父が亡くなり、実家の通帳から生活費を引き出しました。家族のお金でも、「遺産分割」が終わる前に使うと問題になるのでしょうか?
そんなとき、親の遺産について「どうせ自分は相続人だし、少しくらい使ってもよいのでは」と考えてしまう人もいるかもしれません。そこで今回は、遺産分割が終わる前に遺産のお金に手を付けてしまうことの問題点について解説します。
行政書士
◆お問い合わせはこちら
https://www.secure-cloud.jp/sf/1611279407LKVRaLQD/
2級ファイナンシャルプランナー
大学在学中から行政書士、2級FP技能士、宅建士の資格を活かして活動を始める。
現在では行政書士・ファイナンシャルプランナーとして活躍する傍ら、フリーライターとして精力的に活動中。広範な知識をもとに市民法務から企業法務まで幅広く手掛ける。
遺産分割前の預貯金引き出しは要注意
ある方が亡くなった後、その方の預貯金は相続の対象となる遺産です。そして、遺産分割が終わるまでは相続人同士の間でいわば共有状態にある財産となります。つまり、原則として、遺産分割前の遺産は、たとえ自分が相続人だからといって自由に使ってよいものではないということです。
実際、銀行をはじめとした金融機関も、口座を保有している方の死亡を把握すると、相続時のトラブル防止のため、その方の口座を原則凍結します。しかし、「親が亡くなったけど、遺産分割前にATMで親の口座のお金を引き出せた」といったような事例が見受けられます。
こういった行為は、遺産が相続人全員の共有財産として扱われる点や、金融機関が相続発生後に口座を凍結する運用を行う点などを踏まえると、遺産分割が確定する前に安易に引き出しを行うことは避けるべきといえるでしょう。
一定の理由のためなら、直ちに「不正」となるとは限らない
とはいえ、遺産分割前の引き出しが直ちに不正となるというわけでもありません。それは、「相続預貯金の払戻し制度」を利用した場合です。
この制度は、相続人が今後の生活費や葬儀費用、相続債務の弁済といった理由からお金が必要となった際、遺産分割前でも預貯金の払戻し(引き出し)を受けられる制度です。
引き出せる金額は、家庭裁判所の判断を経ることなく同一の金融機関からの場合は上限150万円まで、各相続人が単独で遺産を引き出すことができます。
一方で、家庭裁判所を経ることで全額ないし一部を引き出すこともできます。しかし、具体的な金額や引き出しの可否を含め、手続きは煩雑となり、結論が出るまでに一定の時間がかかる点に注意が必要です。
相続人間では引き出した事実よりも使い道が重要なこともある
実際の相続においては、遺産を引き出した事実そのものよりも、何に使ったのかが曖昧なことが争いの原因となることも珍しくはありません。
引き出した理由が、葬儀費用、死亡直後の医療費支払い、公共料金など、客観的に必要性を説明しやすい支出であれば、相続人の間でも理解しやすく、問題とならないこともあるでしょう。
しかし、それでも引き出した理由や状況についてきちんと説明できなければ、争いに発展する可能性は十分にあり得ます。例えば、金額が20万円、30万円、はたまたそれを大きく超えて100万円、150万円など大きな金額であればあるほど、より納得できるしっかりとした説明が求められるはずです。
そのため、相続預貯金の払戻し制度を使うかどうかに関係なく、相続財産である故人の預金を使う場合は、「家族のお金だから大丈夫」と考えるのではなく、少なくとも使途を記録したうえで、それに関連する領収書や明細をきちんと残しておくことが大切です。
まとめ
父親が亡くなった後、実家の通帳から生活費を引き出したとしても、それだけで直ちに不正利用と決まるわけではありません。相続預貯金の払戻し制度を使うことで、制度上は全く問題なくお金を引き出すことができます。
ですが、それと相続人間の感情問題は切り分けて考える必要があります。死亡後の預貯金はあくまで相続財産であり、相続財産は遺産分割前においては相続人間の共有財産です。
「家族のお金だから自由に使ってよい」とは考えないほうが安全で、遺産分割前であっても、できる限り相続人間で話し合って引き出すようにした方が無難でしょう。
出典
一般社団法人全国銀行協会 遺産分割前の相続預金の払戻し制度
執筆者 : 柘植輝
行政書士
