退職後、任意継続健康保険に加入しましたが、任意で辞めることはできますか?
配信日: 2023.09.10
また、家族等が加入している健康保険の被扶養者になるという選択も考えられると思います。被扶養者は保険料ゼロで、健康保険の給付が受けられますから、最も望ましい選択肢かもしれません。
しかし、年収が130万円未満(対象者が60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ被保険者の年間収入の2分の1未満という収入の基準を満たすなどの条件が必要です。そもそも、健康保険に加入している家族がいなければ、選択できません。
本記事で、退職後の健康保険の選択肢が任意継続被保険者か国民健康保険のいずれかに絞られたと仮定し、考えてみましょう。
執筆者:大泉稔(おおいずみ みのる)
株式会社fpANSWER代表取締役
専門学校東京スクールオブビジネス非常勤講師
明星大学卒業、放送大学大学院在学。
刑務所職員、電鉄系タクシー会社事故係、社会保険庁ねんきん電話相談員、独立系FP会社役員、保険代理店役員を経て現在に至っています。講師や執筆者として広く情報発信する機会もありますが、最近では個別にご相談を頂く機会が増えてきました。ご相談を頂く属性と内容は、65歳以上のリタイアメント層と30〜50歳代の独身女性からは、生命保険や投資、それに不動産。また20〜30歳代の若年経営者からは、生命保険や損害保険、それにリーガル関連。趣味はスポーツジム、箱根の温泉巡り、そして株式投資。最近はアメリカ株にはまっています。
保険料の計算方法
国民健康保険の保険料の計算方法は、お住まいの区市町村によって異なりますが、子どもを含む世帯の被保険者の人数に応じて計算する「均等割」、世帯に対する「平等割」、世帯の所得(=前年の所得。上限なし)に対する「所得割」、世帯が持つ固定資産に対する評価額による「資産割」に基づきます。
健康保険の保険料は標準報酬月額や標準賞与額をもとに計算しますが、任意継続被保険者の場合には、退職時の標準報酬月額をもとに計算します。しかし、標準報酬月額には上限が設けられていて、令和5年度の上限額は多くの健保組合で30万円となっています。
つまり、退職前の勤務先で30万円よりも高い月給だった方は、任意継続被保険者が有力な選択肢の一つになるでしょう。なお、働いていたときの健康保険料は会社と本人と折半負担でしたが、任意継続被保険者は退職後の制度ですから、保険料は全額本人負担です。
任意継続被保険者になったあとは
任意継続被保険者でいることができるのは2年間です。保険料は2年間、同じ額です。ただし、任意継続被保険者の期間中、40歳になり介護保険の第二号被保険者になった方は、介護保険料が加算されます。また、任意継続被保険者の期間中に65歳になった方は、介護保険第一号被保険者になりますので、逆に介護保険料の分だけ下がります。
退職後の1年間、毎月々の収入が30万円未満(=年収360万円未満)だった方は、翌年(=任意継続被保険者の2年目)は任意継続被保険者よりも国民健康保険の保険料のほうが安くなるかもしれません。
これまで任意継続は、「加入は任意だが、任意には辞められない」とされていましたが、2022年4月から任意継続を任意に辞める(=資格喪失する)ことができるようになりました。「任意継続被保険者資格喪失申出書」を、健康保険組合が受理した日の翌月1日が任意継続を辞めた日(=資格喪失日)となりますが、辞める日(資格喪失日)を指定することはできません。
任意継続被保険者の保険料を前納している場合、資格喪失後に保険料の還付請求書が届きますので、前納保険料のうち未経過分を返してもらえます。また保険料の口座振替をしている場合は、任意継続被保険者資格喪失申出書によって口座振替が止まります。なお、口座振替の停止が間に合わなかった場合には、後日返してもらえます。
保険料をシミュレーションしよう
国民健康保険料の計算方法は自治体によって異なりますが、所得のない子どもでも均等割の対象になることがあります。任意継続被保険者は健康保険の制度ですから、基準を満たせば、家族を被扶養者にすることも可能です。
国民健康保険料のシミュレーションが可能なサイトもありますので、任意継続被保険者のままのほうが有利なのか、国民健康保険のほうがよいのか、十分に検討しましょう。
なお、健康保険の被保険者が101人以上の企業で働く場合は、月給が8万8000円を超える等のいくつかの基準を満たすと、健康保険と厚生年金保険に強制加入となります。
しかし、健康保険に限って考えると、任意継続被保険者は保険料が全額本人負担なのに対し、健康保険の被保険者の保険料は会社と本人の折半です。それに、もし任意継続被保険者の保険料計算の基礎になる標準報酬月額が30万円だとしたら、月給10万円のパートのほうが健康保険料は安くなります。厚生年金保険も加入しなくてはなりませんが、働くか否かをよくシミュレーションしましょう。
標準報酬月額30万円の健康保険料:3万5460円(全額本人負担)
標準報酬月額10万4000円の健康保険料と厚生年金保険料:6146円と9516円(+雇用保険料)(会社と本人の折半負担の場合の本人負担分)
出典
全国健康保険協会 協会けんぽ 本人の申出による任意継続健康保険の資格喪失が可能になりました
全国健康保険協会 協会けんぽ 被扶養者とは
日本年金機構 短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大のご案内
全国健康保険協会 協会けんぽ 保険料について
厚生労働省 国民健康保険の保険料・保険税について
渋谷区 国民健康保険料の試算
全国健康保険協会 協会けんぽ 令和5年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京都)
執筆者:大泉稔
株式会社fpANSWER代表取締役