高額療養費「引き上げ」で、4割のがん患者が“治療中断”の選択へ…国民1人「49円」しか得しないのに“治療を諦めさせる”のは妥当? 引き上げの背景と影響とは
高額療養費とは、けがや病気の治療で高額な医療費が発生したときに、家計の負担を軽減できるものですが、高額療養費引き上げにより、全国保険医団体連合会の調査によると「がん患者の4割が治療を断念する可能性がある」という結果になりました。
また、「国民1人あたりの負担減は月49円程度なのに、なぜ引き上げるのか」という制度への疑問、不安を持つ人も多くいます。
そもそも現行の高額療養費制度とはどのような制度で、今回の決定にはどのような背景や狙いがあるのでしょうか。本記事では、高額療養費の引き上げがどのように私たちの生活へ影響をあたえるのかについて解説していきます。
ファイナンシャルプランナー2級
高額療養費制度とは?
医療費は、健康保険に加入している場合、原則として自己負担は3割ですが、大きな病気や手術などで医療費が高額になることもあります。このような状況で医療費が膨らみ、家計の負担が重くなりすぎないように設けられているのが、高額療養費制度です。
高額療養費は、1ヶ月の医療費や薬代の自己負担額に上限を設けており、自己負担額がその上限を超えた場合は、医療費がいくら高くても一定額以上は支払わなくてよいという仕組みになっています。
この医療費の上限は、年齢や所得といった条件で異なります。例えば、70歳未満で年収約370万~770万円の人の場合、現在の自己負担上限は次の計算式で決まります。
8万100円+(医療費-26万7000円)×1%
もし医療費が100万円かかった場合、8万100円+(100万円-26万7000円)×1%=8万7430円で、自己負担額は8万7430円が上限となり、本来なら3割負担で30万円の支払いになるはずなので、制度によって大きく軽減されていることになります。
なお、高額療養費は医療費から引かれるのではなく、基本的にあとから払い戻しがされるものなので、いったん窓口で医療費を支払う必要がある場合もあります。
「自己負担上限の引き上げ」の背景には医療費の増加が
高額療養費制度の自己負担上限額は、2026年8月から2年をかけて段階的に引き上げられることが決定しました。背景にあるのは、医療費の増加です。厚生労働省によると、日本の医療費は年々増えており、2023年度の国民医療費は約48兆円に達したという結果が出ています。
そのため、政府は「高所得者層の自己負担上限を引き上げ」「段階的に負担の見直し」を行うことで社会保障費の増加を抑え、医療保険制度を持続させるようとしているのです。
ただし、制度見直しによる医療保険財政の改善額を、国民全体で割った場合の試算は「国民1人あたりの保険料軽減は月49円程度」ともいわれており、多くの人の負担が大きく減るわけではないという疑問の声も出ています。
「治療を断念する人が増える」という懸念
今回の高額療養費引き上げによって、患者団体などからは、治療継続が難しくなる人が出る可能性があると不安の声が多く出ています。
病気によっては治療が長期化することもあるため、たとえ自己負担が3割であっても医療費が大きな負担になることもあります。例えば、抗がん剤治療などでは、月に数十万円以上の医療費がかかるケースがあり、現在の制度でも、自己負担として毎月9万円ほどの支払いが必要です。
今後上限が引き上げられると、月の医療費負担がさらに増え、長期治療の負担が重くなるといった影響が出る可能性は十分考えられるでしょう。調査では、自己負担が増えた場合、「治療を続けられない」あるいは「治療を減らす」といった可能性があると答えた人が一定数いるという結果も報告されています。
制度の目的と影響を冷静に見ておきたい
高額療養費制度は、大きな病気をしたときに家計を守る重要な仕組みです。今回の引き上げ決定については、「医療制度を維持するために必要」「患者の負担が増えるのではないかという懸念」と両側面での意見があります。
けがや病気は、いつ自分や家族に降りかかるものか分かりません。制度の内容や背景を知ったうえで、自分や家族の生活にどのような影響があるのかを考えてみることが大切だといえるでしょう。
出典
厚生労働省保健局 高額療養費制度を利用される皆さまへ
厚生労働省 令和5(2023)年度 国民医療費の概況
執筆者 : 渡辺あい
ファイナンシャルプランナー2級