親の不動産を子どもたちの共有名義にすると節税になると聞きました。相続することになったら、きょうだい2人の共有名義にすべきですか?
本記事で、FPである筆者が分かりやすく解説します。
お金と不動産相続のコンシェルジュ
宅地建物取引士・AFP・住宅ローンアドバイザー・相続診断士
「共有名義にすると節税になる」は本当か
親の不動産を相続するとき、「きょうだい2人の共有名義にすれば節税になる」と聞いたことはありませんか?
確かに、小規模宅地等の特例(自宅の場合、330平方メートルまで評価額を最大80%減額できる制度)は、要件を満たせば共有名義でも適用できます。ただし「共有にすること=節税」ではなく、あくまで取得者の居住実態や利用状況といった要件しだいです。
節税効果があるケースもありますが、それだけを理由に共有名義を選ぶと、後から取り返しのつかない問題が生じることがあります。特例の適用可否については、必ず税理士または税務署に確認するようにしましょう。
相続の手続きは、登記さえ済ませれば終わりではありません。「取りあえず共有で」という判断が、10年後・20年後に家族を苦しめるケースを、筆者は現場で何度も見てきました。
共有名義は「何も決められない」状態を生む
共有不動産を売却・リフォーム・賃貸に出すには、共有者全員の合意が必要です。きょうだい間で意見が食い違えば、資産が宙に浮いたまま何年も放置されることになります。
裁判所の司法統計によると、共有物の分割を求める訴訟は令和5年だけで1288件にのぼり、4年前と比べて約26%増加しています。「うちのきょうだいに限って」と思っていても、時間の経過とともに状況は変わっていきます。
また、見落としがちな落とし穴があります。現金などの分けやすい財産を先にきょうだいで分けてしまうと、いざ不動産を分けようとしても「支払う原資がない」という事態になります。不動産と預貯金は、必ずセットで分割協議を進めることが鉄則です。
きょうだいの共有には、夫婦・親子にはないリスクがある
夫婦や親子の共有と違い、きょうだいそれぞれにすでに家族がいます。片方に相続が起きれば、その配偶者や子どもが新たな共有者として登場します。
最初は2人だった共有者が、世代を重ねるごとに増殖していくのです。「長男が全部もらえばいい時代」はとっくに終わっています。それぞれの家族の事情や価値観が絡み合うほど、合意形成は難しくなります。
さらに深刻なのが、共有者の一人が認知症になるリスクです。判断能力が低下すると、売却や大規模修繕といった手続きが完全にストップします。
空き家が全国900万戸(総務省・令和5年住宅・土地統計調査)に達している背景には、こうした共有問題が深く関わっています。「いつか話し合おう」と先送りしているうちに、動けない状況になってしまうのです。
「いつか話し合おう」が一番危ない
相続する側ができることには、限界があります。共有名義のリスクを十分に理解したうえで、どんな分け方が家族にとってベストか、不動産相続に強いFPや司法書士に早めに相談することをお勧めします。
代償分割や単独取得など、選択肢とそれぞれのリスクを専門家と一緒に整理してみてください。誰に相談するかによって提案内容が変わることもあるため、複数の専門家の意見を聞くことも選択肢のひとつです。
ただし、本当に大切なのは財産を残す側が動くことです。「この不動産は○○へ」という思いを遺言として残しておくだけで、きょうだい間のトラブルの大半は防げます。遺言があれば、残された家族は「親の意思だから」と納得して動くことができます。認知症になってから、相続が発生してからでは、選択肢はどんどん狭まっていきます。
まずは、最初の一歩を踏み出してみましょう。
出典
国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
最高裁判所 司法統計
総務省 令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計(速報集計)結果
執筆者 : 稲場晃美
お金と不動産相続のコンシェルジュ
宅地建物取引士・AFP・住宅ローンアドバイザー・相続診断士
