介護保険と医療保険の違いって? 介護保険にある「支給限度額」という壁
配信日: 2021.10.20
しかし、介護保険は「介護保険被保険者証」を持っているだけでは利用できません。また、居宅サービスなどには「支給限度額」という壁があり、この金額を超えてサービスを利用すると10割負担になります。
「支給限度額」という介護保険特有の仕組みについて解説します。
執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
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介護保険と医療保険の違い
介護保険と医療保険(健康保険など)には大きな違いがあります。主な違いを見てみましょう。
医療保険は誰でもサービスを受けることができますが、介護保険は40歳以上でないと利用できません。しかも、40~64歳は介護になった原因が16種類の特定疾病に限定されます。
医療保険は、保険証さえ提示すれば、誰でも医療機関で受診できますが、介護保険では保険証を提示するだけでは介護サービスを受けることができません。「要介護・要支援認定」の申請手続きが必要です。
介護認定を受け、介護保険サービスを提供する事業者と契約して初めて介護サービスを利用できます。なお、介護の必要性の度合いを示す要介護度(要支援1・2、要介護1~5)によって利用できるサービスの種類や1ヶ月に利用できる金額(支給限度額)が異なります。
「支給限度額」とは
介護サービスには、
(1)現在の家に住んだまま受けられる「居宅サービス」(訪問介護など)
(2)事業所や施設のある市区町村の住民だけが受けられる「地域密着型サービス」
(3)4つの介護保険施設(特養・老健など)で受ける「施設サービス」
があります。
このうち、居宅サービスと地域密着型サービスでは要介護度に応じて1ヶ月あたりに利用できる支給限度額か設けられています。
支給限度額の範囲内で介護サービスを利用した場合の自己負担額は、サービス費の原則1割(65歳以上は所得に応じて1~3割)ですが、支給限度額を超えてサービスを利用した場合は越えた分が全額自己負担です。
介護サービスを利用したいと思っても、支給限度額という大きな制約があるのが介護保険の特徴になっています。なお、居宅サービスの1つである「居宅療養管理指導」「特定施設入居者生活介護」「認知症対応型共同生活介護(グループホーム)は支給限度額の対象外となっています。
また、福祉用具の購入(10万円)、住宅改修(20万円)については、支給限度額とは別に上限額が決められています。施設サービスを受ける場合には、要介護度ごとに入所の費用が設定されていますので、支給限度額という考え方はありません。
支給限度額と利用の目安
居宅サービスと地域密着型サービスの支給限度額(月額)の目安は次のとおりです。
要支援1 5万320円
要支援2 10万5310円
要介護1 16万7650円
要介護2 19万7050円
要介護3 27万480円
要介護4 30万9380円
要介護5 36万2170円
次に、要介護3を例にとって、支給限度額の範囲内で、サービスをどのくらい利用できるか見てみましょう。
要介護3は、1人で立ち上がったり、排せつをしたりすることが難しく、入浴や衣服の着脱など全面的な介助が必要な状態です。
要介護3の方が支給限度額の範囲内で受けられるサービスは、「週2回の訪問介護」「週1回の訪問看護」「週3回のデイサービス」「2ヶ月に1週間程度のショートステイ」「福祉用具貸与(車いす・介護ベット)」「毎日1回夜間の巡回型訪問介護」がひとつの目安となります。
まとめ
介護保険には利用限度額という壁があるので、意外と利用できるサービスの回数が少ないと思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。家族の支援が受けられない人は、介護保険だけでは十分な介護を受けられないと感じたかもしれません。
財政悪化で、介護保険サービスは縮小化しています。特に「おひとりさま」は、介護費用のための貯蓄をしたり、民間の介護保険に加入したりするなど早めの準備が大切です。
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー。