父の相続で受け取ったお金を、家計管理のため妻名義の口座へ移しました。夫婦の生活費として使うお金ですし、家計管理のために移しただけなのですが、それでも「贈与」とみなされるのでしょうか?
単に妻が家計管理を代行し、実質的には夫のお金として管理している場合と、「このお金は自由に使ってよい」と妻へ財産そのものを渡した場合では意味が違います。
ただし、高額な相続財産を妻名義の口座へ長期間置くと、後から誰の財産なのか分かりにくくなります。税務上のトラブルを防ぐには、相続したお金と生活費を分けて管理するのが安全です。
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父から相続したお金は夫婦共有ではなく相続した本人の財産
結婚すると、夫婦の預金はすべて自動的に二人の共有財産になると思う人もいます。
しかし、民法では、夫婦の一方が婚姻前から有する財産や、婚姻中自己の名で得た財産について、それぞれの財産として扱う仕組みがあります(第762条第1項)。父から相続した預金についても、夫が相続したのであれば、まず夫に帰属する財産です。
そのため、たとえば夫が父から1000万円を相続し、その1000万円を妻へ「あげる」として妻自身の財産にすれば、夫婦間であっても贈与税が問題になります。
贈与税(暦年課税)には年間110万円の基礎控除がありますが、「その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の価額の合計」が110万円を超える場合、その超えた額に贈与税がかかることになります。
つまり、夫婦だからといって、自由に何千万円でも名義を移せるというわけではありません。
一方、「家計簿を妻が付けているので管理だけ任せた」というケースは、妻へ財産をあげた場合とは事情が違います。重要なのは口座名義だけではなく、誰が実質的にそのお金を所有し、自由に処分できる状態だったかです。
必要な生活費として妻へ渡すお金には贈与税がかからない
夫婦には互いに生活を支える関係があるため、通常必要な生活費として渡したお金には、原則として贈与税はかかりません。たとえば、毎月30万円を家賃、食費、光熱費、子どもの生活費などに使うため妻の家計口座へ振り込み、その月の生活費として支払っている場合です。
こうした通常必要な生活費を、その都度直接使うのであれば、贈与税を過度に心配する必要はありません。ただし、「生活費として渡した」と言えば、いくらでも非課税になるわけではありません。
夫が相続した1000万円を一度に妻の口座へ移し、そのうち年間300万円しか生活費に使わず、残り700万円を妻名義の定期預金や投資に回した場合は注意が必要です。
国税庁は、生活費として受け取ったお金でも、それを使わず預金したり、不動産や株式などの購入資金にしたりした場合には贈与税がかかるとしています。
「管理を任せただけ」ならその事実を残しておく
税務上は、口座名義だけではなく実際の管理状況が重要になります。
国税不服審判所の事例でも、家族名義の預金について、誰が資金を出したか、通帳や印鑑を誰が管理していたか、名義人が自由に処分できたかなどを確認し、実質的な所有者を判断しています。
そのため、今回が本当に「妻への贈与」ではなく「夫のお金を妻が家計管理しているだけ」なら、分かるようにしておきましょう。たとえば、相続時の遺産分割協議書、父の口座から夫が相続したことが分かる記録、妻口座への振込記録などを保存します。
ただし、一番分かりやすい方法は、相続財産そのものは夫名義の口座で保管し、妻が管理する家計口座には毎月必要な生活費だけを移すことです。
すでにまとまった金額を妻口座へ移しているなら、自由に妻の財産として渡したわけではないことを整理し、必要であれば夫名義の口座へ戻すことも検討しましょう。金額が大きい場合は、自己判断で何度も資金を動かす前に税理士へ確認すると安心です。
まとめ
父から相続したお金を妻名義の口座へ振り込んだだけで、必ず妻への贈与と判断されるとは限りません。家計管理を妻へ任せただけで、実質的に夫が所有する財産であるケースも考えられます。
一方、妻がそのお金を自分の財産として自由に貯金、投資、買い物へ使えるようにした場合は、夫婦間の贈与とみなされる可能性があります。
通常必要な生活費をその都度妻へ渡して使う場合は贈与税がかからないのが基本です。相続財産は夫名義の口座に残し、家計口座には必要額だけ移す方法にすれば、財産の帰属が分かりやすくなります。
すでに多額のお金を移している場合は、相続資料や入出金記録を残し、税務上の扱いを確認しておきましょう。
出典
e-Gov 法令検索 民法
国税庁 No.4402 贈与税がかかる場合
国税庁 No.4405 贈与税がかからない場合
国税不服審判所 平19.10.4、裁決事例集No.74 255頁
国税不服審判所 令和3年7月12日裁決
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
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