更新日: 2021.12.30 その他暮らし

いわれてみると、確かに見かけなくなった。電車内の「中づり広告」を取りやめたところとは?

いわれてみると、確かに見かけなくなった。電車内の「中づり広告」を取りやめたところとは?
大手週刊誌の発売広告は、さまざまな記事の見出しや写真などをプロットしたもので、新聞では下段の広告スペースに毎週掲載されています。
 
ほぼ同じものが、カラー刷りで電車の車内に吊り下げられた「中づり広告」。こちらは、めっきり見かけなくなったようにも思いませんか。
上野慎一

執筆者:上野慎一(うえのしんいち)

AFP認定者,宅地建物取引士

不動産コンサルティングマスター,再開発プランナー
横浜市出身。1981年早稲田大学政治経済学部卒業後、大手不動産会社に勤務。2015年早期退職。自身の経験をベースにしながら、資産運用・リタイアメント・セカンドライフなどのテーマに取り組んでいます。「人生は片道きっぷの旅のようなもの」をモットーに、折々に出掛けるお城巡りや居酒屋巡りの旅が楽しみです。

電車の「中づり広告」、いくらくらいかかるの

お気付きの方もいるかもしれませんが、今年2021年の8月から9月にかけて、大手週刊誌の「週刊文春」と「週刊新潮」が電車の中づり広告を取りやめています。
 
電車内で中づり広告の見出しや写真をざっと眺めて、「世の中では今、こんなことが大きな話題や関心事になっているのか」と何気なくチェックをしていた。そんな機会が、週刊誌によっては確かになくなっているのです。
 
中づり広告をやめるのは、費用対効果なども見すえた経費削減策だと推測されます。では、中づり広告(中づりポスター)にはどのくらい費用がかかるのか。電車広告の募集サイトを見てみると、次のような料金事例が確認できます(※1)。

<共通事項>

●B3サイズ(タテ364ミリメートル、ヨコ515ミリメートル)ポスターの場合
●ポスター制作費は別途

<事例1> 東京メトロ全線 2日間または3日間

◇掲出路線  東京メトロ全線(埼玉高速鉄道、東葉高速鉄道を含む)
◇掲出数量  3300枚
◇広告料金  257万1000円(消費税別途)
◇その他   5日間450万円、7日間600万円(各消費税別途)のプランもあり

<事例2> JR東日本 山手線群 7日間

◇掲出路線  山手線、常磐線、横須賀線・総武線快速、つくばエクスプレス
◇掲出数量  3750枚
◇広告料金  430万円(消費税別途)

 
編成車両数や交換拠点の違いなのか、<事例2>ではこれよりも掲出期間の短いプランは確認されませんでした。
 
中づり広告をどの路線に掲出するかは週刊誌によって違うでしょうし、大量継続掲出への割引措置があるのかもしれません。それでも、さまざまな路線に毎週中づり広告を掲出するためには、相当な広告料金や制作費がかかっていると推測されます。
 

売り上げに対して負担も大きそうな「中づり広告」

こうした広告宣伝費は、もちろん売り上げの中から負担することになります。売り上げのベースとなる発行部数は、日本雑誌協会が3ヶ月ごとに公表する「印刷証明付き発行部数」で2021年7月から9月には、「週刊文春」 約50.8万部、「週刊新潮」 約30.8万部でした(※2)。少しデータをさかのぼると、【図表1】のとおりです。
 

 
毎号完売していると仮定して、現在の本体価格400円(消費税別)を掛けると、2020年10月から2021年9月の1年間での税別売り上げ額は、「週刊文春」約8.3億円、「週刊新潮」約5.3億円です。
 
年間で50回発行して、中づり広告に仮に毎回400万円かけていたとすると、それだけで年間2億円です。上記の売り上げ高水準からすると過大な負担になっているかもしれないことが実感されます。
 
3ヶ月集計での発行部数も、ここ2年あまりだけでも1割から2割程度と大きく落ち込んでいます。広告宣伝費の中でかなりの負担と思われる中づり広告を取りやめるのは、時代の流れでしょう。
 
できあがったばかりで掲出前の週刊誌中づり広告を他誌のスタッフが不正に“カンニング”し、その中のスクープ要素を同時期発売の自誌の記事内容に滑り込みで反映させている。ご記憶の方もいるかと思いますが、こんな告発と否認の攻防をしていたのが2017年5月のことでした。
 
今回の2誌がこの攻防のまさに当事者だったわけですが、そんな争いのタネにもなった中づり広告から両者がほぼ同時期に撤退するのもまた、めぐり合わせなのでしょうか。
 

まとめ

先述のような2誌の近時の発行部数の動きからだけでも、紙媒体の衰退傾向がうかがえます。そこには「ペーパーレス化とデジタル化」という世の中の流れも横たわっていて、2誌ともに電子版の増強を打ち出しているようです。
 
紙媒体の週刊誌は、いろいろな記事が1冊の中に詰め込まれています。一方、電子版のほうは形態にもよりますが、個別の記事内容が次々と最新のものに更新されていくので、あるタイミングで切り取ったときの“情報のボリューム感”や“全体の一覧性”に欠けます。
 
こうしたことは、「デジタル教科書」の導入検討の議論などでも指摘されているようです。「紙かデジタルか」の選択を迫るのではなく、「紙とデジタルの長所を併用していく」という発想。それによって紙媒体ならではの良さも、維持できるところは長続きしていってほしいものです。
 
[出典]
(※1)株式会社ニューアド社「電車広告.com」~「中吊り(中づり)ポスター」
(※2)一般社団法人日本雑誌協会「印刷部数公表」~「[2021年7月~9月]一般週刊誌」
 
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士

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