親が亡くなったとき、親のお金で払う予定だった「葬式代」は銀行口座が凍結されたらどうすればよい?

配信日: 2025.03.19

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親が亡くなったとき、親のお金で払う予定だった「葬式代」は銀行口座が凍結されたらどうすればよい?
人の死は突然やってくるものです。亡くなられた方が身近な存在であるほど、喪失感と悲しみは増すばかりです。
 
とはいえ、特に親が亡くなった場合には、生前にお世話になった方々への訃報やあいさつ、葬儀の段取り決め、自治体への届け出などやるべきことが多く、悲しんでばかりいられないのが現状です。そのようななかで、葬式代など「お金」が悩みの種になることもあるかもしれません。
 
本記事では、相続発生からの流れとともに故人の銀行口座からのお金を引き出したい場合についてお伝えします。それぞれの事情にもよりますが、参考になればと思います。
大竹麻佐子

執筆者:大竹麻佐子(おおたけまさこ)

CFP®認定者・相続診断士

 
ゆめプランニング笑顔相続・FP事務所 代表
証券会社、銀行、保険会社など金融機関での業務を経て現在に至る。家計管理に役立つのでは、との思いからAFP取得(2000年)、日本FP協会東京支部主催地域イベントへの参加をきっかけにFP活動開始(2011年)、日本FP協会 「くらしとお金のFP相談室」相談員(2016年)。
 
「目の前にいるその人が、より豊かに、よりよくなるために、今できること」を考え、サポートし続ける。
 
従業員向け「50代からのライフデザイン」セミナーや個人相談、生活するの観点から学ぶ「お金の基礎知識」講座など開催。
 
2人の男子(高3と小6)の母。品川区在住
ゆめプランニング笑顔相続・FP事務所 代表 https://fp-yumeplan.com/

親が亡くなった際にやるべきこと

まずは、親が亡くなった直後に行うべきことを順序だてて見ていきましょう。
 
1週間程度の短い期間で、決めることや届け出ることが山積みです。必要書類の確認や期限を確認しつつ効率的に動くことが求められます。慣れない手続きに戸惑うことも多く、可能なかぎり、役割を分担して進めることをおすすめします。
 

亡くなったことを知ったとき~翌日

■死亡診断書の取得
まずは、亡くなったことを証明する「死亡診断書」を取得する必要があります。病院で亡くなった場合には、医師により記載、発行されます。自宅等で亡くなった場合には、警察や医師による確認が必要です。
 
■親族や生前にお世話になった方への連絡
親族や、親と生前付き合いのあった人に連絡をする必要もあります。日頃から頻繁に連絡をとり合っていたり、手帳やエンディングノートがあったりすればよいのですが、離れて生活していた場合には、親の交友関係が分からず苦労することが多いようです。
 
■葬儀社の手配
悲しみのなかでも、病院には長くはいられないのが現実です。安置場所を確保するためにも、搬送できる葬儀社の手配を早急に行う必要があります。
 

死亡後7日以内

■死亡届の提出
死亡診断書とともに、役所(基本的には、亡くなった方が住んでいた自治体)に「死亡届」を提出します。親族や同居人、葬儀社が代行することも可能です。死亡届の提出により、金融機関や相続手続きに必要となる「住民票の除票」が発行されます。
 
■火葬許可証の取得
死亡届を提出すると「火葬許可証」が発行されます。この火葬許可証は、火葬時に必要となります。
 

おおむね1週間以内

■葬儀の段取りを決める
明確に期限はありませんが、上記と並行して葬儀の段取りを行う必要があります。最近では、家族葬や直葬、通夜なしでの1日葬など従来と比較すると簡略化の傾向にあります。ただし、故人を送るための大切な儀式です。後悔のないように葬儀社と納得がいくまで打ち合わせを行いましょう。
 
葬儀社は、打ち合わせをふまえて見積書を提示します。契約の際、内容(規模)によりますが、10万円から50万円程度の手付金(内金)が必要となる場合があります(不要な場合もあり)。
 
それから葬儀後に、残金もしくは全額についての請求書を受け取ります。支払期限は、数日以内という葬儀社も見られますが、1ヶ月以内に振り込みというケースが多いようです。クレジットカード決済が可能であれば支払いを先延ばしにできるため、支払い方法については事前に確認しておきましょう。
 

銀行口座は「凍結」される?

口座名義人が亡くなり、銀行が口座名義人の死亡と確認すると、銀行口座は一定のプロセスを経て「凍結」されます。「凍結」とは、預金の引き出しや振り込みができなくなることを意味します。クレジットカードの自動引き落とし、公共料金の支払い、年金の入金などもストップします。
 
凍結を解除するためには、有効な遺言書があれば「遺言書」、ない場合には「遺産分割協議書」とともに、戸籍謄本、相続人全員の同意書など必要な書類をそろえて提出し、相続手続きを行う必要があります。
 
「口座名義人が死亡すると口座が凍結される」といわれますが、凍結されるのは、金融機関が口座名義人の死亡を認識した時点です。新聞の訃報などで把握することもあり得るものの、多くの場合は、親族が金融機関に「死亡届」を提出したとき、あるいは、電話等で死亡連絡をしたときが「認識したとき」に該当します。
 

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お葬式代を故人の口座から引き出す方法

親が亡くなった直後、まだ銀行に死亡通知を出していない段階(銀行が死亡を認識していない段階)であれば、キャッシュカードやネットバンキングを使ってお金を引き出せます。ただし、ほかの相続人の了承を得ずに引き出すと「使い込み」と見なされるなど、トラブルに発展するリスクがあるため注意が必要です。
 

「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」を利用する

口座名義人の死亡により銀行口座が凍結されると、遺産分割が終了するまでの間、相続人単独では相続預金の払い戻しを受けられないのが原則です。ただし、相続人の生活費や葬儀費用の支払いなどのためにお金が必要となった場合には、口座凍結後であっても「相続預金の払戻し制度」の利用が考えられます。
 
「相続預金の払戻し制度」には、

(1)遺産分割の審判や調停を申し立てた場合に家庭裁判所の判断により払い戻しができる
(2)家庭裁判所の判断を経ずに払い戻しができる

の2つがあり、払い戻しができる額などに違いがあります。
 
葬儀費用を支払うための払い戻しであれば、(2)が妥当といえるでしょう。この場合、払い戻しができるのは、金融機関ごとの相続開始時の預金額×1/3×払い戻しを行う相続人の法定相続分(上限150万円)です。
※同一金融機関の複数の支店に相続預金がある場合はその全ての支店の合計預金額
 
例えば、相続開始時点の預金額が600万円、相続人が長男と長女の2人であった場合、
600万円×1/3×1/2=100万円
1人につき100万円、2人で請求すると計200万円まで遺産分割前であっても引き出すことができます。
 

まとめ~引き出しの際の注意点

葬送のカタチは時代とともに変わってきましたが、親が亡くなった場合には、子として悔いのないよう送ってあげたいものです。生前に葬儀費用は準備してあると親が子に伝えているケースも多いようです。
 
しかしながら、亡くなられた直後という多忙のなかで、金融機関へ残高証明書の発行を依頼した際に死亡の旨を伝えたために口座が凍結され、後日立て替えた葬儀費用を引き出そうと思ったら引き出せなかったという事例も見られます。
 
相続は発生すると、相続人の確定や財産の把握、遺産分割協議、税申告などさまざまな手続きが必要です。基本的に、遺産分割が終わるまでは、故人の口座は凍結され、お金を引き出すことができません。ただし、「相続預金の払戻し制度」を利用することで、上限額はあるものの、葬儀費用など必要なお金を引き出すことが可能となります。
 
いずれにしても、後でもめることのないよう他の相続人の了承を得ること、葬儀費用の明細や領収書は紛失しないよう留意すべきです。なお、口座名義人が亡くなった後に「凍結される前に」とキャッシュカードを使ってお金を引き出すと、銀行の規約上「不正利用」と見なされるリスクがあることは認識しておく必要があります。
 

出典

一般社団法人全国銀行協会 遺産分割前の相続預金の払戻し制度
 
執筆者:大竹麻佐子
CFP®認定者・相続診断士

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