令和8年8月に行われる高額療養費の改正は、知らなければ損をする?
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。
阪神淡路大震災の経験から、法律やお金の大切さを実感し、開業後は、顧問先の会社の労働保険関係や社会保険関係の手続き、相談にのる傍ら、一般消費者向けのセミナーや執筆活動も精力的に行っている。著書は、「3級FP過去問題集」(金融ブックス)。「子どもにかけるお金の本」(主婦の友社)「もらい忘れ年金の受け取り方」(近代セールス社)など。女2人男1人の3児の母でもある。
今回の高額療養費制度の改正によるメリットは公平ではない!
高額療養費制度とは、1ヶ月(*1ヶ月の計算は、毎月1日〜月末まで)にかかった医療費の自己負担額が上限を超えた場合、超えた分が払い戻される仕組みです。所得によって、その上限金額は決まっていますが、長期に医療費がかかるご家庭にとっては、心強い支援といえます。
今回の改正では、これまでの「月単位の計算」に加え、年間の自己負担上限額の新設がされます。1ヶ月で上限金額に該当しなくても、1年間(前年8月1日から当年7月31日まで)の自己負担額の合計に、新たに上限が設けられます。これまで、対象にならなかった方が、1年で上限を超えると、対象になる可能性があることが一番のメリットです。
そして、自己負担限度額(月額)の調整がされ、所得に応じて、月ごとの自己負担限度額が見直されます一部の所得層で負担が増減します。長期療養者や低所得者へのセーフティネット機能が強化された改正といえます。
制度改正は令和8年8月からですが、所得区分と上限額は令和9年8月に再度低所得者への配慮がされ、上限金額が引き下げられるのです。一方で、「現役世代を中心に月額の負担上限が引き上げられる方がいる」という、いわば光と影を持つ改正内容となっています。
高額療養費の制度をすこし深掘りしてみると
高額療養費は、所得によって医療費負担の上限金額が決まっていますが、実はそれ以外にも、多数回該当や世帯合算などもあり、最大限に利用するためには、制度をしっかりと理解することが必要な制度といえます。
世帯合算は、複数の方が同じ月に医療費機関で受診した場合や、1人が複数の医療機関で受診したりするときには合算できる仕組みで、多数回該当は、直近12ヶ月の間に高額療養費に該当した月が3ヶ月以上ある場合、4ヶ月以降は自己負担の軽減される仕組みです。
今回の改正は、医療費全体の増大に対応するため、負担能力のある所得層には適正な負担を求める一方で、住民税非課税世帯などの低所得者層に対しては、負担増が最小限に抑えられています。
大病やケガで一時的にまとまった医療費が必要になった際、現役世代では自己負担が従来よりも重くなるケースが出てきます。自分の所得がどの区分かわからない方は、以下の協会けんぽのホームページを(※)ご参照ください。
ご自分の所得区分がわからない方は、会社が日本年金機構へ提出している「被保険者報酬月額算定基礎届」の控えで確認するか、マイナポータルでも確認できます。医療費負担の計算は、月の計算は1日から末日、年間の計算は8月から翌7月です。
また、世帯合算もそれぞれ合算できるのは2万1000円以上の場合(*70歳未満の場合。70歳以上であればすべて合算可能)です。
このように、高額療養費は、高額な医療費を負担しても、医療機関のかかり方、家族の加入している医療保険、本人の所得など、さまざまな条件により受給金額が異なる可能性がある、知れば知るほど複雑な制度なのです。
対象外となる費用(入院時の差額ベッド代、食事代、先進医療の技術料など)は従来どおり自己負担となることも注意しながら、改正後の自身の所得区分や限度額の変動を正しく把握し、必要に応じて民間の医療保険の見直しなどの備えを検討したいものです。
医療費が高額になった場合の申請の流れを押えておきたい
高額療養費は、いったん自己負担をして、後で還付を受ける方法と、限度額適用認定証を見せるだけで医療費の窓口負担が軽減される方法があり、どちらの方法でも同様の効果をもたらします。
私たち社労士としても、いったん、高額な医療費を負担した後で高額療養費の申請をするより、「限度額適用認定証」の申請をしたほうがいいとのアドバイスをすることが多いものです。
ただ、単に窓口で限度額適用認定証を見せるよりも、高額療養費制度をより有効活用するために、いったん「後で」高額療養費を申請し、払い戻しを受けるほうがいいケースもあります。複数の入院、外来などがあるときや、異なる複数の医療機関を受診したときなどです。
医療費が高額になったとき、医療費控除を受けるための確定申告はよく知られている方法ですが、「こんな少ししか還付されないのか」と落胆した方もいるかもしれません。
手間のわりに、恩恵が少ないと事務仕事を敬遠したくなる気持ちもわかります。ただ、高額療養費制度は、医療費負担の軽減にダイレクトにつながります。
長期療養になったとき、介護費用が増えたときなどは、高額介護合算療養費など他の自己負担の軽減申請も必要となりますので、体調が悪い時にこれらの申請により、たくさんの書類が増えることで面倒に思う方もいらっしゃるでしょう。高額療養費制度の中で限度額適用認定証ができたように、今後申請自体が簡易になる可能性はあります。
いずれにせよ、超高齢化社会の長生きを前提としたライフプランに医療費のリスク管理は欠かせません。自分の資産を守るために、今後、医療費改正がどうなっていくのかを注視することは重要です。
(※)協会けんぽ 【制度改正】令和8年8月から高額療養費制度が見直されます
出典
厚生労働省 高額療養費を利用される皆さまへ
執筆者 : 當舎緑
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。

