策の第一歩 ~相続関係説明図をつくってみよう
配信日: 2019.01.31 更新日: 2019.07.01
その法定相続人を把握するためには、まずは親族の関係図を書いてみるのがおすすめです。また、さらに一歩進んで、いずれ相続手続きをする際に金融機関等に提出できる形の「相続関係説明図」までつくっておくと、いざ相続となったときには最新の内容にバージョンアップさせるだけですみ、何かとあわただしくなる相続手続きの際に助かります。
執筆者:福島えみ子(ふくしま えみこ)
CFP(R)認定者
1級ファイナンシャル・プランニング技能士
マネーディアセオリー株式会社 代表取締役
リュクスセオリーFPサロン 代表
大学卒業後、都市銀行に入行。複数の銀行、法律事務所勤務中に、人生の悩みは結局のところお金と密接に関係することを痛感、人生をより幸せで豊かにするお手伝いがしたいとファイナンシャルプランナーに。FP会社にて勤務後、独立。これまで500件以上の個人相談を担当すると共に、セミナー、執筆と幅広く活動。相続・資産運用・住宅相談・リタイヤメントプラン等を得意とし、個人相談にも力を入れる一方で、セミナーや企業研修、執筆を通じてわかりやすくお金の知識を発信することに注力している。
なぜ今のうちにつくっておくのか?
じつは、相続関係説明図をつくること自体はさほど難しいものではなく、その気になれば数時間で完成するかもしれません。もしくは、身近な家族のことですから、今すぐにでも書けるという人もいそうです。
しかし、相続があったときに名義変更のため金融機関や法務局に提出する「相続関係説明図」は、戸籍謄本に基づいた内容を正確に記載しなければならず、また、基本的にその戸籍謄本等の原本一式の提出も必要です。この戸籍謄本等一式とは、被相続人となる人、つまり亡くなった方の出生時から現在までの連続している戸籍謄本等すべてをいいます。
これらを手に入れるのが相続手続きのスタートとなるわけですが、これが意外と時間がかかる場合も少なくないのです。そのため、時間に余裕がある元気なうちにあらかじめこれらを手に入れて、相続関係説明図までつくっておこうというわけです。
なお、相続手続きをする先には基本的に戸籍謄本等一式の提出が必要と前述しましたが、2017年5月から始まった「法定相続情報証明制度」を利用する手もあります。
これは、いったん法務局に戸除籍謄本等一式と「法定相続情報一覧図」を提出して「法定相続情報証明」を得ておくと、以後はその「法定相続情報証明」の提出のみですむものです。ただ、この方法でも、一度は戸籍謄本一式と相続関係説明図を用意することになります。
相続関係説明図とは?
相続関係説明図とは、相続の対象となる人(被相続人となる人)を中心として、その親族関係や法定相続人が誰であるかを表した図です。いわば、家系図に近いものといえるでしょう。
下記は、相続関係説明図の見本です。
こちらの見本は法務局が提供している相続関係説明図の見本です。不動産の相続登記のために法務局に提出するもののため住所も記載されています。
現段階では法定相続人さえ把握できればよいという場合は、下記図2のように生年月日と死亡年月日のみのシンプルなものをつくっておくのがおすすめです。(この図では将来の被相続人対象者は二重線の四角で囲み、法定相続人は一重線の四角で囲んでいます)。
また、図1よりも図2のような、縦書きがわかりやすいという人もいるかもしれません。法務局などに提出する図は、現在は横書きが主流ですが、横書きでなければいけないわけではありません。把握しやすいほう、作成しやすいほうでつくってみてください。
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戸籍謄本の種類は?
それでは、相続関係説明図をつくるための戸籍謄本等一式はどうやって手に入れていけばよいのでしょうか? まずは戸籍の種類をおさえておきましょう。戸籍には以下の種類があります。
・(現)戸籍
・除籍
・改製原戸籍
戸籍は、戸籍内のすべての人の現状と履歴を記載したものですが、除籍は死亡・婚姻・離婚・転籍などの理由により現に戸籍に記載すべき者が全くいなくなったものをいいます。
そして、改製原戸籍とは、戸籍の様式や編製基準の変更により戸籍が作り変えられた元の戸籍です。昭和32年と平成6年の法務省令によるものが大きな改製のタイミングです。改製されると改製後の戸籍には、改製前にすでに結婚や死亡などで除籍になった者等の記載はされません。すべての親族関係を把握するには改製前の改製原戸籍も参照する必要があるのです。
なお、実際にご相談者さまと一緒に相続関係説明図をつくっていると、住所の変更に伴って本籍も変更してしまっている人や、事情により転籍している人が時折見受けられます。その場合は、転籍前すなわち以前の本籍地での除籍謄本も取得が必要になりますので注意してください。
実際に連続した戸籍を取得するには?
では、出生時から途切れることなくつながっている戸籍謄本一式は、どう取得していけばよいでしょうか。
まずは、戸籍の冒頭周辺部を見て連続させていきます。例えば、冒頭周辺部に「改製日」と「平成6年法務省令第51号附則第2条第1項による改製」との記載があれば、改製前の戸籍があるということですから、同じ本籍地の改製原戸籍を取り寄せます。
また、この部分に「〇年〇月〇日、〇〇県〇〇市〇〇番地(前の本籍地)より転籍」とあれば、転籍があるということがわかり、前の本籍地へ除籍謄本と改製原戸籍があれば改製原戸籍も取り寄せます。このようにして、戸籍を次々と遡っていくわけです。
戸籍謄本等は郵送でも取り寄せることができますから、その場合、「対象者〇〇の出生まで遡って存在する改製原戸籍や除籍などすべてのものが欲しい」旨書き添え、発行手数料として多めの定額小為替を同封しておくと、該当するものすべてを送ってくれる自治体もあります。それが可能なら、1つ取り寄せて表示を確認してはまた取り寄せるという手間が省けます。
いよいよ相続関係説明図を作成
こうして対象者のすべての戸籍が揃ったら、いよいよ相続関係説明図を作成していきます。相続関係説明図は絶対にこうでなければというルールがあるわけではありませんが、一般的には、前述の図1や図2のように、配偶者は、横棒の二重線でつなぎ、他は線でつないでいきます。
亡くなった方や離婚などがある場合は、いったんその関係を記載した後で、斜線を入れておくか、もしくは亡くなった方の場合は、死亡日を記載しておくことにより区別します。今は亡くなったり離婚してしまったりしているからと全く記載しないでおくと、その親族関係がつかめず、代襲相続人を見逃したりなど法定相続人が正確にわからなくなるおそれがあるからです。
書式のひな形がほしい場合、下記の法務局のサイトからエクセル形式のひな形と記載例をダウンロードすることができます。
法務局HP「主な法定相続情報一覧図の様式及び記載例」
このように、相続関係がわかる図をつくって法定相続人の数を把握していてこそ、相続対策がスタートできます。そして、いざ相続というときには、そのときの最新の戸籍謄本と変化があった部分の除籍謄本等を取得し、相続関係説明図も最新のものに整えるだけで済みます。
相続対策をそろそろ、と思ったときに、まずは戸籍の取り寄せと相続関係図をつくることから始めてみてはいかがでしょうか?
とはいえ、じつは注意点もあります。
戸籍をたどることにより、思わぬ親族関係が家族に知られるところとなり、いさかいの火種になってしまう例も、わずかながら皆無ではありません。例えば、親が認知していた今まで知らなかった兄弟の存在が明らかとなる、などです。
それゆえ、相続対策をするならば、被相続人となるであろう人に相続対策をしたい、相続関係説明図をつくりたい旨を伝えてから、着手をするということにも気をつけたいところです。
執筆者:福島えみ子(ふくしま えみこ)
CFP(R)認定者