更新日: 2021.07.10 その他保険
令和3年8月より高額介護サービス費と介護保険施設の負担限度額が見直しへ
執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
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高額介護サービス費の見直し
医療保険制度の高額療養費制度と同じ仕組みが介護保険にもあります。介護サービスには要介護度に応じた支給限度額があります。この範囲で介護サービスを利用した場合、利用者負担は介護サービス費の1~3割です。支給限度額を超えた場合、全額自己負担になります。
介護サービスの利用料(介護サービス費の1~3割)が高額になると家計が大変です。これを軽減する仕組みもあり、1ヶ月の支払いが一定の上限額を超えた場合、その超えた部分について「高額介護サービス費」として還付を受けることができます。
施設サービスの居住費(滞在費)・食費や日常生活費や福祉用具の購入費、住宅の改修費は高額サービス費の対象になりませんので知っておきましょう。施設サービス等の居住費(滞在費)・食費は原則、全額自己負担です。
ただし、住民税非課税世帯の方は、施設サービス等の居住費(滞在費)・食費について、負担を軽減する制度(補足給付)があります。
今回の改正では、医療保険制度の高額療養費制度に合わせて、8月1日以降に利用されたサービス分より、現役並み所得の方の負担限度額が見直されます。
現在、現役並み所得の方の負担上限額は月額4万4400円です。改正により、負担上限額が、
(1)「課税所得380万円(年収約770万円)~課税所得690万円(年収約1160万円)未満」は9万3000円
(2)「課税所得690万円(年収約1160万円)以上」は14万100円です。
なお、医療費と介護サービス費がともに高額な場合、年間(毎年8月から翌年7月までの1年間)の医療費・介護サービス費が一定の負担限度額を超えたときに還付する「高額医療・高額介護合算制度」があります。こちらは、支給要件や負担上限額に変更はありません。
<高額介護サービス費の負担の上限額>
(出典:厚生労働省の資料(※1)より抜粋)
介護保険施設入所者、ショートステイ利用者の食費の負担限度額の見直し
介護保険施設(介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、介護医療院)に入所(滞在)すると、介護サービス費用の利用者負担分のほかに、居住費(滞在費)・食費を支払うことになります。居住費(滞在費)・食費は全額自己負担ですが、住民税非課税世帯の方については軽減措置(補足給付)があります。
令和3年8月以降、利用者負担段階の第3段階を2つの段階に区分するとともに、食費(日額)について見直しが行われます。また、助成の要件となる第1号被保険者本人の預貯金等の基準について、段階ごとにそれぞれ基準が厳格化されます。
■補足給付を受けるには預貯金等が一定金額以下であることが必要です。
改正前は、預貯金額等の基準が単身1000万円(夫婦2000万円)以下でした。改正により、
(1)「年金収入等80万円以下」が単身650万円(夫婦1650万円)
(2)「年金収入等80万円超120万円以下」が単身550万円(夫婦1550万円)
(3)「年金収入等120万円超」が単身500万円(夫婦1500万円)
となります。
預貯金等は、預貯金(普通・定期)、有価証券(株式、国債など)、金・銀など時価評価額が容易に把握できる貴金属、投資信託、現金をいいます。生命保険、自動車、宝石、絵画などは預貯金等に含まれません。
なお、借入金、住宅ローンなどの負債がある場合は預貯金等の額から差し引いて計算します。
<認定要件である預貯金額>
(出典:厚生労働省の資料(※2)より抜粋)
■施設入所時と短期入所(ショートステイ)利用時で食費の費用負担額が変わります。
「年金収入等120万円超」の施設入所者の食費(日額)の負担限度額が650円から1360円に変わります。
ショートステイ利用者の食費(日額)の負担限度額が、
(1)「年金収入等80万円以下」が390円→600円
(2)「年金収入等80万円超120万円以下」が650円→1000円
(3)「年金収入等120万円超」が650円→1300円
と増えます。
なお、居住費の負担限度額は変更ありません。
<介護保険施設入所者・ショートステイ利用者の食費(日額)の負担限度額>
(出典:厚生労働省の資料(※2)より抜粋)
まとめ
補足給付について、施設入所に際して世帯分離が行われることが多いことから、前回の改正では、配偶者の所得は世帯分離後も勘案され、配偶者が課税されている場合は、補足給付の対象外となりました。また、補足給付の支給段階の判定にあたり、非課税年金(遺族年金・障害年金)も勘案されることになりました。
この結果、特養などの入所者の負担が大幅に増え、退所を余儀なくされた方が多くいました。補足給付に関する今回の改正は低所得世帯にとって厳しい内容といえます。介護保険施設に入所したくとも経済的な理由で入所できない時代がくるかもしれません。
出典
(※1)厚生労働省「令和3年8月1日から介護保険施設における負担限度額が変わります」
(※2)厚生労働省「令和3年8月利用分から高額介護サービス費の負担限度額が見直されます」
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー。