父の不動産を姉妹で相続することになったのですが、妹は相続放棄する予定です。維持費や相続税などはすべて姉である私が負担することになりますか?
本記事では、相続放棄した場合の費用負担について、分かりやすく解説します。
CFP(日本FP協会認定会員)
1級FP技能士(資産設計提案業務)
住宅ローンアドバイザー、住宅建築コーディネーター
未来が見えるね研究所 代表
座右の銘:虚静恬淡
好きなもの:旅行、建築、カフェ、散歩、今ここ
人生100年時代、これまでの「学校で出て社会人になり家庭や家を持って定年そして老後」という単線的な考え方がなくなっていき、これからは多様な選択肢がある中で自分のやりたい人生を生涯通じてどう実現させていくかがますます大事になってきます。
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相続放棄をすると不動産の「維持費」はどうなる?
相続放棄をした人は、法律上「初めから相続人ではなかった」ものとみなされます。そのため、不動産に関する金銭的な義務は負わなくなります。
固定資産税や管理費の支払い義務
今回のケースでは、妹さんが相続放棄を完了すると、その不動産の所有権はお姉さん1人に集約されます。その結果、以下の費用はすべてお姉さんが負担することになります。
図表1
| 固定資産税・都市計画税 | 所有者として毎年納付する必要があります |
| マンションの管理費・修繕積立金 | マンションの場合、管理組合への支払いは所有者の義務です |
| 修繕費や清掃代 | 建物の老朽化に伴う修繕や、庭の草刈りなどの維持管理費用も、すべて所有者の負担となります |
相続放棄後も「保存義務」があることに注意
2023年4月の民法改正により、相続放棄をした人でも、そのときに「現に占有(居住など)」していた場合は、次の管理者に引き渡すまでの間、財産を保存する義務を負うことになりました。
例えば、妹さんがその家に住んでいたまま相続放棄をした場合、お姉さんが管理を始められる状態になるまでは、妹さんにも適切に保存する義務が残ります。完全に「関係ない」と言い切れないケースがある点には注意が必要です。
「相続税」の負担は1人で倍になるのか?
相続税については、相続放棄した人には、原則として課税されません。そのため、今回のようなケースでは「妹が放棄したら、姉の私が払う相続税が2倍になるのでは?」と不安になるかもしれませんが、相続税の計算には少し特殊なルールがあります。
基礎控除額は「放棄がなかったもの」として計算
相続税には「ここまでは税金がかからない」という基礎控除があります。
基礎控除の計算式 3000万円+(600万円×法定相続人の数)
ここで重要なのは、「相続放棄をした人がいても、法定相続人の数にカウントできる」という点です。
今回のケースでは、妹さんが相続放棄しても、法定相続人の数は「2人(姉と妹)」として計算します。そのため、基礎控除額は4200万円(3000万円+600万円×2)のまま維持され、非課税枠が減ることはありません。
実際の税負担額はどう変わる?
基礎控除は変わりませんが、「実際に納める税金の額」は増える可能性があります。相続税の総額(家族全体で払うべき税金の合計)は変わりませんが、妹さんが財産を一切受け取らないため、その分の財産をお姉さん1人が相続することになります。結果として、お姉さんが受け取る財産額が増え、1人で支払う相続税額も大きくなるという仕組みです。
費用負担を減らすための選択肢
不動産を単独で相続すると、固定資産税や修繕費などの負担が長期的に続きます。負担が大きいと感じる場合は、次のような選択肢も検討できます。
売却して現金化する
相続後に不動産を売却すれば、維持費の負担をなくすことができます。特に空き家の場合は早めの判断が有効です。
共有で相続する
妹が完全に放棄せず、共有名義にすることで費用負担を分ける方法もあります。ただし将来的な売却時に合意が必要となる点には注意が必要です。
相続土地国庫帰属制度の利用
利用条件はありますが、不要な土地を国に引き取ってもらえる制度もあります。維持が困難な場合の選択肢の1つです。
トラブルを防ぐために
兄弟姉妹が相続放棄を検討している場合、以下のポイントを事前に話し合っておくとよいでしょう。
図表2
| 他の財産とのバランス | 不動産だけを放棄して、預貯金だけを相続することはできません。相続放棄は「すべての財産」を放棄することを意味します。 |
| 手続きの期限 | 相続放棄は「相続の開始を知った時から3ヶ月以内」に家庭裁判所へ申し立てる必要があります。期限を過ぎると単純承認(すべて相続する)とみなされるため、早めの行動が不可欠です。 |
| 不動産の活用・処分計画 | 1人で全ての維持費を負担するのが難しい場合は、相続後に売却するのか、賃貸に出すのかなど、具体的な出口戦略を立てておきましょう。 |
まとめ
相続放棄をした人は、原則として不動産に関する維持費や税負担は発生しません。その代わり、実際に相続する人がすべての費用を負担することになります。また、相続する人が実際に支払う相続税の負担も増える可能性があるため注意が必要です。
不動産の相続は、後から「こんなに維持費がかかるとは思わなかった」というトラブルが多い分野です。もし負担が重すぎると感じる場合は、不動産売却を前提とした相続や、専門家への相談も検討してみましょう。
出典
国税庁 No.4152 相続税の計算
e-Gov法令検索 民法940条(相続の放棄をした者による管理)
法務省 相続土地国庫帰属制度の概要
執筆者 : 小山英斗
CFP(日本FP協会認定会員)
