兄から「50万円で土地の持ち分を譲って」と言われ了承しました。その後、不動産会社に「800万円の価値がある」と言われたのですが、今から断ることはできるのでしょうか?
結論から言うと、不動産の取引においては、正式な「契約書」を作っていない口約束の段階であれば、今からでも安全に断ることができる場合があります。また、仮に書類にサインしてしまっていても、勘違いや嘘を理由に取り消せる可能性があります。さらに、相場より安すぎる取引は兄側に思わぬ税金がかかるリスクもあります。
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まだ「契約書」にハンコを押していなければ、断れる可能性がある
「口約束でも契約は成り立つ」と言われることがあります。
民法522条1項では、「契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示に対して相手方が承諾をしたときに成立する」こととなっています。また、同条2項では、「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない」とされています。
つまり、民法上は「口約束でも契約は成立する」と言えます。
しかし、不動産取引においてはこれが当てはまらないことがあります。
土地や建物の売買は、金額が非常に高く、責任や引き渡しの条件も複雑です。そのため、裁判や実務では、お互いが正式な「売買契約書」を作成して署名やハンコ(捺印)を押すまでは、契約はまだ成り立っていない(保留されている)と判断される場合があります。
つまり、お兄さんから「50万円で譲って」と言われて「いいよ」と返事をしただけで、まだ正式な契約書に署名捺印をしていないのであれば、契約は成立していないと考えられることがあります。
したがって、今から「やはり価値が違うのでこの話はなかったことにしたい」と断っても、売買契約を前提とした違約金などのペナルティを支払う必要は原則としてありません。
50万円で譲ると兄側に贈与税が生じる可能性もある
税金の面でも注意が必要です。
国税庁の「タックスアンサー No.4423」によれば、個人から財産を「著しく低い価額」で譲り受けた場合、時価と実際に支払った金額との差額を、売主から買主への贈与とみなすことがあるとしています。
仮に、その土地持ち分の通常の取引価額が本当に800万円であり、兄へ50万円で譲ったとすると、差額は750万円です。実際に「著しく低い価額」に当たるかは個別判断ですが、兄側に大きな贈与税の問題が生じる可能性があります。
なお、不動産会社から「800万円で売れそう」と言われただけで、税務上の時価が必ず800万円になるわけではありません。共有持ち分は、土地全体より売りにくいこともあるため、どのような条件で800万円という評価になったのかも確認しましょう。
兄弟間だから安く売っても税金は関係ない、というわけではありません。
もしも書類にサインしてしまっていた場合は?
もし、お兄さんに急かされてすでに何らかの合意書や契約書にサインをしてしまっていた場合でも、まだ諦める必要はありません。
民法95条と96条では、契約の前提となる重大な勘違い(錯誤)があったり、お兄さんから「価値はほとんどない」と嘘の説明(詐欺)をされて騙されていたりした場合は、「意思表示」を取り消すことが認められています。
法務省は「当事者の意思表示の合致によって契約は成立する」としています。つまり、錯誤や詐欺に当てはまる場合、後からでも契約を取り消すことができます。
今回、「800万円の価値があることを知らず、ただの安い土地だと思い込んで50万円で承諾した」というのは、売り主にとって重大な勘違いです。
ただし、この「勘違いによる取り消し」を認めてもらうには、兄との間で「大した価値がない土地だから50万円で譲る」という前提が、事前に言葉や文章でやり取りされていたことがとても重要になります。
また、お兄さんが真実を知りながらあなたに嘘をついていたのであれば、それはルール違反(詐欺)にあたるでしょう。
すでに登記やお金のやり取りが進みかけている場合でも、これらの理由を主張して、合意自体を白紙に戻す(取り消す)ための交渉や手続きを行うことができます。まずはこれ以上手続きを進めず、お兄さんとのやり取りのメッセージ(LINEやメールなど)を大切に保存しておきましょう。
まとめ
お兄さんから持ち分を50万円で譲ってほしいと言われ、一度は了承してしまったとしても、不動産取引において正式な売買契約書を交わしていない段階であれば、今からペナルティなしで安全に断ることができる場合があります。
また、仮に売買を進めてしまうと、実際の時価との差額に兄自身が高額な贈与税を課されるという、税金トラブルも起こりえます。さらに、もし仮に書面を作ってしまっていても、勘違いや嘘を理由に契約の取り消しを求める余地があります。
身内同士の不動産トラブルは感情的になりやすいため、まずは代金の受け取りや登記などの手続きをすべてストップさせましょう。そのうえで、兄とのメッセージ履歴などを保存し、不動産問題に詳しい弁護士や税理士などの専門家に相談して間に入ってもらうのが最も安全で確実な解決策です。
出典
e-Gov 法令検索 民法
国税庁 No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき
法務省 意思表示に関する見直し
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー

