自筆証書遺言の問題が解決! 法務局で保管制度が始まる

配信日: 2020.07.23

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自筆証書遺言の問題が解決! 法務局で保管制度が始まる
2020年7月10日から、法務局で自筆証書遺言の保管制度が始まりました。今まで自筆証書遺言は、相続人による意図的な隠ぺいや改ざんなどの問題がありました。
 
また、家族が遺言書の存在を知らなかったために、せっかく書いた遺言書が発見されず遺産分割されてしまうといった、残念なケースもありました。
 
今回は、自筆証書遺言の法務局での保管制度について、そのメリット・デメリット、および利用する場合の注意点についてご説明します。
植田周司

執筆者:植田周司(うえだ しゅうじ)

CFP(R)認定者、一級ファイナンシャルプラン二ング技能士、円満相続遺言支援士(R)

外資系IT企業を経て、FPとして「PCとFPオフィス植田」を起業。独立系のFPとして常に相談者の利益と希望を最優先に考え、ライフプランをご提案します。
お客様に「相談して良かった」と言っていただけるよう、日々努力しています。

自筆証書遺言の保管制度概要

自筆証書遺言は自宅で簡単に作成できるのは良いのですが、隠ぺいや改ざん、紛失などの危険がありました。また家庭裁判所で、法定相続人を集めて遺言書を確認するという検認作業も必要です。
 
さらに、自分1人で作成するため、遺言書の形式不備により無効となってしまう場合もありました。これらの問題点を改善するため、法務局での保管制度が始まります。
 
図1は法務局での保管制度の概要です。遺言者が遺言書を法務局で保管しておくことで、相続人等が遺言者の死亡後に、法務局に保管されている自筆証書遺言を閲覧することができるようになります。
  
図1:自筆証書遺言保管制度概要


出典:法務省ホームページより抜粋

自筆証書遺言の保管制度のメリット

・遺言書の形式を受付時に確認

法務局での保管制度を利用すると、遺言書の形式(日付、署名、捺印)は受付時に確認されますので、形式不備で無効になることはありません。

・遺言書を安全に保管

原本が法務局に保管されていますので、偽造・改ざん・隠ぺいの心配がありません。

・死亡時に遺言書が保管されていることを通知できる

申請時に「死亡時の通知の申出」をしておくと、遺言者の死亡届により市区町村役場から法務局に通知され、法務局は指定された人(相続人、受遺者、遺言執行者などのうち1名だけ)に遺言書が保管されていることを通知します。
 
このことにより、指定された人は法務局に遺言書が保管されていることを知ることができます。

・遺言書の照会があると相続人全員に通知される

 相続人等は遺言書の内容の証明書を取得する時に、法定相続情報一覧図の写し※(または遺言者のすべての戸籍(除籍)謄本と相続人全員の戸籍謄本と住民票)を提出する必要があります。
 
法務局は申請があると、そのことを相続人全員に通知します。誰かに抜け駆けや隠ぺいされる心配がありません。
 
※平成29年5月29日に創設された法定相続情報証明制度による法定相続人の一覧図

・検認作業が不要

自筆証書遺言は、家庭裁判所で検認作業が必要ですが、今回の保管制度を利用する場合は、それが不要になるのも大きなメリットです。
 
以下の表1は、自筆証書遺言と公正証書遺言の比較ですが、今回の保管制度は自筆証書遺言の問題点のほとんどをカバーしていることがわかります。
 
 表1: 自筆証書遺言と公正証書遺言の比較(筆者作成)

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自筆証書遺言の保管制度のデメリット

・代理が認められない

この制度を利用するためには、本人が法務局に行って手続きをする必要があります。病気などで法務局に行くことができない場合は利用できません。

・遺言書の内容は審査されない

法務局では自筆証書遺言の形式は確認してくれますが、その遺言書の内容までは審査しません。したがって、遺言書の内容に問題がある場合は、遺言書どおりに遺産分割できない場合があります。
 
公正証書遺言の場合は、公証人が作成しますので、そのような心配がありません。もし遺言書の内容に不安がある場合は、公正証書遺言で作成するか、相続に詳しい専門家に手伝ってもらうことを検討してください。

自筆証書遺言の保管費用

例えば4500万円の遺産を、配偶者に2500万円、2人の子供に1000万円ずつ、という遺言書を作成する場合の費用を比較してみましょう。法務局で自筆証書遺言を保管する場合の申請費用は3900円です(表2参照)。
 
公正証書遺言では公正証書遺言作成費用として6万8000円(配偶者2万3000円+子供2人1万7000円×2+1万1000円)必要となります(表3参照)。さらに証人を依頼する場合は、その費用なども追加で必要です。
 
自筆証書遺言の保管制度のほうが、公正証書遺言と比較して随分安いことがわかります。
 
表2:自筆証書遺言書保管制度の手数料 


出典:法務省ホームページより抜粋 (令和2年4月20日時点)
 

表3:公正証書遺言の作成費用


※手数料は財産を譲り受ける人ごとに計算し、合計します。
※財産の総額が1億円未満の場合は、1万1000円加算されます。
※上記以外に証人2人を依頼する場合は、その費用が必要です

保管制度を利用する場合の注意点

・遺言書が法務局に保管されていることを遺族に確実に伝わるようにする
法務局で遺言書の保管申請時に「死亡時の通知の申出」をしておくことで、指定した人に法務局に遺言書が保管されていることを伝えることができます。
 
この申し出は任意ですが、必ず申請することをお勧めします。また、法務局に遺言書を保管していることを、相続人や遺言執行人に知らせておきましょう。
 
エンディングノートに書いておくことも良いでしょう。保管されていることを誰も知らないと、せっかく作成した遺言書が無駄になってしまいます。

 

・保管できる法務局
保管できる法務局は、遺言者の住所地、もしくは本籍地、または遺言者が所有する不動産の所在地です。保管申請は本人が直接法務局に行く必要がありますので、自分の住んでいる住所の法務局が良いでしょう。
 
自筆証書遺言書保管制度の手数料一覧・遺言書保管所一覧・遺言書保管所管轄一覧(※1)

 

・各種申請書類
申請関係書類、および遺言書は所定の様式がありますので、以下の法務省のホームページを参照ください。
 
法務局における自筆証書遺言書保管制度について(※2)

 

・封印しないで提出する
自筆証書遺言を法務局で保管する場合は、遺言書の様式を確認し、スキャンして電子ファイルで保存するために封をせずに提出します。

 

・本人以外は閲覧できない
遺言者が死亡するまで本人以外は閲覧できません。

 

・遺言書の内容は審査されない
デメリットでもご説明しましたように、遺言書の記載内容は審査されないため、間違った内容や矛盾した内容であってもそのまま保管されます。

 

・遺言書の書き直し
遺言書の書き直しは、遺言書の原本を返してもらって(撤回して)、それを書き直して再度預かってもらうことになります。その都度保管申請の費用がかかります。なお、遺言書原本を返してもらっても、新しい遺言書を作成するまでは、その原本は有効です。

まとめ

残された家族が安心して仲良く暮らすために、遺言書の重要性はますます高くなっています。今回の保管制度で自筆証書遺言の問題が大幅に解消されました。公正証書遺言は高額な費用がかかるため「そこまでは」と考えていた方は、ぜひ法務局の保管制度をご検討ください。
 
(※1)法務省「自筆証書遺言書保管制度の手数料一覧・遺言書保管所一覧・遺言書保管所管轄一覧」
(※2)法務省「法務局における自筆証書遺言書保管制度について」
 
執筆者:植田周司
CFP(R)認定者、一級ファイナンシャルプラン二ング技能士、円満相続遺言支援士(R)


 

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