奨学金の保証人になる前に知っておきたいこと
配信日: 2021.07.10
執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
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保証人になることの意味を理解していますか?
日本学生支援機構の奨学金の貸与を受けるにあたっては、保証制度として、人的保証と機関保証があります。人的保証では、連帯保証人および保証人を立てる必要があります。機関保証はこれら保証人を立てる代わりに保証料を支払います。
ところで、皆さんは保証人になるということの意味を理解しているでしょうか。
保証人になると、奨学金の返還の義務を負う主債務者(学生)が奨学金の返還をしない場合に、主債務者に代わって支払いをする義務を負うことになります。(連帯)保証人が任意に支払わない場合には、法的手続きがとられ、自宅の不動産が差し押さえ・競売されて立ち退きを求められたり、給与や預貯金の差し押さえを受けたりするなど、大きな財産的リスクを伴います。
「迷惑をかけないから……」「名前だけ貸してほしい」などと言われて、安易に保証人となるとトラブルになる可能性があります。奨学金は数百万円におよびます。経済的な余力がなければ、保証人の依頼をきっぱり断りましょう。断ることが忍びなければ、機関保証の保証料を支払ってあげてはいかがでしょうか。
保証人と連帯保証人の違い
日本学生支援機構(機構)の奨学金の貸与を受けるにあたって、連帯保証人は、原則として父母またはこれに代わる人、保証人は原則として4親等以内の親族で本人、および連帯保証人と別生計の人がなります。
保証人と連帯保証人は同じもの、と認識されている方は多いのではないでしょうか。
保証人には「催告の抗弁権」「検索の抗弁権」「分益の利益」が認められていますが、連帯保証人には認められていない点で大きく違います(民法453条~454条・456条)。催促の抗弁権とは、機構がいきなり保証人に請求をしてきた場合に、まずは主債務者に請求するようにと主張することができる権利です。
検索の抗弁権とは、返還能力のある主債務者から返済してもらうか、それがかなわないなら、主債務者の財産を差し押さえるよう主張できる権利です。分別の利益とは、保証人が複数いた場合、連帯保証人は全額返す義務がありますが、単なる保証人は保証人の人数で案分した金額だけを負担することです。
保証人の責任は半分
奨学金の保証人の返済義務をめぐり、札幌地裁で、2021年5月13日、判決がくだされました(※)。事案は、日本学生支援機構が半額の支払い義務しかない保証人に全額を求めたもので、知らずに全額を返済してしまった保証人が過払い金の返還等を求めた訴訟です。
前述のように、保証人は、連帯保証人と異なり、分別の利益があります。したがって、奨学金のように、連帯保証人と保証人が1人ずついる場合には、保証人は半額だけ返済すればよいわけです。
ところが、日本学生支援機構は、分別の利益を申し出ないで、返還者本人または連帯保証人に代わり、奨学金を全額返還した場合、返還者本人には全額、連帯保証人には負担部分を超えて支払った分を返還者本人または連帯保証人に求める権利(求償権)があると主張しました。
分別の利益を申し出るか、求償権を取得するかについては、保証人の判断に委ねられています。
今回の判決は、分別の利益は保証人が主張しなくても効果が生じるとし、分別の利益を知らずに返済してしまった場合には、不当利得として返済を求める権利があると判示した点は大きな意義があります。
なお、機構は、一審・札幌地裁判決を不服として札幌高裁に控訴しました。
まとめ
現状では、日本学生支援機構は保証人に返還金の全額を請求してくると思われます。支払ってしまった場合、過払い金を機構から取り戻せるという確証はありません。保証人になった方は機構から返還金の支払いを求められたとき、分別の利益を必ず申し出ましょう。
出典
(※)朝日新聞DIGITAL「奨学金訴訟、教え子の保証人になった恩師は何を思う」
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー。