更新日: 2019.01.10 その他保険
テレビCMでもお馴染み「ながらワーカー」を支援する為に企業が知っておくべき事
私も社会保険労務士という仕事柄、企業からよく相談を持ち掛けられますし、実際に社員の相談にものっています。両立に正答はありません。そこで、試行錯誤の状態ではあるのですが、企業が知っておくべき対策をお話します。
Text:當舎緑(とうしゃ みどり)
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。
阪神淡路大震災の経験から、法律やお金の大切さを実感し、開業後は、顧問先の会社の労働保険関係や社会保険関係の手続き、相談にのる傍ら、一般消費者向けのセミナーや執筆活動も精力的に行っている。著書は、「3級FP過去問題集」(金融ブックス)。「子どもにかけるお金の本」(主婦の友社)「もらい忘れ年金の受け取り方」(近代セールス社)など。女2人男1人の3児の母でもある。
がん患者も「障がい」とみなされる場合がある
近年、がんを患った人の就業継続の問題がクローズアップされています。しかし、疾患を抱える社員に働く意欲や能力があっても、治療と仕事の両立を支援する環境は十分に整っておらず、仕事を辞めてしまったり、休職後に復職することが困難な状況にあります。
がんの場合、療養は長い期間となることが多いものです。私も何度も、がん患者の人からの相談として、「やはり仕事の継続は難しいかもしれない。まわりに迷惑をかけるし、辞めたほうがよいのではないだろうか」と先も見えない中で、悩まれる人がほとんどです。
でも、病気療養で大変なときに転職をして、新しい職場に慣れるまで大変な思いをすることを考えれば、これまでどおりの職場で継続して働ける環境を企業がつくる、もしくは助成金を活用してもらうなど、会社に前例がないと尻込みせず、なんでも利用する姿勢をつくっていくことが大切ではないでしょうか。
がん患者の人からの相談をお受けしているなかで感じるのは、皆さんの「働きたい」という意欲です。企業側からも、仕事に慣れた人にまじめに継続して働いてもらうことは、メリットとなります。病気になっても、健康保険から傷病手当金が支給されたり、障害厚生年金が受給できることがあったりと、使える制度はたくさんあります。企業を支援する制度も出てきました。
例えば東京都では、難病やがん患者の治療と仕事の両立に配慮して、新しく採用する、もしくは雇用を継続する就業環境を支援する企業に対して助成金が給付されます。これからもいろいろな制度が出てくるでしょう。
平成30年4月に予定されている改正には要注意
もともと企業には、法定雇用率以上の割合で障がい者を雇用する義務があります。法定雇用率は、民間や国、地方公共団体など、組織によって異なりますが、民間企業であれば、これまで社員を50人以上雇用している事業主においては2%以上という割合だったのですが、これが平成30年4月から改正されます。雇用している社員が45.5人以上の場合に2.2%です。
そして、その3年後に再度の改正が待ち構えています。この法定雇用率を達成していない事業主には「障害者雇用納付金」を納付するという義務も発生します。これまで「うちには関係ない」と、知ろうともしていなかった企業にも、対象が広がってきているのです。
なんとなく、障害年金を受け取れる人は重い障がいをお持ちだと思うかもしれませんが、厚生年金の場合、3級まであることと、障害手当金もあることから、該当するにもかかわらず請求していないという人がいます。障害年金を受け取っているというと「働けない」「賃金が減る」という人がまれにいらっしゃいますが、これは誤解です。
障害年金を受け取っていても会社に採用されないことをおそれて、会社に申告しないこともよくあることです。しかし、「障がい者でも働ける」ことをしっかりと知っておいてください。ある程度の会社規模であれば、障がい者を雇用する義務が生じ、満たさないとペナルティが課されるため、企業担当者が知らないでは済まされないということを覚えておいてください。
社員としての仕事と病気療養を両立させるというのは、企業にとって困難な道です。ただ、日本の高齢化は待ったなしです。労働力は貴重です。「障がい者は働けない」ではなく、「病気の人でも障がいを持つ人でも、できるだけ長く働ける環境を作り出していく」ことが企業に求められているといえるでしょう。
Text:當舎 緑(とうしゃ・みどり)
社会保険労務士。行政書士。CFP