両親が「貯金はあるけれど、生きているうちに使い切るつもりだ」と話しています。遺産が残らない場合、私たち兄弟は手続きをしなくても問題ないでしょうか…?
FP事務所ライフブリュー代表
CFP®️認定者、FP技能士1級、証券外務員一種、住宅ローンアドバイザー、終活アドバイザー協会会員
大手電機メーカーで人事労務の仕事に長く従事。社員のキャリアの節目やライフイベントに数多く立ち会うなかで、お金の問題に向き合わなくては解決につながらないと痛感。FP資格取得後はそれらの経験を仕事に活かすとともに、日本FP協会の無料相談室相談員、セミナー講師、執筆活動等を続けている。
まず遺産の全容を確認しよう
Aさんのご両親は、「預金は使い切る」と言っていますが、相続対象となるのは預金だけではありません。遺された方は、次のような項目についても相続が発生する前に、その有無や相続の可能性を確認しておくことで、相続をスムーズに進める助けになります(※1)。
・生命保険金や個人年金保険の受給権、死亡退職金など、相続人が受け取るお金があるか。
もし、発生する場合は「みなし相続財産」として扱われます、なお、次のとおり非課税限度額が設定されています。
・非課税限度額=500万円×法定相続人の人数
・相続開始前7年以内に生前贈与していた場合、あるいは「相続時精算課税制度」の適用を受けた贈与財産がある場合、相続財産として相続税の計算に含めます。
・ゴルフ会員権
・著作権、特許権、印税
・美術品、骨董品 等
負債がある場合
相続するのはプラスの財産だけでなく、負の財産もありえます。負債の金額によっては、相続放棄(原則3ヶ月以内)の検討が必要になります。故人に高額な借入金や保証債務がなくても、一般的に次のような負債が考えられます。
・未精算の医療費
・クレジットカードの残債
・車やスマホ、他のローン残高
遺産が残らない=手続き不要ではない
Aさんの両親の相続資産がほぼ預貯金のみ、不動産も負債もないとした場合、たしかに相続税の申告が不要になる可能性があります。相続税の課税価格が遺産に係る基礎控除額を上回るときのみ、相続税の申告が必要です。
・遺産に係る基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の数
前述した負債を含む相続財産をすべて確認し、そのうえで遺産額が控除額以下であれば相続税の申告手続きは不要です。ただし、申告の必要有無にかかわらず必要な確認や手続きがいくつかあります。
・戸籍等による法定相続人の確定
・準確定申告:相続の開始を知った日の翌日から4ヶ月以内に申告・納税する(※2)
・年金の未支給分の請求
・使い切れなかった預貯金の相続
・デジタル資産(ネット系の銀行や証券・電子通貨などの残高額の相続、口座解約)
・金融資産の含み益(損)
・サブスクサービス等の契約解除 等
預金を使い切るといっても、両親のどちらも亡くなった際にちょうど残高ゼロ円になることはないでしょう。まだ何十万円、何百万円が残っているかもしれません。
相続税の申告は不要でも、争族を避けるためにも事前に相続割合を兄弟で合意するなり、相続発生時に残額の分配について「相続税遺産分割協議書」を作成することが望ましいといえます。
その他の手続きについて
このように、たとえAさんの両親の預貯金がほぼ残っておらず、結果的に相続税申告が不要であったとしても、そこに至るまでのさまざまな確認作業は発生します。若干でも残った遺産は相続割合を決める必要がありますので、何らかの手続きが必要となるでしょう。
なお、相続税以外では、被相続人の死亡に伴い、上記した各項目以外にも以下の手続きが発生しますので、忘れずに対応するようにしてください。
・市区町村窓口への死亡届の提出
・年金停止手続き、遺族年金支給手続き
・健康保険・介護保険の資格喪失手続き
・公共料金や諸契約、口座振替サービスの解約
遺産以外にも遺族が対応することが数多く発生しますので、早めにエンディングノートを作成し、定期的にアップデートすることをお勧めいたします。
出典
(※1)内閣府大臣官房政府広報室 政府広報オンライン 相続税はいくらから? 基礎控除とは? 相続税の基本を確認!
(※2)国税庁 No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)
執筆者 : 伊藤秀雄
FP事務所ライフブリュー代表
CFP®️認定者、FP技能士1級、証券外務員一種、住宅ローンアドバイザー、終活アドバイザー協会会員
