個人の弁護士事務所に勤務しても社会保険に入れる?
配信日: 2021.12.21
これらの士業の事務所について、最近は弁護士法人、税理士法人、社会保険労務士法人など法人の事務所も増えてきていますが、個人の事務所として開業し、業務を行っている場合も依然多いことでしょう。
もし、こういった個人の士業事務所に雇用されて勤務する場合の、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入について制度改正が行われます。
執筆者:井内義典(いのうち よしのり)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP(R)認定者、特定社会保険労務士、1級DCプランナー
専門は公的年金で、活動拠点は横浜。これまで公的年金についてのFP個別相談、金融機関での相談などに従事してきたほか、社労士向け・FP向け・地方自治体職員向けの教育研修や、専門誌等での執筆も行ってきています。
日本年金学会会員、㈱服部年金企画講師、FP相談ねっと認定FP(https://fpsdn.net/fp/yinouchi/)。
現行制度上、個人事務所では社会保険に入らない
原則として、フルタイムあるいはその4分の3以上の勤務時間・勤務日数で民間企業に勤務している場合は社会保険の加入対象となり、健康保険被保険者、厚生年金被保険者となります。
また、現行制度上、従業員501人以上の企業等で、週20時間以上で勤務し、賃金月額が8万8000円以上であること、1年以上継続して雇用が見込まれること、学生でないこと、といった条件を満たした場合も加入対象となります。
しかし、これらの勤務時間・勤務日数による要件を満たしても、個人の弁護士事務所など士業事務所(法務業の事業所)に勤務する人について、その事業主は従業員に社会保険に加入させる義務がありません。
個人の事業所の中で法務業は社会保険の非適用業種となり、従業員数に関わらず社会保険の強制適用事業所とならないためです(【図表1】)。
弁護士法人など法人の士業事務所の場合であれば、従業員数がたとえ1人であっても社会保険の強制適用事業所となるため、前述の条件で勤務する従業員は社会保険に加入しますが、個人の士業事務所の場合は任意適用事業所になります。
そのため、こういった事業所に勤める人は社会保険未加入の人もいらっしゃることでしょう。
個人事務所に社会保険の適用が拡大
しかし、2020年5月に成立し、翌6月に公布された年金制度改正法により、2022年10月から【図表2】の士業(法務業)が適用業種となり、従業員5人以上である、【図表2】の個人事務所については強制適用事業所となります。
したがって、当該事務所に勤務時間・勤務日数の要件を満たして勤務する人は、社会保険に加入します。
これらの士業の事務所は官公庁に対する法的な書類を作成し、提出することを業としています。そのため、事業所として社会保険の事務手続きも容易であるという考えからの改正であるといえます。
先述の、週20時間以上勤務して社会保険に加入する場合の「501人以上」という従業員要件については、2022年10月に「101人以上」へ、2024年10月に「51人以上」へと段階的に改正されます(※2022年10月に「1年以上継続して雇用が見込まれること」の部分も「2ヶ月を超えて雇用が見込まれること」に改正)が、個人の士業事務所については、51人以上の従業員がいる事務所はあまりないでしょう。
そのため、ほとんどの場合が、4分の3以上の勤務時間・勤務日数を満たした場合として加入することになるでしょう。
健康保険制度に加入すると、傷病手当金や出産手当金を受けられるようになります。一方、厚生年金保険制度に加入すると、将来、基礎年金だけでなく厚生年金を受給できます。
勤務先から受け取る給与や賞与の額に応じた、健康保険料、厚生年金保険料の負担がありますが、その分、受けられる給付も厚くなるでしょう。
執筆者:井内義典
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP(R)認定者、特定社会保険労務士、1級DCプランナー