収入が激減で妊婦健診に行けない…知っておきたい妊娠・出産に関する支援制度
配信日: 2021.04.02
妊娠は病気ではありませんが、妊婦さんの健康状態や取り巻く環境はおなかの中の赤ちゃんに大きく影響をします。妊婦健診は、妊娠が順調かどうかを確認するためのものです。定期的に受診しましょう。
Aさんは3年前に結婚し、最近新しい命が宿ったようです。うれしい反面、現在、家庭の収入が激減している状態で、健診に行くお金がありません。どうしたら良い? と悩んでいます。
実は、妊娠出産に関しては手厚い支援制度があり、医療機関への支払いはそれほどかかりません。制度を見てみましょう。
執筆者:林智慮(はやし ちりよ)
CFP(R)認定者
確定拠出年金相談ねっと認定FP
大学(工学部)卒業後、橋梁設計の会社で設計業務に携わる。結婚で専業主婦となるが夫の独立を機に経理・総務に転身。事業と家庭のファイナンシャル・プランナーとなる。コーチング資格も習得し、金銭面だけでなく心の面からも「幸せに生きる」サポートをしている。4人の子の母。保険や金融商品を売らない独立系ファイナンシャル・プランナー。
健診が無料? 妊娠したら届け出を!
妊婦は病気じゃないから、全額自己負担に? いいえ、市区町村の支援があります。公費対象の検査を限度額内で受ける場合であれば、妊婦健診は無料です(ただし、治療が必要な場合は保険適用になり、自己負担も発生します)。
まず、医療機関で妊娠が確認できたら、お住まいの市区町村へ届け出て母子手帳と妊婦健康診査受診票をもらいましょう。この妊婦健康診査受診票で受診すると、無料で健診を受けられます。
『厚生労働省 第一回 妊産婦に対する保健・医療体制の在り方に関する検討会 資料2』によれば、望ましい健診とされているのは以下の14回です。
●妊娠初期~妊娠23週まで:4週間に1回
●妊娠24週から妊娠35週まで:週間に1回
●妊娠36週以降出産まで:1週間に1回
すべての市区町村で、14回以上の公費負担が実施されています。
また、お住まい以外の自治体での里帰り出産をされる場合にも、里帰り先での妊婦健診の公費負担がすべての市区町村で実施されています(ただし、この場合はいったん自己負担後、払い戻しの手続きをします)。
助産所における公費負担も、ほとんどの市区町村で実施されています。
ところで、公費負担対象外の検査を受けた場合の検査費用については、自己負担になります。他にも、妊婦健診は自由診療で、健診の費用は医療機関により異なるため、公費対象の検査でも、公費負担額の上限を超えてしまう部分については自己負担です。
医療機関に妊婦健診で自己負担が発生するかどうか、あらかじめ問い合わせておくと良いでしょう。
出産育児一時金の直接支払制度・受取代理制度
出産費用は大金が必要ですが、どんな支援があるのでしょうか。
協会けんぽや健康組合等の被保険者や被扶養者、国民健康保険の被保険者が出産した場合、42万円の出産育児一時金が支給されます(ただし、産科医療保障制度加算対象出産でない場合は、40万4000円の出産育児一時金が支給されます)。
そして、健康組合や国民健康保険から支給される出産一時金が、医療機関に直接支払われる『直接支払制度』があります。医療機関により、『受取代理制度』の場合もあります。
かつては、いったん窓口で支払いをしてから出産育児一時金を請求しましたが、この制度を利用することで出産費用は保険者から医療機関へ直接支払われるため、本人の窓口負担は出産一時金を超えた分のみで済みます。一時金より出産費用が少ない場合は、差額が戻ってきます。
国民健康保険の保険料を滞納している場合でも、出産育児一時金は一時差し止めとならず、全額受けられます。
どうしても借り入れが必要な場合
ただし、すべての医療機関で直接支払制度(受取代理制度)が使えるとは限りません。出産する医療機関に、制度が利用できるか確認しましょう。もし、直接支払制度や受取代理制度の導入がないような場合は、いったん窓口で支払い、保険者に出産育児一時金を請求することになります。
また、妊婦健康診査受診票で妊婦健診が無料になる場合でも、その前に医療機関で診察を受け、妊娠していることを確認してもらう必要がありますが、それは実費です。
自由診療のため医療機関によって異なりますが、初診の内容によって費用にばらつきがあります(約5000~約3万円)。初診費用、健診での自己負担、出産費用および自己負担について、かかる予定の医療機関に問い合わせましょう。
他にも、里帰り出産等で他県の病院にかかる場合は、お住まい自治体が発行した妊婦健康診査受診票が使用できず、いったん窓口で支払う必要があります。最終的に出産育児一時金で全部賄えたとしても、いったん自己負担する額を把握しておきましょう。
収入が少なく、どうしても借り入れが必要な場合は、社会福祉協議会の生活福祉資金貸付制度を利用するのも方法の1つです。各市町村の社会福祉協議会が、相談窓口になっています。借り入れだけではなく、その先の生活の立て直しも含めて相談ができます。
大切な命、大切な家族。笑顔で迎えてあげたいですね。
(参考・引用)
厚生労働省「妊産婦にかかる保健・医療の現状と関連施策」
厚生労働省「平成23年4月以降の出産育児一時金制度について」
岐阜市「妊婦健康診査」
厚生労働省「出産育児一時金制度の見直しに関するQ&A(受取代理制度について)」
厚生労働省「生活福祉資金貸付制度」
執筆者:林智慮
CFP(R)認定者