これって、本当にお得? 外貨建て保険、ここに注意!
配信日: 2020.12.15
A子さんは、得になる話が大好きで、儲かると聞けば迷わず手を出してしまいます。金融機関の担当者に頼まれて毎月分配型の投資信託を購入し、分配金の分が儲かっていると信じていましたが、分配金のほとんどが特別分配金(利益が出ないため、元金から分配金を出す)で、儲かっているどころか損をしていました。
いつも、何ともならなくなってからの相談ばかりなので、BさんはA子さんに「契約前に相談して」と言ってきたのですが、今回、やっとA子さんは事前に相談してきました。
「銀行に頼まれて。とってもお得だから入っても良いと思うのだけど、どう思う?」と、外貨建て生命保険のパンフレットを見せてくれました。
「今やっているつみたてNISAをやめて、そのお金で保険料を払おうと思うの」
さてFPのBさんはどのように答えるのでしょうか?
執筆者:林智慮(はやし ちりよ)
CFP(R)認定者
確定拠出年金相談ねっと認定FP
大学(工学部)卒業後、橋梁設計の会社で設計業務に携わる。結婚で専業主婦となるが夫の独立を機に経理・総務に転身。事業と家庭のファイナンシャル・プランナーとなる。コーチング資格も習得し、金銭面だけでなく心の面からも「幸せに生きる」サポートをしている。4人の子の母。保険や金融商品を売らない独立系ファイナンシャル・プランナー。
円安になると儲かるって言われた
A子さんは、すでに大きな終身保険に加入されていて、支払いも終わっています。お子さんは皆、独り立ちをされています。
相続対策を考えているのか、何か保険に加入する必要があるのか、運用益が非課税のつみたてNISAをやめて、保険会社に手数料を払ってまでその保険に入る理由があるのか聞くと、「何か、円高?円安?になると儲かるって聞いたから」とA子さんは答えます。
その保険に入ったほうが「つみたてNISAをやっているより儲かる」とA子さんは言います。
外貨建て生命保険は、その名のとおり外貨で運用します。掛金は日本円から外貨に換えて、外貨建てで運用し、受け取るときは外貨から日本円に換えて受け取ります。その度ごとに為替の影響を受けます。
「例えば、為替レートが1ドル100円で、1万円は何ドルになる?」とBさんはA子さんに問いかけます。
1ドル100円の場合は、1万円で100ドルに交換できます。
「その100ドルを受け取るとき、円安になって1ドル110円では、何円に交換できる?」
110円×100ドルで1万1000円です。1000円増えます。円安になると儲かるとは、このことです。
「では、円高になって1ドル90円では何円に交換できますか?」
90円×100ドルで9000円ですね。1000円損をしてしまいます。
クーリングオフできても損する場合も
さらに、為替に変動がない場合でも、為替手数料(各銀行により異なります)により元金が目減りすることもあります。手数料を含めた為替レートで交換します。
例えば、米ドルの場合、基準になる為替レート(TTM)が100円とすると、預ける場合は(TTS)101円、引き出す場合は(TTB)99円となります。
この条件で、1万円外貨にすると99ドルに交換できますが、この99ドルを円に交換すると、9801円になってしまいます。為替の変動がなくても、外貨に換えて円貨に戻すだけで手数料の分が目減りします。
また、外貨建て保険は外貨で運用しますが、クーリングオフ(無条件解約)した場合、返って来るのは保険料として支払った外貨です。日本円を外貨に、また、返ってきた外貨を日本円にするための為替の変動や手数料等が差し引かれ、日本円で支払った金額が返ってくるわけではありません。
そもそも、それは必要ですか
「じゃあ、円安になったところで解約するっていうのは、どう?」
一般的に10年以上の保険、円安になるか円高になるか簡単に予想できるものではありません。もし、10年以内に中途解約すると経過年数による解約控除がされます。
「これで説明されたのだけれど。10年後の払込金350万円で、517万円受け取れる。10年後に約1.5倍になるなら良いと思わない?」と。A子さんは保険の設計書にあったシミュレーションをBさんに見せます。
保険の説明を受けたと思われる箇所に赤ペンで印がありましたが、それは、10年後の払込総額と死亡保険金額の所でした。解約返戻金には印が付いていません。どうやら、A子さんは、死亡保険金額を解約したときに受け取れる金額と思い込んでいたようです。
「1.5倍になるのは死亡保障で、この場合の解約返戻金は12年経過しないと払込金額を上回りませんね」とBさんの説明に、自分の勘違いに気付いたA子さんは、その外貨建て保険に加入することを見送りました。
国民生活センターでは、外貨建て保険のトラブルが高齢者に多いと公表しています。本人が勘違いしたのか、勘違いするような説明を受けたのか分かりませんが、まだ60歳のA子さんが誤認していたことは確かです。
BさんはA子さんに、「説明を聞くときから、できるだけお子さんに同席してもらうのが良いですね」と助言をしました。
(参考・引用)
国民生活センター「金融商品の基礎講座」
国民生活センター令和2年2月20日 発表「外貨建て生命保険の相談が増加しています!」
執筆者:林智慮
CFP(R)認定者