民間の介護保険に入った方がよい?公的介護保険との違いを解説
配信日: 2022.05.31
民間の介護保険は「長生きリスク」に対応していますが、日本には公的介護保険制度も存在します。読者のなかには公的介護保険料を負担に感じている人も多いのではないでしょうか。
そのような状況下で民間の介護保険には本当に入るべきなのか、必要性について解説します。
執筆者:荒木和音(あらき かずね)
2級ファイナンシャルプランニング技能士
民間の介護保険と公的介護保険の違い
民間の介護保険と公的介護保険には、さまざまな点で違いがあります。
項目 | 公的介護保険 | 民間介護保険 |
---|---|---|
給付形態 | 現物支給 | 現金支給 |
給付額 | 要介護の等級に合わせた給付金額 | 金額設定は任意 |
加入制度 | 40歳以上の全国民が強制加入 | 任意加入 |
給付対象 | ・65歳以上の方は要介護度に合わせて支給 ・40歳から64歳の方は特定の病気に罹患したときのみ支給 |
被保険者全員 |
保険料の徴収方法 | ・65歳以上の方は自治体ごとに徴収 ・40歳から64歳の方は公的な医療保険料と一括徴収 |
加入条件・年齢などによって異なる |
税制優遇 | 社会保険料の全額控除 | 介護保険料の一部控除 |
保険料支払い免除 | なし | 保険の種類によっては有 |
支払い先 | 各自治体 | 各保険会社 |
・給付形態と給付対象が大きく異なる
公的介護保険が民間の介護保険で大きく異なるのは「現物支給」である点です。現物支給とは、訪問介護や訪問入浴、デイサービスなどの介護サービスの利用時や介護用品の購入時に、利用代金の一部を自己負担で支払う仕組みです。
現在の公的介護保険制度では原則1割の自己負担、65歳以上で一定以上の所得がある方は最大3割負担することになっています。民間の介護保険は、毎月あるいは一時金として給付金を現金で受け取る仕組みです。
また、給付の対象にも違いがあります。一般的に、民間の介護保険は40歳以下でも加入できる可能性があり、40歳から64歳の方で交通事故や疾病で介護状態になってしまった場合も給付対象です。
一方で、公的介護保険の場合は40歳以下は加入できず、65歳未満で給付を受け取れるのは、初老期の認知症や脳血管疾患など、老化が原因とされる特定疾病により要介護状態や要支援状態となった場合に限られます。
・民間の介護保険に加入するメリットとデメリットとは
民間の介護保険に加入するメリットは以下のとおりです。
・介護費用に関する経済的な不安が和らぐ
・現金支給のため、働いているときに介護状態になった場合は収入の補填にもあてられる
・公的介護保険では支給対象にならない場合でも、保障される可能性がある
民間の介護保険への加入にはデメリットもあります。
・持病や既往歴があると加入審査をクリアできず、契約できない可能性がある
・給付金を受け取るためには、公的介護保険制度における要介護2以上の認定や保険会社所定の要介護状態が180日以上継続することなどが必要とされる
介護にかかる平均的な自己負担費用は約581万円
実際に介護状態になった場合はいくら自己負担をする必要があるのでしょうか。
生命保険文化センターによると、住宅のリフォームや介護用品の購入など、介護する時に一時的にかかる費用の平均は、公的介護保険サービスの自己負担費用を含んで平均74万円です。また、公的介護保険サービスの自己負担費用を含む、介護に必要な毎月の費用は平均8万3000円です。介護期間の平均は61.1ヶ月となっています。
以上から、介護にかかる平均的な自己負担費用は、74万円+8万3000円×61.1ヶ月=約581万円と求められます。
全員が民間の介護保険に入る必要はない
民間の介護保険に加入すべきかどうかは、「自己負担が必要な介護費用をまかなう手段があるか」といった視点で考えるのがよいでしょう。
以下のようなケースでは、民間の介護保険に入った方がよいでしょう。
・貯蓄があまりない
・受け取れる年金額が少ない
・介護が必要になったときに頼れる人がいない
また、高級有料老人ホームのような場所で手厚い介護サービスをうけたいと考えている場合にも加入しておいた方がよいでしょう。
つまり、民間の介護保険は全員が入る必要はありません。生命保険文化センターの2021年度の調査によると、民間の生命保険に加入している世帯のうち、介護保険や介護特約に加入しているのは全体の16.7%です。2018年度の同調査では14.1%であったため、加入者が今後も増加していく可能性があります。
自分の生活状況を踏まえて加入すべきかどうか、慎重に検討するようにしましょう。
出典
生命保険文化センター 2021(令和3)年度生命保険に関する全国実態調査〈速報版〉
生命保険文化センター 平成30年度生命保険に関する全国実態調査〈速報版〉
厚生労働省 介護保険とは
厚生労働省 サービスにかかる利用料
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執筆者:荒木和音
2級ファイナンシャルプランニング技能士