母(70代)が相続対策のつもりで1000万円ほどタンス預金していることが分かりました。「手元に置いておけば税務署にバレない」と言っているのですが、本当に税務署には把握されないのでしょうか?
悪意がなくても結果的に「申告漏れ」とみなされ、重いペナルティーが科される場合も少なくありません。本記事では、税務署がタンス預金を把握できる仕組みと、今すぐ実践すべき正しい相続対策について解説します。
CFP(日本FP協会認定会員)
1級FP技能士(資産設計提案業務)
住宅ローンアドバイザー、住宅建築コーディネーター
未来が見えるね研究所 代表
座右の銘:虚静恬淡
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人生100年時代、これまでの「学校で出て社会人になり家庭や家を持って定年そして老後」という単線的な考え方がなくなっていき、これからは多様な選択肢がある中で自分のやりたい人生を生涯通じてどう実現させていくかがますます大事になってきます。
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なぜバレる? 税務署がタンス預金を把握できる仕組み
国税庁の「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」によれば、申告額が過少もしくは無申告であると想定される事案について、相続税の実地調査は9512件、追徴税額は824億円に上っています。
また、申告漏れ財産のうち現金・預貯金などの総額は837億円で、全体の29.1%を占め、その他財産の43.3%に次いで多くなっています。現金は「見つかりにくい財産」ではなく、「申告漏れが多く重点的に見られやすい財産」といえます。
なぜ隠したはずのタンス預金が発覚するのか、その具体的な仕組みを見ていきましょう。
過去10年以上の口座履歴を徹底調査
税務署は、亡くなった人(被相続人)だけでなく、必要に応じてその家族(相続人)の銀行口座についても調査を行います。過去10年以上にわたり、不自然な大口の引き出しや、収入に見合わない預金の増減がないかを確認します。
使った形跡がないのに「口座から消えた1000万円」があれば、税務署は「手元に保管されているはずだ」と目星を付けることができます。
KSKシステム(国税総合管理システム)による資産把握
国税庁の「KSKシステム」には、過去の所得税の確定申告データや不動産売買、生命保険の受け取りといったあらゆる資産情報が蓄積されています。こうしたシステムにより、税務署は所得や資産情報などを基に資産状況を把握し、申告内容との整合性を確認しています。
その結果、実際の相続税申告額が大幅に少ない場合、タンス預金などの隠し資産が疑われます。
なお、令和8(2026)年度にはKSK2(次世代国税総合管理システム)の本格導入も予定されています。
実地調査や反面調査による「現物の発見」
税務署が自宅に出向き「実地調査」が始まると、家の中のあらゆる場所が確認されます。金庫や引き出しはもちろん、クローゼットや床下、仏壇の奥まで調べられる場合も少なくありません。
家族への質問(ヒアリング)を通じて、生活費の出どころや生前の現金の扱い方から、タンス預金の存在が露呈することも珍しくありません。
なお、「反面調査」とは、税務調査の対象者本人ではなく、取引先をはじめとする関係先に対して行われる調査のことです。
タンス預金を「未申告」にした場合の重いペナルティー
タンス預金を相続財産に含めずに申告した場合、税務署から「意図的な財産隠し」と判断される可能性が極めて高くなります。その結果、本来支払うべき税金に加えて、以下のような重い罰則(附帯税)が科されます。
加算税と延滞税による税負担の激増
税務署の指摘によって未申告が発覚した場合、本来払うべきだった不足分の税金(追加本税)に加え、最大40%の「重加算税」が科されることがあります。
さらに、本来の納税期限からの遅延利息にあたる「延滞税」も日割りで加算されます。結果として、普通に申告して納税するよりも、はるかに多くの税金を支払う羽目になります。
税務調査の対象期間が最長7年に延長
通常の相続税の時効(除斥期間)は5年ですが、意図的な隠ぺいや偽装があったと判断された場合、その期間は7年に延長されます。
つまり、相続が発生してから長期間が経過したあとでも、突然税務署から連絡が届き、過去にさかのぼってペナルティーを科されるリスクが残り続けます。
親のタンス預金が見つかったときの正しい相続対策
もし70代の母親が1000万円ものタンス預金をしていることが分かったら、放置するのではなく、生前のうちに「合法的な資産移転」や「透明性の確保」を進めることが最善の策です。
また、相続税には基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人の数)があります。法定相続人の人数によっては、1000万円程度の現金であっても相続税がかからない場合もあります。
まずは、現状の財産総額と相続税の課税対象額を正確に試算したうえで、本当に対策が必要かどうかを見極めることが重要です。そのうえで、タンス預金に対して対策が必要な場合の、今からできる具体的な対策を3つ紹介します。
対策1:年間110万円の基礎控除を活用した生前贈与
最もシンプルで効果的な方法は、贈与における暦年課税制度の活用です。贈与税は、年間110万円までであれば非課税となります。タンス預金から毎年少しずつ子や孫に贈与することで、将来の相続財産を合法的に減らすことができます。
ただし、贈与の事実を残すために「贈与契約書」を作成し、現金手渡しではなく一度口座を介して振り込むことが重要です。
また、親が60歳以上であれば、「相続時精算課税制度」を選択する方法もあります。相続時精算課税制度は、選択した「贈与者」(60歳以上の父母や祖父母)と「受贈者」(18歳以上の子や孫)間に適用されます。この相続時精算課税にも、年間110万円までの基礎控除があります。
暦年課税制度では、相続が始まる前の7年間(※)に受けた生前贈与について、年間110万円以下であっても、相続財産に加えて相続税を計算する「生前贈与加算」が適用されます。
一方、相続時精算課税制度を選んだ場合は、年間110万円以下の贈与について、相続時に相続財産へ加算する必要がありません。
ただし、相続時精算課税制度は、一度利用すると、それ以降の選択した贈与者と受贈者間の贈与は全て相続時精算課税制度が適用されます。あとから暦年贈与制度に戻すことはできないことに注意が必要です。
(※)令和6年1月以降の暦年課税贈与から、生前贈与加算に係る加算期間が「3年」から「7年」に延長されています。ただし、2024~2030年の7年間は経過措置の期間とされており、生前贈与の加算対象となる期間は段階的に広がります。
対策2:生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人の数)の活用
現金を、生命保険の「一時払終身保険」などに形を変える対策も有効です。相続人が受け取る生命保険金には、「500万円×法定相続人の数」という生命保険金の非課税枠が設けられています。
例えば法定相続人が2人の場合、1000万円までは非課税で家族へ残すことができます。タンス預金の一部を保険へ回すことで、相続税の負担軽減につながる可能性があります。
対策3:タンス預金を口座に戻し「お金の出どころ」を明確にする
タンス預金については、母親本人の銀行口座に戻すことを検討することも選択肢の一つです。
口座に戻すことで、将来の相続時に「いつ、どこから用意したお金か」を税務署に説明しやすくなります。通帳に記録を残し、過去の給与や年金の蓄積であることを証明できるようにしておくことが最も有効な自衛策となります。
まとめ
タンス預金は、税務署の網羅的な調査によって高い確率で把握されてしまうため、相続対策としては極めてリスクが高い行為といえます。1000万円という資産を未申告のまま放置しておくと、将来的に重加算税などの重いペナルティーが科され、大切な家族に大きな経済的かつ精神的負担を強いることになりかねません。
母親が「良かれと思って」行っているタンス預金であっても、まずはその危険性を丁寧に伝え、生前贈与や生命保険の活用といった合法的な方法へ切り替えていくことが重要です。
家族間でお金について話し合い、必要に応じて税理士といった専門家へ相談することも含め、透明性の高い正しい相続対策を進めていきましょう。
※2026/08/20 本文を修正いたしました。
出典
国税庁「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」
国税庁「II 納税者サービスの充実と行政効率化のための取組」
国税庁「No.4402 贈与税がかかる場合」
国税庁「No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」
国税庁「No.4103 相続時精算課税の選択」
執筆者 : 小山英斗
CFP(日本FP協会認定会員)
