老後生活に向けて自助努力が当たり前の時代だからこそ個人年金保険をお勧めできない4つの理由
配信日: 2018.02.18 更新日: 2019.01.10
(老後の生活費)-(公的年金受給額)=(不足分)=(自助努力での準備額)
かなりざっくりいうと、上記方程式の不足分を自助努力で準備する必要があります。この準備方法の選択肢の1つ、民間保険会社が販売している個人年金保険について、今回は考えてみたいと思います。
「保障と貯蓄をバランスよく」「自分自身の老後のため」「掛け捨てじゃないから」「損はしないから」「働く大人として保険の1本くらい」などと、熱心に!? 営業されて加入したという人も多いのではないでしょうか。もしかしたら、よくわからないまま加入してしまったという人も少なくないと思います。
しかし、実はこの個人年金保険、“低金利”“多様にあるお金の準備方法”という今の世の中で、あまりお勧めできるお金の準備方法ではないのです。それは何故か? 4つのポイントでご説明します。
Text:平田純子(ひらた じゅんこ)
CFP(R)認定者
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、2級建築士、インテリアコーディネーター
大阪市立大学・生活科学部・住居学科卒業。電機メーカーで商品企画の仕事を経て、好きが高じて、株式会社良品計画に中途入社。無印良品の店舗にて、家具やカーテン、照明のコーディネート提案を得意とする店長として10年以上勤務。しかしある時、お金に無計画・無頓着に過ごした自身のこれまでの人生を振り返り、後悔の念。豊かな人生を送るために、ライフプランニングの必要性を痛感。その必要性をより多くの人に伝えたいとの思いで、ファイナンシャルプランナーを志す。
現在、ファイナンシャルプランナーとして、ライフプランとキャッシュフロー分析・アドバイスを個別相談で行う傍ら、セミナー講師,や執筆も行う。得意分野はライフプラン(資金計画)、生命保険見直し、資産形成・運用。お金の相談に加えて、インテリア計画や片付け、収納計画についても、ご要望に応じて相談を承っている。
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積立期間の8割もの間、ずっと元本が割れている
30歳女性。月々9,997円(約1万円)を60歳まで積立。60歳から10年間、毎年37.87万円を受取り(受取り総額378.7万円)。60歳とき、一時金で受け取るなら、受取り額は368.3万円。
これは、某保険会社の個人年金保険の一例です。この保険、30年間の積立期間の内、積立開始から24年間、元本が割れています。つまり、途中で引き出そうと思ったら、積み立てた額より目減りして戻ってきます。元本復帰するのは、25年後以降です。
銀行に普通預金で預けていても、まったく増えない! と嘆きの声をよく耳にします。一方この普通預金、いつ引き出そうと自分のお金は減ってはいません。しかし、保険会社に預けると、増えないどころか、積立期間の8割もの間、自分のお金が減っているのですよ。せめて、増えなくとも、元本そのまま返してほしくないですか?
所得控除も条件付きなうえに限定的
所得税や住民税の減税につながる『所得控除』。個人年金保険には、保険料控除という所得控除が認められています。しかし、その適用を受けるには、条件をクリアする必要があるのです。
その条件とは、積み立てた年金を受け取る期間は10年以上に設定すること。つまり、5年など短期間で集中して受け取るという選択肢はあるが、その場合は保険料控除の適用外となる。(注:一時金で受け取ることは可能です)
この条件をクリアした積立設計でようやく適用される所得控除ですが、その控除額が限定的なのです。個人年金保険料控除の上限は年間4万円です。ただし、年間保険料を8万円以上払って、ようやく満額の4万円控除されます。保険料の全額が控除されるわけではありません。保険料全額が控除されるのは、年間保険料2万円以下です。
ちなみに、上記30歳女性の例だと、年間保険料は約12万円。所得控除は満額の4万円です。年金は年金でも、個人型確定拠出年金(iDeCo)だと、掛金全額が所得控除になります。この女性が、月1万円の掛金をiDeCoで積み立てていたら、年間12万円満額を所得控除できます。
30年間積み立てても、お金はあまり増えていない
先程の個人年金保険の事例を、利回りという観点で検証してみましょう。
毎月1万円を30年間積み立て、積立終了後の一時金受取額は、368.3万円。積立の年間利回りでいうと0.2%です。実際のお金の受け取り方法は、この368.3万円を毎年37.87万円ずつ10年間かけて切り崩していきます。その切り崩しの年間利回りは0.8%です。
個人年金保険の提案書(設計書)に必ず強調して記載されている125%とか、116%というこの心躍る数字は、返戻率といって、利回りとはまったく異なるものとなるので注意しましょう。惑わされてはいけません。一方、積立先として確定拠出年金を、その積立商品として投資信託を選び、仮に3%の利回りで毎月1万円ずつ積み立てたら、30年後には約580万円になります(手数料、諸費用含まず)。
もちろん、この580万円を一時金で受け取ることも可能です。先述の個人年金保険と比較したら、その差200万円強。さらに3%の利回りで10年かけて切り崩していくと、毎年の受取り額は、67.2万円になります。その差、毎年約20万円です。
同じ毎月1万円の出資(積立)でも、積立先を変えるだけで大きな違いだと思いませんか?
30年間、途中で軌道修正できない。
30年間といえば、かなり長い期間です。日本銀行の統計データによると、今から28年前、1990年の郵便貯金の通常貯金金利は3.48%、現在は0.001%です。今から30年後、日本や世界はどんな経済状況になっているか想像し難いですが、今とまったく異なる状況になっていることは確かです。
自分のお金なんだから、その時々で少しでも有利な場所(お金がふえる場所)に、自分の意思で置き換えたいものですよね。
しかし、どうでしょう? 個人年金保険は、いったん契約したら、そのときの設計書通りに自分のお金を保険会社に任せるしかなく、途中で変更ができません。途中でもっと有利な預け先に変更したいと思ったら、基本的に解約をするしかなく、先述のとおり、解約すると元本は目減りして手元に戻ってくるのです。
その点、確定拠出年金であれば、途中で積立商品や運用商品の変更は自由、積立金額の増額や減額、いったん停止もできます(回数など制限があります)。自分のお金を自分の老後生活のために積み立てるのだから、これくらいの自由度があってもよいと思いませんか?
いかがでしたか? 預金金利が3%台だった1990年代に販売されていた個人年金保険は、それはそれはよい商品でした。30年間、保険会社に預けていれば、増えて手元に戻ってくる商品でした。途中、元本が割れるのは目をつむれるくらいのメリットがありました。
しかし現在のこの低金利、そしてお金のふやし方に多種多様な選択肢があるなか、敢えて個人年金保険を選ぶ必要はないと私は思うのです。
自分の老後資金は、目標額と預け先を自分の意思でしっかり決めて、増やしていきたいものですね。
Text:平田 純子(ひらた じゅんこ)
CFP認定者、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、2級建築士、インテリアコーディネーター