親が持っている「実家」や「田畑の土地」を相続したくありません。「相続放棄」をするデメリットはありますか?
配信日: 2025.04.01 更新日: 2025.04.02

本記事では、相続放棄のメリット、デメリットなどを確認していきます。

執筆者:高橋庸夫(たかはし つねお)
ファイナンシャル・プランナー
住宅ローンアドバイザー ,宅地建物取引士, マンション管理士, 防災士
サラリーマン生活24年、その間10回以上の転勤を経験し、全国各所に居住。早期退職後は、新たな知識習得に貪欲に努めるとともに、自らが経験した「サラリーマンの退職、住宅ローン、子育て教育、資産運用」などの実体験をベースとして、個別相談、セミナー講師など精力的に活動。また、マンション管理士として管理組合運営や役員やマンション居住者への支援を実施。妻と長女と犬1匹。
相続放棄のメリット
相続放棄をする場合、相続の開始があったことを知った日から3ヶ月以内に、家庭裁判所に申し出る必要があります。また、限定承認(被相続人の資産の範囲で負債を承継する)とは違い、個々の相続人が単独で申し出ることができます。相続放棄をする主なメリットは、以下のとおりです。
(1)借金が多い場合など、一切の負債を相続しなくて済む
(2)遺産分割の手間や相続トラブルに巻き込まれなくて済む
(3)事業承継などで1人の相続人に財産を承継させることができる
相続放棄のデメリット
一方、相続放棄をする場合の主なデメリットは以下のとおりです。
(1)原則、一度裁判所に申述書などを提出すると撤回できない
相続放棄は、原則撤回できません。仮に、撤回の申し出をした後に多額の財産が見つかったとしても、相続することはできません。
(2)後順位の相続人に思わぬ迷惑をかけることがある
法定相続人において、配偶者は常に相続人となります。法定相続人のうち、血族相続人には、第1順位は子、第2順位は直系尊属、第3順位は兄弟姉妹という優先順位があります。
仮に、被相続人の直系尊属(父母、祖父母など)がすでに他界していた場合、第1順位の子の全員が相続放棄をすると、第3順位の兄弟姉妹に相続権が移ることになります。
状況によっては、予想もしていなかった兄弟姉妹の方に相続権が移り困惑されることもあるでしょう。また、配偶者が、これまであまり面識のなかった被相続人の兄弟姉妹と、遺産分割などの協議を進めざるを得ないケースも想定されます。
このような状況を回避するために、相続放棄をする際は、後順位の相続人に事前に伝えておくことが重要となるでしょう。
(3)相続放棄しても空き家の管理(保存)義務が残る場合がある
民法においては、相続放棄をした際、相続財産に属する財産を現に占有している(事実上、支配や管理をしている状態である)ときは、相続人または相続財産清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもってその財産を保存しなければならない、と規定しています。
よって、例えば相続人が相続した家に住んでいたケースなどでは、相続放棄をした後でも、相続財産清算人にその家を引き渡すまでの間は保存義務があり、それを怠って第三者に大きな迷惑をかけた場合などには、損害賠償責任等を問われる恐れがあります。
一方、現に占有していない相続人には、相続財産の保存義務は課せられません。つまり、この場合は相続放棄をすれば、保存義務を免れることができると考えられます。
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死亡保険金や死亡退職金の非課税枠が使えない
もう一つのデメリットとして、死亡保険金や死亡退職金の非課税枠が使えなくなることが挙げられます。
死亡保険金や死亡退職金は受取人固有の権利であるため、たとえ相続放棄をしたとしても受け取ることができます。通常は、これらに対して「500万円×法定相続人の数」の相続税の非課税枠が設定されており、相続税の節税対策になります。
しかし、相続放棄をした人については、非課税枠の金額(総額)を計算する際の「法定相続人の数」には算入されるものの、相続放棄をした人自身が実際に受け取る保険金や退職金から、案分された非課税枠の金額を控除することはできません。
田畑(農地)の場合の注意点
相続財産が田畑(農地)の場合、相続放棄を経て、実際に相続する相続人は農業委員会に名義変更の届け出をする必要があります。また、農地を売却する場合には、購入できるのが農家や農業従事者(一部法人を含む)など農業委員会に許可されている者に限定されます。
さらに、農地を他の用途に転用する場合にも、農業委員会の許可が必要となります。許可されて宅地などに転用が認められれば、土地活用や需要の幅も広がりますが、農地のままでは買い手が見つかるまでに時間を要する可能性もあります。
まとめ
負債などが多いと思われるケースでは、相続放棄だけではなく、限定承認(被相続人の資産の範囲で負債を承継する)も選択肢の一つとなるでしょう。ただし、限定承認を選択する場合には相続人全員で家庭裁判所に申し出る必要があります。つまり、相続人全員の足並みがそろっている必要があります。
また、特に地方の空き家(土地)問題などが顕在化するなかで、一定の要件を満たした場合に土地を手放して国庫に帰属させることを可能とする「相続土地国庫帰属制度」も開始されています。
相続人の全員が相続放棄した土地は、最終的には国庫に帰属します。先祖代々受け継がれてきた家の財産が国の所有となることなど、相続人全員の意識の統一を図っておくことも必要になると思われます。
執筆者:高橋庸夫
ファイナンシャル・プランナー