更新日: 2021.07.31 その他暮らし
労働者の健康診断はなぜ行われる? 健康診断を受けているとき、賃金は発生するの?
そもそも、健康診断はなぜ行われるのでしょうか? そしてその対象者と内容とは? また、健康診断を受けているときの賃金は? 労働者の健康診断について解説します。
執筆者:伊藤秀雄(いとう ひでお)
FP事務所ライフブリュー代表
CFP®️認定者、FP技能士1級、証券外務員一種、住宅ローンアドバイザー、終活アドバイザー協会会員
大手電機メーカーで人事労務の仕事に長く従事。社員のキャリアの節目やライフイベントに数多く立ち会うなかで、お金の問題に向き合わなくては解決につながらないと痛感。FP資格取得後はそれらの経験を仕事に活かすとともに、日本FP協会の無料相談室相談員、セミナー講師、執筆活動等を続けている。
定期健康診断だけではない!
雇用されている人は、年1回の定期健康診断を受診していることでしょう。どんなに忙しくて延期になっていても、必ず受けるように会社から督促が届くことと思います。
事業者には、労働者に必要な健康診断を受けさせる義務があるのです。労働安全衛生法第一条には、労働災害の防止のための措置を講じ、「労働者の安全と健康を確保する」旨が記されています。雇用される人の健康確保のための最低基準の1つとして、健康診断の実施も定められているのです。
では、その種類を次の表で確認しましょう。
表1.
(厚生労働省健康診断に関するリーフレット(※1)から引用)
多くの方になじみのあるのが「定期健康診断」ですね。体に負担のかかる特定の業務に対する健康診断などもありますが、これらは一般健康診断と呼ばれています。
この表に記した以外に、特に有害で体に異常の起こりやすい業務に対しては「特殊健康診断」「歯科医師による健康診断」が定められています。
ところで、定期健康診断は「常時使用する労働者」が対象とされていますが、パートやアルバイトは対象なのでしょうか?
パート労働者等の短時間労働者が「常時使用する労働者」に該当するかどうかについては、通達で示されており、定期健康診断の場合は次の(1)と(2)のいずれも満たす場合としています。
(1)期間の定めのない契約により使用される者であること。なお、期間の定めのある契約により使用される者の場合は、1年以上使用されることが予定されている者、および更新により1年以上使用されている者。
(2)その者の1週間の労働時間数が、当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分3以上であること。
(厚生労働省健康診断に関するリーフレット(※1)から引用)
臨時的に雇う労働者には、健康診断を行わなくてもよい、ということです。
一般健康診断では、省略できる項目もある?
次に、健康診断の受診項目を確認します。ここでは、雇い入れ時と定期の健康診断を取り上げます。以下は定期健康診断の受診項目です。
表2.
(厚生労働省「業務上疾病発生状況等調査(平成31年/令和元年)」(業種別・疾病別)(※2)から、著者一部加工)
1項目を除き、雇い入れ時と同じ内容です。それが「喀痰(かくたん)検査」ですが、皆さんは定期健康診断で痰(たん)の検査をしたことがあるでしょうか?
実は、省略可能な検査項目に喀痰(かくたん)検査も認められています。胸部エックス線検査によって結核発病の恐れがないと診断された者、となっており、つまり胸部エックス線検査で万一、結核の可能性が出れば喀痰(かくたん)検査をするということです。
結核の発病はほぼ抑えられていることから、追加検査のように位置づけられているのです。
ちなみに、表1の特定業務の中には、比較的最近追加されたものがあります。「除染」作業に関わる業務です。東日本大震災時の原発事故に伴い、平成24年に新たに加わりました。
日本国内の衛生状況の改善や災害発生が、健康診断項目に確実に反映していくのです。
健康診断の費用負担と勤務の取り扱い
このように、事業者責任において実施が義務付けられていますので、健康診断を実施する費用は事業者の負担です。では、健康診断を受診する時間は勤務扱いになるのでしょうか?
実は、表1の一般健康診断は、必ずしも勤務扱い=賃金が発生するとは限らないのです。厚生労働省のQ&A(※3)では、あくまで一般的な健康確保が目的なので、業務遂行との直接の関連はなく、受診時間の賃金は「労使間の協議によって定めるべきもの」とされています。
ただし、賃金を支払うことが望ましいともされています。皆さんの会社はいかがでしょうか?
なお、特殊健康診断は危険な業務が対象で、労働者の健康確保のため当然に実施しなければならないことから、受診に要した時間は労働時間に該当し賃金が発生するとされています。
健康の維持・管理は、仕事のためだけでなく生活の質の確保にとても大切です。会社が用意する受診機会を、自分自身の健康維持のためにしっかり生かしましょう。
出典
(※1)厚生労働省「労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう 〜労働者の健康確保のために〜」
(※2)厚生労働省「業務上疾病発生状況等調査(平成31年/令和元年)」(業種別・疾病別)
(※3)厚生労働省「労働基準 よくある質問/健康診断を受けている間の賃金はどうなるのでしょうか?」
執筆者:伊藤秀雄
CFP(R)認定者、ファイナンシャルプランナー技能士1級、第1種証券外務員、終活アドバイザー協会会員、相続アドバイザー。