更新日: 2021.01.08 インタビュー

日本の税制度とこれからの日本について、税金のプロはどう考える? 世界四大会計事務所PwC税理士法人 パートナー蒲池茂氏にインタビュー

Interview Guest : PwC税理士法人 事業法人部 パートナー 蒲池 茂

Interview Guest

PwC税理士法人 事業法人部 パートナー 蒲池 茂

PwC税理士法人 事業法人部 パートナー 蒲池 茂(かまち しげる)

神戸大学を卒業後、青山監査法人へ入社。2000年に現PwC税理士法人へ移籍し、2003年から2005年までPwC中国の香港事務所および北京事務所へ出向。2011年にPwC税理士法人パートナーに就任。
 
主に大手日系企業向けに国内および国際税務アドバイスを提供している。

日本の税制度とこれからの日本について、税金のプロはどう考える? 世界四大会計事務所PwC税理士法人 パートナー蒲池茂氏にインタビュー
FINANCIAL FIELD編集部

執筆者:FINANCIAL FIELD編集部(ふぁいなんしゃるふぃーるど へんしゅうぶ)

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税金のプロに聞く! 税制面から見た日本の特徴って?

――最初に、PwC税理士法人さまが提供されるサービスについて簡単にご説明お願いします。
当法人は、個人向け、企業向け問わず、ほぼすべての種類の税務サービスを提供しています。個人向けでは企業のオーナーの方の所得税の確定申告や事業承継、相続、贈与のお手伝いをする一方、企業向けには法人税や消費税など税務申告、税務コンサルティングなどを行っています。また大手企業に雇用されていて海外に行かれる方や、反対に海外の企業から日本にやってくる方の個人所得税などのサポートも行っています。
 
当法人の特徴としては、いわゆる世界四大会計事務所のうちの一つであり、国際的なネットワークが利用できる点です。そのような国際的なネットワークを利用して海外に進出している日系企業へのサービスの割合が大きくなってきています。
 
――日本の税金は高いと感じている方もいらっしゃると思いますが、税金のプロから見てどのように思われますか? ご意見を伺えますと幸いです。
サラリーマンの方は毎月、給料から天引きされているので、たくさん持っていかれている感覚があるのではないでしょうか。
 
諸外国と比べると、日本の税率は富裕層に対して特に高い傾向にあります。4000万円を超える所得に対しては、最高税率の55%が適用されますが、半分以上が税金として徴収されるわけです。諸外国では個人の最高税率は、40%台が多いと思いますので、かなり高めの水準にあると言えます。
 
――日本の借金は増え続け、返済が難しいと言われる状況ですが、今後、日本の税制度はどのようになっていくと考えますか。また、国の借金が増え続けると、どんな社会が到来すると思われますか。
税金の面で申し上げますと、所得税、法人税を今より引き上げていくのは国際競争力の観点からは難しいのではないかと思います。諸外国と比べると、富裕層に対する所得税は、高い水準にあります。また法人税もやや高い。そうなると直接税ではなく、間接税である消費税を引き上げる流れになっていくのではないかと思います。
 
しかし現状、それでも賄えないくらい国債が発行されています。問題はこれ以上、国債が増えても、どこが限界点なのか共通認識がないことです。日本のように信用力がある程度ある状況で、国債残高がここまで増えていく状態は、歴史を振り返ってみても経験がありません。今後は間接税で収入を確保しながら、社会保障費を削っていく流れは避けられないのではないでしょうか。
 

なじみのない税務署……。個人でも相談できる?

――一般の方にはあまりなじみのない税務署ですが、一体どんなところなのでしょうか?個人や法人は、どんな心持ちで付き合うべきでしょうか?
税務署といえば怖いイメージを持っている方もいらっしゃるかもしれませんが、例えば税務調査が入るときにも通常であれば、きちんと事前連絡があります。
 
個人の方の場合、調査を受ける機会はあまりないかと思いますが、投資で収入が増えたり、不動産を売ったり、相続が発生したりして申告が必要な場合は、税務署とかかわるかと思います。税務署は、納税者が自発的に正しい納税を行うためのサポートをするという立場ですので、税金に関して相談すると懇切丁寧に教えてくれます。
 

お金と幸福の関係って? 大切なのは、どれだけ持っているかより誰と使うか

――お金のプロから見て、お金と幸せの関係をどう考えますか?
一番はやはり信頼できる人がいるかどうかだと思います。お金がいくらあっても仲間や家族などの信頼できる人がいなければ一緒に楽しむことはできませんし、人生は充実しないのではないかと思います。
 
お金というのは、みんなが認めて初めて価値が生まれるもの。”信用”を失えば価値がなくなる、そう考えるなら、もろいものとも言えます。話題になっている仮想通貨には、お金のそのような側面が如実に表れていると思います。これは面白い面でもあります。ただ、ほとんどすべてモノやサービスを交換できるという意味でお金の持つ力というのは、大きいのだと思います。
 
しかし幸せの条件をあげるならば、やはり信頼できる人の存在だと思います。実は、お金というのはあまり多くは必要ないのでは、と感じることがあります。幸せの条件として、二番目ではないでしょうか。
 

嫌な仕事は続かない。エネルギーが出る瞬間を、見逃さないように。

――老後の資金不足についてメディアで日々取り上げられているかと思います。この問題について、蒲池さまのご意見をお伺いできれば幸いです。
なるべく早めに準備を始めることと、老後にいくら必要なのか、具体的な数値を出してみることが大切です。具体的な金額をイメージすることができれば、漠然とした不安も解消されますし、資産形成のモチベーションも上がります。
 
あとはNISAやiDeCoなど、投資の優遇税制を利用するとよいでしょう。また、現役世代の方々は、今後、ますます長く働くことになると思います。ですので、どんなことでお金を稼げるのか、自分の市場価値を意識しながら働くことが重要だと思います。
 
――メディアの読者層である、中間所得層の30代、40代の働く方々に、やっておいたほうが良いことがあれば、ぜひ、メッセージをお願いします。
長期的な視点での資産形成とあわせて、自分がどんなことでお金を稼ぐことができるのか、社外での自分の価値を客観的に見る目を持つことが大切だと思います。
 
とはいえ嫌なことは長続きしないので、自分がどんな仕事をしているときにエネルギーが出て、どんな状況でなら自然とパフォーマンスを発揮できるのか、日々の仕事の中でこの二つを見逃さないようにすることが重要です。そうすれば、お金はあとからついてくるのはないかと思います。
 
30代で経験したことで、自分自身にとって一番役に立ったのは、中国へ赴任した経験です。海外の方と一緒に働くと、価値観の違いがはっきりと表れます。また、日本にいるときのような暗黙の了解が通じません。
 
自分が出向した中国では、値段交渉をするにしても、お互いの第一希望からはいるので、桁が二つ違うということがあります。日本のようにお互いの立場や状況を先回りして考えて仕事を進めるやり方は、グローバルスタンダードではかなり特殊なのかもしれません。仕事のことはもちろん、日本の文化や常識を客観的に見られるようになるので、ぜひ一度海外で働かれることをおすすめします。
 

取材を終えて

税理士として世界を舞台に働く、蒲池さんの姿勢に刺激を受けたインタビューでした。老後2000万円問題をきっかけに、年金制度の将来が危ぶまれる昨今です。
 
老後の必要資金やお金の貯め方、今後の働き方……将来を考えると不安はつきませんが、同時に問われているのは”自分はどんな人生を歩みたいのか”という人生観なのかもしれません。そこには必ず”お金”と”働く”が関わってきます。
 
長く働くことが当たり前になる社会だからこそ、自分が気持ちよくパフォーマンスを発揮できる仕事や環境を見つける。蒲池さんの言葉から、今後の生き方や働き方について考え直す良い時間となりました。
 
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部