物価高の世の中なのに、4月から給料が下がります。社会保険料の天引きに反映されるのはいつからですか?
配信日: 2024.04.24
執筆者:小山英斗(こやま ひでと)
CFP(日本FP協会認定会員)
1級FP技能士(資産設計提案業務)
住宅ローンアドバイザー、住宅建築コーディネーター
未来が見えるね研究所 代表
座右の銘:虚静恬淡
好きなもの:旅行、建築、カフェ、散歩、今ここ
人生100年時代、これまでの「学校で出て社会人になり家庭や家を持って定年そして老後」という単線的な考え方がなくなっていき、これからは多様な選択肢がある中で自分のやりたい人生を生涯通じてどう実現させていくかがますます大事になってきます。
「未来が見えるね研究所」では、多くの人と多くの未来を一緒に描いていきたいと思います。
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社会保険料とは
会社から給与を支給されている会社員にとって、社会保険料とは「健康保険料」「厚生年金保険料」「介護保険料(被保険者が40歳以上の場合のみ対象)」「雇用保険料」の総称となります。
「健康保険料」「厚生年金保険料」「介護保険料」は労使折半で、保険料を労働者と会社のそれぞれが負担しますが、「雇用保険料」については労使で負担割合が異なります。
労働者負担のある保険料は給与明細にも記載され、保険料額を知ることができます。
なお、社会保険料には他にも「労働者災害補償保険料(労災保険)」があります。労災保険は事業主の全額負担であるため、給与からの天引きはありません。
社会保険料はどのように決まる?
社会保険料は、会社から支給される給与などの報酬額と、保険料率によって決まります。
健康保険料・介護保険料の計算方法
健康保険料・介護保険料は、ともに「標準報酬月額」「標準賞与額」をベースとして計算されます。保険料は労使折半となるため、保険料の半額が自己負担として天引きされます。
なお、介護保険料の対象者は40歳以上の被保険者のみとなります。
図表1
健康保険料・介護保険料の計算式(自己負担分)
給与の場合 | 「標準報酬月額」×保険料率÷2 |
賞与の場合 | 「標準賞与額」×保険料率÷2 |
筆者作成
標準報酬月額には、報酬月額に応じて区分された等級が設定されています。例えば、報酬月額が29万5000円だった場合、等級は22等級(報酬月額29万円以上31万円未満)に該当し、標準報酬月額は30万円になります。
賞与に係る保険料額は、賞与額から1000円未満の端数を切り捨てた額(標準賞与額)に、保険料率を乗じた額となります。
保険料率は加入している健康保険組合や自治体によって異なるため、同じ標準報酬月額でも納付額が違う場合があります。例えば、全国健康保険協会(協会けんぽ)の令和6年3月分(4月納付分)からの健康保険料の保険料率は、東京都が9.98%、神奈川県が10.02%となっています(介護保険第2号被保険者に該当しない場合)。
厚生年金保険料の計算方法
厚生年金保険料も「標準報酬月額」「標準賞与額」をベースに保険料が計算されます。保険料は労使折半となるため、保険料の半額が自己負担として天引きされます。
図表2
厚生年金保険料の計算式(自己負担分)
給与の場合 | 「標準報酬月額」×保険料率÷2 |
賞与の場合 | 「標準賞与額」×保険料率÷2 |
筆者作成
健康保険料の計算と同様に、厚生年金保険料の標準報酬月額にも、報酬月額に応じて区分された等級が設定されています。
しかし、等級の数字は健康保険料とは異なる設定となっています。例えば、報酬月額が29万5000円だった場合、等級は19等級(報酬月額29万円以上31万円未満)に該当し、標準報酬月額は30万円になります。
また、賞与に係る保険料は、賞与額から1000円未満の端数を切り捨てた額(標準賞与額)に、保険料率を乗じた額になります。また、保険料率は一律18.3%(令和6年度)となっています。
雇用保険料の計算方法
雇用保険料は、勤務先の事業内容および労使それぞれで負担割合が異なります。
図表3
事業内容 | 労働者の保険料率 | 事業主の保険料率 |
---|---|---|
一般の事業 | 6/1000(0.6%) | 9.5/1000(0.95%) |
農林水産・清酒製造の事業 | 7/1000(0.7%) | 10.5/1000(1.05%) |
建設の事業 | 7/1000(0.7%) | 11.5/1000(1.15%) |
出典)厚生労働省「令和6年度の雇用保険料率について」より筆者作成
保険料の計算式
給与総額×保険料率
なお、雇用保険における「給与総額」には手当や賞与を含みます。
給与の増減は、いつ社会保険料に反映される?
会社から支給される報酬額は、残業など、そのときの働き方によって変動する手当も含まれるため、毎月増減することもあるかと思います。しかし、社会保険料は毎月変動するわけではありません。社会保険料の見直しがされるタイミングには、「定時決定」と「随時改定」があります。
定時決定(年1回)
定時決定は、年1回、7月1日時点で勤めている会社において、4月、5月、6月の3ヶ月間のうち、支払基礎日数が17日以上(短時間労働者は11日以上)ある月の総支給額の合計から平均額を「報酬月額」として算出し、該当する等級の標準報酬月額を決める方法です。基本的には、ここで決定された標準報酬月額が、その年の9月から翌年の8月までの標準報酬月額となります。
そのため、4月、5月、6月の総支給額の増減が、9月からの社会保険料に反映されることになります。
例えば、基本給が変わらなくても、4月から6月に支給される残業手当が一時的に多ければ、結果として9月からの社会保険料が上がり、手取りが減ってしまうことも考えられます。逆に4月からの給与などの報酬が下がることによって、標準報酬月額も下がった場合、社会保険料も9月から下がる可能性があります。
随時改定(大幅に変更があった場合)
標準報酬月額が見直されるのは、基本的に「定時決定」の年1回です。ただし、年の途中で昇給や降給、固定的な手当(住宅手当など)の追加などにより、大幅に報酬額が変更となった場合には、標準報酬月額を見直す場合があります(随時改定)。
随時改定が行われるのは、次の3つの条件を全て満たす場合です。
・昇給または降給等により、固定的賃金に変動があった
・変動月からの3ヶ月間に支給された報酬(残業手当等の非固定的賃金を含む)の平均月額に該当する標準報酬月額と、これまでの標準報酬月額との間に、2等級以上の差が生じた
・3ヶ月とも支払基礎日数が17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上である
出典)厚生労働省「随時改定(月額変更届)」より筆者作成
上記全ての条件を満たした場合は、変更後の報酬を初めて受けた月から起算して4ヶ月目(例:4月に支払われる給与に変動があった場合、7月)の標準報酬月額から、標準報酬月額が改定されます。
新しく会社に入社した際の社会保険料
新たな会社に入社する場合、手続きのタイミングではまだ給与が支払われていません。この場合は、入社後に受け取る予定の給与額をもとに、標準報酬月額や社会保険料が決まります。
まとめ
社会保険料は手取り額に影響するため、例えば4月から6月の残業手当を抑えるような働き方をすることで、標準報酬月額を増やさず社会保険料を抑えようとする人もいるかもしれません。
一方で、標準報酬月額は、厚生年金においては老後に受け取る「老齢厚生年金額」や、健康保険における「傷病手当金」の支給額を、計算にも使われます。そのため、標準報酬月額が高いほど、もらえる年金額や手当金なども多くなります。
標準報酬月額を低くして、社会保険料を抑えることが「得」かどうか、一概には言えないことは覚えておきましょう。
出典
全国健康保険協会(協会けんぽ) 令和6年度保険料額表(令和6年3月分から)
日本年金機構 厚生年金保険の保険料
厚生労働省 令和6年度の雇用保険料率について
日本年金機構 定時決定(算定基礎届)
日本年金機構 随時改定(月額変更届)
執筆者:小山英斗
CFP(日本FP協会認定会員)