親がオーナーのマンションに家賃ゼロで住んでいます。税務署から「贈与税のお尋ね」が来ました。これは生前贈与になるのでしょうか?
ファイナンシャル・プランナー
住宅ローンアドバイザー ,宅地建物取引士, マンション管理士, 防災士
サラリーマン生活24年、その間10回以上の転勤を経験し、全国各所に居住。早期退職後は、新たな知識習得に貪欲に努めるとともに、自らが経験した「サラリーマンの退職、住宅ローン、子育て教育、資産運用」などの実体験をベースとして、個別相談、セミナー講師など精力的に活動。また、マンション管理士として管理組合運営や役員やマンション居住者への支援を実施。妻と長女と犬1匹。
相続税法の規定
贈与とは、生存している個人から財産をもらう契約であり、通常、1年間(1月1日から12月31日まで)に贈与された財産の合計額を基に贈与税が計算されます。
また、相続税法第9条では、「対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合においては、当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額(対価の支払があった場合には、その価額を控除した金額)を当該利益を受けさせた者から贈与(当該行為が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなす」と規定されています。
この時点では、家賃0円(対価を支払わず)でマンションに居住するという利益を受けた子どもは、利益の価額に相当する金額(家賃)の贈与を取得したとみなされるものと読み取れます。
ただし、国税庁が定めた実務や理論における重要な指針となる「相続税法基本通達」9-10には、「夫と妻、親と子、祖父母と孫等特殊の関係がある者相互間で、無利子の金銭の貸与等があった場合には、それが事実上贈与であるのにかかわらず貸与の形式をとったものであるかどうかについて念査を要するのであるが、これらの特殊関係のある者間において、無償又は無利子で土地、家屋、金銭等の貸与があった場合には、法第9条に規定する利益を受けた場合に該当するものとして取り扱うものとする。ただし、その利益を受ける金額が少額である場合又は課税上弊害がないと認められる場合には、強いてこの取扱いをしなくても妨げないものとする」と規定されており、後段のただし書きにより、贈与として取り扱わなくてもよいものとされています。
結論として、この事例は生前贈与とはならず、贈与税が課されないものとして扱われるのが一般的です。
「贈与税のお尋ね」について
もう一つの論点として、税務署から「贈与税のお尋ね」という通知が届いた点にあります。税務署側としては、このケースに関して何かしらの反応を示し、事実関係を確認したいという意図があるはずです。
通常、この通知が送付される主な理由としては、「不動産を購入、又は相続し、登記情報に異動などの変更があった場合」が挙げられます。
つまり、登記情報が法務局から国税局(税務署)に伝えられ、税金の申告漏れなどがないのかを確認するための通知と思われます。今回の事例の場合、マンションのオーナーはあくまでも親であり、名義変更などの移転登記はないものと推測されます。
「贈与税のお尋ね」に関する対応のポイントは、正直かつ具体的に回答することが大切であるとされています。親の所有するマンションに、無償で使用している旨の事実を正確に記載し、回答することが求められます。
下手に通知の存在を無視したり、事実の隠蔽(いんぺい)や虚偽の回答をしたりしてしまうと、後で真実と異なる事実が発覚した場合などには、加算税や延滞税などのペナルティーが課される可能性があるため注意しましょう。
その他の注意点
今回の事例には該当しませんが、以下のようなケースでは親が所有するマンションであっても贈与とみなされる可能性があるので注意しましょう。
(1)マンションを無償でもらう契約を交わした場合(生前贈与)
贈与契約は当事者の合意によって成立するため、口頭でも書面でも有効となります。
(2)マンションの所有権移転登記をした場合(生前贈与)
所有権の登記名義人を子どもに移した場合には、当然第三者からも子どもに所有権が移転したものと判断されます。
(3)市場価格より著しく低価で子どもが購入した場合
通常、市場価格(時価)と購入価格との差額が贈与とみなされ、その部分に贈与税が課税される場合があります。
(4)マンションの購入資金やリフォーム代、住宅ローンなどを親が肩代わりした場合
親が子どもに対して資金的な援助を行った場合でも贈与とみなされます。
まとめ
結論として、今回の事例では贈与とはみなされず、子どもが贈与税を負担する可能性は低いものと思われます。ただし、税法上の判断に迷う場合や疑問点がある場合には、自分で勝手に判断することなく、早めに税務署や税理士などの専門家に相談することをお勧めします。
出典
デジタル庁 e-Gov 法令検索 相続税法 第九条
国税庁 通達目次/相続税法基本通達
執筆者:高橋庸夫
ファイナンシャル・プランナー
