更新日: 2019.07.09 遺言書
自筆よりも有効な遺言書、「公正証書」を知っていますか?
そんな特集でも度々言われているのは『遺言書』の大切さです。皮肉にも、相続を「争族」と表記するほど、資産継承で揉めるケースが多いのです。
相続診断士として活動している筆者は、そのような話を沢山耳にする機会があるだけに、その度に『遺言書』の大切さが身にしみるのです。
執筆者:寺門美和子(てらかど みわこ)
ファイナンシャルプランナー、相続診断士
公的保険アドバイザー/確定拠出年金相談ねっと認定FP
岡野あつこ師事®上級プロ夫婦問題カウンセラー
大手流通業界系のファッションビジネスを12年経験。ビジネスの面白さを体感するが、結婚を機に退職。その後夫の仕事(整体)で、主にマネージメント・経営等、裏方を担当。マスコミでも話題となり、忙しい日々過ごす。しかし、20年後に離婚。長い間従事した「からだ系ビジネス」では資格を有しておらず『資格の大切さ』を実感し『人生のやり直し』を決意。自らの経験を活かした夫婦問題カウンセラーの資格を目指す中「離婚後の女性が自立する難しさ」を目のあたりにする。また自らの財産分与の運用の未熟さの反省もあり研究する中に、FPの仕事と出会う。『からだと心とお金』の幸せは三つ巴。からだと心の癒しや健康法は巷に情報が充実し身近なのに、なぜお金や資産の事はこんなに解りづらいのだろう?特に女性には敷居が高い現実。「もっとやさしく、わかりやすくお金や資産の提案がしたい」という想いから、FPの資格を取得。第二の成人式、40歳を迎えたことを機に女性が資産運用について学び直す提案業務を行っている。
※確定拠出年金相談ねっと https://wiselife.biz/fp/mterakado/
女性のための電話相談『ボイスマルシェ』 https://www.voicemarche.jp/advisers/781
『遺言書の有効性』
遺言書の一番の目的は「遺された相続人・家族が揉めないように、被相続人(財産を残す亡くなった人)が、最後の想いを書面に遺すもの」です。遺言書で遺された内容は、法律で決められた相続割合(法定相続分)よりも優先されます(遺留分は確保されます)。
また、被相続人は「付言」というものをつけることができます。この「付言」は想いです。この「付言」があるのと無いのとでは、残された親族が受ける『遺言書』の印象が大きく変わるのです。残念ながら、多くの相続で「公平性」というものは保てないものです。
例えば、自宅の1つの不動産に対して兄弟姉妹が3人いたり、独身の子供に介護負担が偏ったり、そんな時に想いを残せるのが「付言」です。
『付言』とは“役割相続”を守るもの
争族の原因は「不公平な待遇」です。何を基準に不公平なのかというと、それは人それぞれの想いがあるもの。簡単には決められません。
<ケーススタディー>
兄妹の二人きょうだい。兄は結婚して、東京に住んでいます。子供は2人。奥さんと共働きです。妹は東京で勤めていました。
10年前に父が他界。翌年、母が転倒の際に骨折して以来、すっかり弱ってしまいました。そんなことから、仕事を辞めて田舎に帰省。収入はアパート収入です。今年母が急死。相続対策は何もしていなく、兄と妹で揉めています。
~兄の主張~
自分は田舎に帰る気はない。自宅とアパートを売却し、公平に妹と半分ずつわけたい。
~妹の主張~
兄夫婦は母の介護は何もしなかった。私は10年前、泣く泣く夢を諦めて帰省。いまさら東京へ戻っても何もできない。親が残してくれたアパートの家賃と現在のパートを継続して田舎で暮らしていきたい。兄には、預貯金等を渡したい。そうでないと公平ではない。
立場が変わると「公平」の価値観が変わってしまいます。昭和22年まで続いた「家督相続」では、通常長男1人が相続していました。それでは不公平ということで、「平等相続」に変りました。
しかし、これこそが争族の原因。やはり「役割相続」をしていくことが重要です。残された遺族が役割をジャッチするのは困難なもの。だから、生前に遺言書を残し、付言を添えることが大切となるのです。
被相続人(亡くなった人)が
「自宅は、老後一緒に暮らしてくれた娘に。一人で暮らすのが心細かったから、大変助かりましたよ。売るもよし、住み続けるのもよし、狭い家だから好きにしてください。また、仕事も辞めさせてしまったから、せめてもの足しに小さなアパートですが継いでください。預金の1000万円は息子に。自宅とアパートを妹に渡すのを許してね。それぞれに保険は加入していますから、そこから相続税と葬儀費用は折半してください。兄妹仲良く、力を合わせて暮らしてくださいね」
そんな一言が残されているだけで、争うことなく相続が終わるのです。
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公正証書遺言
『遺言書』にはいくつか種類があります。一般的な3つの形式について説明します。遺言書には、ルールがあるのです。
●自筆証書遺言:本人が遺言書を作成する形式
●公正証書遺言:公証人に遺言書の執筆の保管を依頼する形式
●秘密証書遺言:公証人に遺言書の存在証明だけを依頼する形式
「秘密証書遺言」は(作成は公証役場だが、亡くなるまでは秘密を守りたい、という場合に採用)実務上はあまり使用されていないようです。
一番多いのは「自筆遺言」です。本人が書き、印鑑を押せば良いので気楽に作成できますが、書き間違えや曖昧で無効となるケースがとても多いのです。2019年から、財産目録についてはPCでの作成が認められることになりましたが、1枚ごとに印鑑を捺印する等の、規約があります。
せっかく作成したにも関わらず、いざという時に「無効」では困ります。そこで安心なのは「公正証書遺言」です。公証人が、法律の規定どおりに書類を作成してくれるので、書き間違えや漏れを防ぐことができます。
ただし、難点となるのは、財産額に応じて費用がかかることです。また、多くの方は士業の方に依頼するので費用もかさみます。しかし、個人でも、公証役場に行って作成することが可能なのです。
公証役場へ行く準備
公正証書遺言を書くことを決めたら、下記の段取りをします。
(1)遺言内容を考える
(2)財産の目録を作る
(3)公証役場へ連絡して予約をとる(公証役場はどこへ行っても良い)
(4)予約の際に持ち物の確認をする
~通常の持ち物~
・遺言者本人の確認資料(運転免許証・住基カード写真付き等)
・遺言者と相続人の続柄がわかる戸籍謄本
・財産を相続人以外に渡す場合は、渡す人の住民票
・財産の中に不動産がある場合は登記簿謄本・固定資産税証明証・都市計画税納税書中の課税証明書
・証人2名、予定者の名前・住所・生年月日・職業がわかるメモ
ちなみに証人は、未成年者や推定相続人(相続人になる可能性のある人)とその配偶者及び直系血族、公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人、これらの人はなれません。知人や私共相続診断士・弁護士などの専門家にも依頼はできます。
(5)公証役場へ行く
わからないところは公証人の方が相談にのってくれます。ですから一度で済むとは思わず、回数通うつもりでいてください。だからこそ、安心して任せられるのです。相談料は毎回かかりません。最終的に財産額に応じて、手数料は発生します。
「公正証書」は相続に限らず、「離婚協議書」も作成できます。公正証書は効力が大きく、相続の場合は「遺言書」となり、法律で定めた相続割合より優先されるとお伝えしました。
「離婚協議書」として公正証書を作成した際は、養育費などの支払いを怠ると、裁判所での判決を待たずに強制執行手続きに移ることができます。手続きを面倒がらずに、公正証書にすることで、安心と笑顔が手に入ります。しっかり準備をしてください。
執筆者:寺門美和子(てらかど みわこ)
ファイナンシャルプランナー、相続診断士