人口減少時代 相続事情も大きく変化
配信日: 2017.12.27 更新日: 2019.01.10
相続件数は増加傾向に
日本における高齢化問題で、大きく影響しているのは世代として大きな塊となっている、いわゆる「団塊の世代」です。この世代は現在70歳に到達しており、相続事情でいえば、長寿の親からこれから相続予定の人もいれば、自分が亡くなった後に子や孫に相続をさせることを考えて人もいると思います。
高齢者の数自体が増加は、それだけ相続機会が多くなっており、相続件数と相続不動産の増加を意味しています。
相続件数が増加しても、そのまま相続した人たちが持ち続ければ問題はないのですが、事情により手放そうとする人が増えていることも事実です。とくに親とは別とところに居住している人にとっては、これまで親が住んでいた土地や住宅を処分した方が賢明と考えると思います。
少子化の進行は兄弟も少ないケースが多く、子はすでに住まいが決まっており、親が住んでいた土地への関心は薄れています。仮に代々続いた由緒ある土地でも、その傾向は顕著です。
その結果、相続不動産を手放そうとする人が増え、地価の低下傾向に拍車をかけていると思えます。場合によって、今後は「投げ売り」に近い現象が起こるかもしれません。
人口減少社会の現実・地方ほど厳しい
東京湾岸地域にあるタワーマンションなどは非常に高額で取引され、現在でも購入希望者はかなり多いといわれています。都心部はこうした傾向が見られますが、首都圏でも郊外へ行くと、40年以上も経ったベッドタウンの戸建て住宅や高層住宅では空き家が目立ち、なかには所有者が特定できない土地や建物が増えているといわれています。
子のいない老夫婦が亡くなった後、そのまま放置されているのかもしれません。東京都に限ってみると、相続の件数が多いのは、都内の西部から多摩地域です。
地方の場合はもっと深刻です。街の中心部に数多くマンションなどができれば、住宅供給数が多くなり、中心部への人口の集積は進みます。
しかしその半面、少し郊外へ目を転じると様相が一変し、人口減少と過疎化が現実となってきます。いたるところに空き地や耕作放棄地が目立ちます。数年前までは、相続税対策の一環だとして、土地の評価を下げる目的でアパート建設が盛んに行われ、金融機関も融資に積極的でした。
しかし、駅から遠い地域では入居者が計算できないうえに、建設だけはかなりペースで進められたため、現在では空き家が目立ち、建設資金の回収すら厳しくなっています。金融機関も行政からの指導を受けて融資を絞り込んでいます。実際に融資を受けてアパート建設を進めた人は、あてが外れて大きな打撃を受けていると思います。
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日本特有の土地評価制度
日本の土地の評価額は、これまで実際の取引価格の7~8程度で評価されてきました。自由に分割できないことや、すぐに買い手が見つからず売りにくい、などがその根拠となっていました。そのため、金融資産で保有するよりも、土地などの不動産で保有するほうが、相続を考えた場合に圧倒的に有利だ、という観念が多くの人に浸透していました。
土地は値下がりしにくいし、税制上も有利な資産として「神話化」されてきたのです。
しかし現在のように高齢者が増え続けると、結果として相続機会も急増します。利用頻度が少ない不動産であれば、相続税や固定資産税を払わない方法を選びます。相続不動産を売却したい人が増えてくると、土地の価格は下がります。
土地評価額は実勢価格より遅れて決まるため、実際の取引価格が評価額以下に下落することも起こりかねません。
そうなれば、相続税自体が重く課せられることになり、相続自体をあきらめ、さらに売却希望者が増えるかもしれません。東京オリンピックが終了してから、この傾向は顕著になるかと心配されています。
問題解決への対策が急務
こうした相続した不動産の売却増を防ぐにためには、生前贈与に関する税制をさらに優遇し、世代間の資産移転を推進する、あるいは、海外からの不動産投資の促進や有能な労働者の受け入れを行い、不動産市場の活性化を行う必要があります。世代間の資産移転が円滑に進めれば、相続時点での多額の相続税は回避できます。
現在でも相続税に比べ贈与税は若干なりとも変更され、以前よりは贈与がしやすくなってはいます。
しかし、それでも高級住宅地の土地を贈与しようと思えば、かなりの贈与税になります。贈与税額を、相続税の体系にもう少し近づけ、資産移転の推進を促す必要があります。場合によっては固定資産税の見直しも必要でしょう。また親世代が土地の自己所有に強い意志をもったり、親と子が不仲であったりすると、こうした問題自体の解決ができなくなります。
相続に対する個人の意識改革も必要です。
海外からの投資や人材の受け入れは、人口減少が始まっている日本には是非とも必要な課題です。投資を呼び込むことで、不動産価格を維持か可能ですし、現場の労働力だけではなく、有能な技術者などの受け入れにもっと積極的になれば住宅へのニーズも高まります。
そのことで、住宅の空き室の改善などは間違いなく進むと思われます。そうすれば、相続後は即売却という考えも少なくなるかと思います。
Text:黒木 達也(くろき たつや)
経済ジャーナリスト。大手新聞社出版局勤務を経て現職