更新日: 2022.03.10 暮らし

成年後見人による不祥事を防ぐ2つの仕組み

執筆者 : 新美昌也

成年後見人による不祥事を防ぐ2つの仕組み
本人の判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所によって選任された成年後見人等(成年後見人、保佐人、補助人)が、本人の財産を支援する法定後見制度があります。令和2年12月末日現在、23万2287人が利用しています(※1)。
 
しかし、後見人が選任されたからがといって安心できません。
 
後見人が多額の金銭を管理している場合、横領などの不祥事が起こることがあるからです。このような不祥事を予防する仕組みに「後見制度支援信託」と「後見制度支援預金」があります。
 
新美昌也

執筆者:新美昌也(にいみ まさや)

ファイナンシャル・プランナー。

ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
http://fp-trc.com/

成年後見人等による不正報告件数・被害額は減少傾向

厚生労働省の調査(※1)によると、成年後見人等(成年後見人、保佐人、補助人、任意後見人、未成年後見人および各監督人)による不正報告件数は、平成26年まで増加傾向にありましたが、平成27年以降、不正報告件数および被害額はいずれも減少しています。
 
平成26年の不正報告件数は831件(うち専門職は22件)、被害総額は約56億7000万円(うち専門職は約5億6000万円)でしたが、令和2年では、それぞれ186件(同30件)、約7億9000万円(同約1億5000万円)となっています。
 

「後見制度支援信託」と「後見制度支援預金」の利用は増加傾向

平成26年以降、後見制度支援信託の利用が急速に進みました。平成30年からは後見制度支援預金の利用も進みました。このことが、成年後見人等による不正報告件数・被害額の減少傾向の要因のひとつだと考えます。
 
後見制度支援信託の累計利用者数は、平成24年末は98件、平成26年末は1万8件、令和2年末には2万7257件と増加しています。一方、後見制度支援預金も、平成30年末535件、令和2年末には3522件と増加しています(※1)。
 
「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」(平成26年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業 九州大学 二宮教授)によると、今後も認知症高齢者は増加していきますので、「後見制度支援信託」と「後見制度支援預金」の利用もさらに増えていく可能性があります。
 

後見制度支援信託とは

後見制度支援信託とは、本人の財産のうち、日常的な支払いをするために必要十分な金銭については親族等の後見人が管理をし、通常使用しない金銭については一部の信託銀行などに信託をする制度です。
 
成年後見と未成年後見において利用でき、保佐、補助および任意後見では利用はできません。
 
信託銀行等との契約は弁護士等の専門職後見人が行います。信託できる財産は、金銭に限られています。後見人が手元で管理する金額は、おおむね100万円から500万円程度となるように設定します(東京家庭裁判所の場合)。
 
信託財産を払い戻したり、信託契約を解約したりするためには、家庭裁判所が発行する指示書が必要になりますので後見人の不祥事を防ぐことができます。
 
本人が多額の金銭等を有している場合には、後見開始の申し立ての際に、親族後見人を候補者として申し立てをしたとしても、家庭裁判所の判断で弁護士や司法書士などの専門職後見人が選任されることになります。
 
なお、専門職に加え親族を併せて選任することもあります。専門職後見人が選任された場合には、本人の財産から専門職後見人に対して報酬を支払う必要があります。
 
しかし、後見制度支援信託の場合には、信託手続きが終了した後、専門職後見人は辞任することになりますので、以降の専門職への報酬の支払いが不要になります。なお、信託期間中、信託報酬などの手数料がかかる場合があります。
 
信託財産は分別管理されているので、もしも信託銀行等が倒産したとしても、信託財産が信託銀行等の借金を返すために使われることはありません。 さらに、信託財産の運用によって元本割れが生じた場合には、信託銀行等は元本を補てんしなければならないとなっています。
 
運用により元本割れが生じた状態で,信託銀行等が倒産した場合、元本割れは、預金保険制度により元本1000万円までは保護されることになっています。
 

後見制度支援預金とは

後見制度支援預金とは、本人の財産のうち、日常的な支払いをするのに必要十分な金銭については、預貯金等として後見人が管理し、通常使用しない金銭を後見制度支援預金口座に預け入れる仕組みです。
 
後見制度支援信託同様、保佐、補助および任意後見では利用できません。通常の預金と異なり、預金を払い戻したり解約したりする場合には、あらかじめ家庭裁判所が発行する指示書を必要とするので、後見制度支援信託と同様に、後見人の不祥事を防ぐことができます。
 
後見制度支援預金口座は,本人が日常的に利用してきた信用金庫、信用組合、JA、都銀、地銀、ゆうちょ、などで開設することができるため、後見制度支援信託と違い近くに信託銀行等がない方にも利用しやすくなっています。
 
後見制度支援預金は、預金保険の対象です。金融機関が破たんしても、元本1000万円までとその利息等が保護されます。なお、決済用普通預金は全額保護されます。
 

「後見制度支援信託」と「後見制度支援預金」の主な違い

後見制度支援信託を利用する場合、選任されるのは専門職後見人となっています。しかし、後見制度支援預金は、家庭裁判所により「専門職後見人を選任するかどうか」の判断がなされますので、場合によっては専門職後見人が選任されないかもしれません。
 
このため、当初から親族後見人だけで手続きが進められることができ、専門職後見人に支払う報酬が不要になります。
 
後見制度支援信託には、最低信託金額が1000 万円以上のところもあり、数百万円の預金の保全が図れない場合がありますが、後見制度支援預金は最低預入の制限がありません。
 
後見制度支援預金には、後見制度支援信託で発生する信託報酬等の手数料も必要ありません。後見制度支援預金は普通預金ですが、金利については、スーパー定期預金(1年もの)の店頭表示金利が付く金融機関もあります。
 
出典
(※1)厚生労働省 成年後見制度の現状 令和3年3月
(※2)裁判所 後見制度支援信託について
 
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー。

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