「相続税が安くなるように」と親から毎年100万円もらっています。生前にもらっておけば相続税は安くなるのでしょうか?
配信日: 2025.04.10

この記事では、生前贈与による相続税対策の効果と注意点を詳しく解説します。

執筆者:FINANCIAL FIELD編集部(ふぁいなんしゃるふぃーるど へんしゅうぶ)
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生前贈与の基本
生前贈与には、主に「暦年贈与」という方法が用いられます。これは、1年間(1月1日から12月31日まで)に贈与を受けた金額で贈与税を計算する制度です。この場合、課税価格が基礎控除の110万円以下であれば贈与税は課税されません。つまり、毎年110万円までなら非課税で財産を移転できることを意味します。
例えば、毎年100万円の贈与を受けている場合、この110万円の基礎控除内に収まっており、贈与税はかかりません。
しかし、これが毎年120万円の贈与だと、110万円を超えた10万円に対して贈与税が課税されます。贈与税の税率は、贈与額や、贈与を受ける人と贈与する人との関係によって、基礎控除後の課税価格に対し10~55%の8段階で税率が変わります。
相続税対策としての生前贈与の効果
相続税は、亡くなった時点での財産に対して課税されます。生きているうちに財産を贈与することで、結果として相続税の対象となる財産を減らせるでしょう。
例えば、相続財産が1億円あるとします。法定相続人が1人の場合、基礎控除額は3000万円+(600万円×1)=3600万円です。この場合、1億円から3600万円を引いた6400万円が課税対象となります。
しかし、もし生前に10年間、毎年100万円ずつ、合計1000万円を贈与していたらどうでしょうか。亡くなった時点での財産は9000万円となり、課税対象は5400万円に減少するため、相続税額も少なくなる可能性があります。
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生前贈与の注意点
相続開始前の3年以内(2024年1月1日以降の贈与からは、段階的に7年以内に延長)に行われた贈与は、相続税の計算上、相続財産に加算されてしまいます。これを「生前贈与加算」といいます。つまり、亡くなる直前に慌てて贈与しても、相続税対策としての効果は薄いということです。
例えば上述の例で、亡くなる2年前に100万円を贈与した場合、この100万円は相続財産に加算され、9000万円ではなく9100万円が相続税の計算対象となります。
2023年の税制改正により、この加算期間を3年から7年に延長することが決定しました。段階的に延長され、2031年開始の相続からは7年になります。この改正により、より長期的な視点での生前贈与計画が必要になりました。
その他の生前贈与の注意点
生前贈与は相続税対策として有効な手段ですが、いくつかの注意点があります。以下に、特に注意すべき点をまとめました。
●贈与契約書の作成:口頭での贈与も有効だが、言った・言わないの紛争や税務署からの否認、贈与額や公平性など相続人の間での争いを防ぐため、贈与契約書の作成をしたほうがよい。
●名義預金:親が子どもの名義で口座を作り、そこに毎年お金を振り込むケースがあるが、口座名義人とお金の所有者が異なる預金のことを「名義預金」といい、被相続人の財産として相続税の課税対象となる可能性がある
●定期贈与:毎年同じ時期に、同じ金額を贈与すると「定期贈与」とみなされ、一括で贈与税が課税される可能性があるため、贈与の時期や金額を少しずつ変えるなどの工夫が必要となる
さまざまな非課税枠の活用
暦年贈与の110万円以外にも、さまざまな非課税枠があります。
●教育資金の一括贈与:直系尊属(父母、祖父母など)から30歳未満の子や孫への教育資金の一括贈与は、1500万円まで非課税
●結婚・子育て資金の一括贈与:直系尊属(父母、祖父母など)から18歳以上50歳未満の子や孫への結婚・子育て資金の一括贈与は、1000万円まで非課税
●住宅取得等資金の贈与:直系尊属(父母、祖父母など)から住宅の新築、取得、増改築などのための資金の贈与を受けた場合、最大1000万円まで非課税
●贈与税の配偶者控除:婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の贈与があった場合、2000万円まで贈与税はかからない
それぞれ受給者の所得要件や適用対象の条件などがあり、その要件を満たす場合には、非課税枠を上手に活用することで、より効果的な相続税対策ができるでしょう。
生前贈与は計画的に
生前贈与は相続税対策として有効な手段ですが、注意点も多いため、計画的に行う必要があります。「相続税が安くなるように」と毎年100万円の贈与を受けている場合、現時点で贈与税はかかりません。ただし、生前贈与加算期間内(3~7年間)であれば相続財産として加算される可能性があります。
また、「相続時精算課税制度」を活用する方法もあります。この制度では、60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子や孫への贈与について、特別控除額2500万円まで贈与税がかからず、一律20%の税率で課税されます。
贈与者が亡くなった際には、これまでの贈与額と相続財産を合算して相続税を計算し、すでに支払った贈与税額を控除します。ただし、この制度は途中で撤回できないため慎重な選択が求められます。
相続税対策として最大限の効果を得るためには税理士などに相談し、自身の状況に合わせたプランを立てましょう。
出典
国税庁 No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
国税庁 No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)
国税庁 令和6年分の贈与から贈与税・相続税の計算方法が変わります!
国税庁 祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度のあらまし
国税庁 No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税
国税庁 No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税
国税庁 No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除
国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー
監修:高橋庸夫
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