今までは、なかったかも。ウチの近くにも「シェアオフィス」ができたら便利?
配信日: 2021.09.10
執筆者:上野慎一(うえのしんいち)
AFP認定者,宅地建物取引士
不動産コンサルティングマスター,再開発プランナー
横浜市出身。1981年早稲田大学政治経済学部卒業後、大手不動産会社に勤務。2015年早期退職。自身の経験をベースにしながら、資産運用・リタイアメント・セカンドライフなどのテーマに取り組んでいます。「人生は片道きっぷの旅のようなもの」をモットーに、折々に出掛けるお城巡りや居酒屋巡りの旅が楽しみです。
「シェアオフィス」のおさらい
シェアオフィスとはどんなものか。まずは、おさらいをしておきましょう。その名のとおり「みんな(複数の利用者)でシェア(共有)するオフィススペース」です。ケースバイケースですが、基本的なイメージは次のようなところでしょうか。
机、椅子、電源コンセント
受付と受付スタッフ、Wi-Fi機能、コピー等OA機器、会議室スペース、ラウンジスペース、ロッカー、自動販売機
●料金帯にもよりますが、個室とか決まった席ではなく空いている席を適宜利用するフリーアドレス制が多いようです。
●個室スペースを備えて、法人登記・郵便物受け取り・秘書(電話取り次ぎ)代行などの事務所機能サービスまで付いたものは、「レンタルオフィス」として区別されることもあります。
施設によって設備、サービス内容、そして料金体系もさまざまです。月額会費制では1万円台から3万円台くらいのイメージ。都度課金制のほうは、課金単位も15分、1時間、1日などいろいろですが、1時間当たりに換算して数百円から1000円超など幅があります。会費と都度課金の両制度が選べるケースもあります。
住宅地では、事務所は規制が多い
では、こうしたシェアオフィス、住宅地ではどうして開設できなかったのか。建築基準法では13の用途地域が定められ、それぞれで建築物(建物)の種別ごとに建てられるかどうか(建てられる場合、面積・階数等の制限があるかないか)が決められています。
【図表1】は、その一部を抜粋したものです。
タテ書きされた13の用途地域は、左側にいくほど住宅地としての側面が強まります。シェアオフィスは「事務所等」の用途になりますが、赤色線で囲んだ箇所を見てください。
4つの住居専用地域のうち、「第二種中高層」では「▲」のように床面積1500平方メートル以下で2階以下ならば建てられます。しかしそれ以外の3つの地域は「×」ばかり、まったくだめなのです。
なお、住宅の中に事務所や店舗が一部組み込まれた兼用住宅は、住宅地系でも条件を満たせばこれまでも建てることが可能でした。
しかしこれは、個人が自宅で商売や事業を営むイメージです。普通の勤め人が在宅で定常的に働く、つまり家がオフィスにもなることが異例ではない。こんな事態は、かつての建築法規や関連諸規制では想定されていなかったのです。
規制緩和の中身とは
国土交通省は各地方自治体に向けて、こうした規制を緩和できる方針を今年6月25日付で通知しました(※)。事務所等の建築を認めていない先述3つの住居専用地域を対象に、建築基準法にもともとあった「特例許可」の運用をケースに応じて促すものです。
働き方や住まい方が多様化する中、今まで「住居専用」と位置付けていたエリアでも、シェアオフィスやテレワークスペースを一定の条件のもとで許容していこうとするものです。例えば、空き家を地域コミュニティ拠点も兼ねたシェアオフィスに転用するようなことが示されています。
もともと良好な住宅環境エリアなので、許可に当たっては、騒音、臭気、交通安全などへの配慮や対策が求められることになります。
実はこうした規制緩和、同じようなエリアにある古い住宅団地を再生する視点では先行実施されています。空スペースにコンビニやシェアオフィスなどを誘致できるようにしようという動きです。
まとめ
「働き方改革」のスローガンのもとで機運が高まりつつあった在宅ワークやテレワークですが、コロナ禍が後押しして、その流れが一気に強まった印象を受けます。
仕事とプライベート。その切り替えをどこで行うか。距離と時間のどちらの軸で考えても、旧来の通勤は長めです。でもその分だけ気分の切り替えがしやすく、職場と自宅の間で「第三」の時間帯や空間を楽しむようなことも、やりやすいでしょう。一方、在宅テレワークではすべてが真逆なのです。
今回の動きが広がって自宅に近い住宅エリアにシェアオフィスが設置しやすくなり、実際に開設される。そうなれば、通勤と在宅の両極端の中間で「ほどよい」仕事環境が確保できるかもしれません。
[出典]
(※)国土交通省住宅局市街地建築課長発 各都道府県建築行政主務部長宛 通知文書「第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域におけるシェアオフィス等の立地に係る建築基準法第48条の規定に基づく許可の運用について(技術的助言)」
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士