更新日: 2022.03.17 その他暮らし
おカネも手間も、ほぼかからない。でも、ちょっぴり心に残った商売上のアイデアとは?
当地の居酒屋や宿で目にしたもの。手間やおカネは、ほとんどかからない。でも「おやっ」そして「なるほど」、そんな関心が湧いてくるような内容でした。
執筆者:上野慎一(うえのしんいち)
AFP認定者,宅地建物取引士
不動産コンサルティングマスター,再開発プランナー
横浜市出身。1981年早稲田大学政治経済学部卒業後、大手不動産会社に勤務。2015年早期退職。自身の経験をベースにしながら、資産運用・リタイアメント・セカンドライフなどのテーマに取り組んでいます。「人生は片道きっぷの旅のようなもの」をモットーに、折々に出掛けるお城巡りや居酒屋巡りの旅が楽しみです。
大分市でのこと
まずは、大分市のある居酒屋。観光客からも地元客からも人気の店で、大分の郷土料理が名物。筆者も、年に1回程度ですが20年も通い続けています。1人で利用するので、各種料理を少しずつ味わえる食事コースが魅力です。少しリッチな定食であるとともに、酒の肴として楽しむ人も少なくありません。
料理の数や内容によって1500円から5000円(消費税別、以下同)まで7コースがあり、大分弁の自虐的でユーモラスな名がそれぞれに付けられています。
筆者がいつも注文するのは、3000円の「めんどしぃ」コース。関あじと関さばの刺し身、わた酢、とり天、りゅうきゅう丼、だんご汁、カボスゼリーと続きます。大分弁で「恥ずかしい、情けない」を意味するその名と違って、なかなか豊富な内容です。
聞きなれない「りゅうきゅう」とは、「地元でとれた新鮮な魚を、醤油、酒、みりん、ごま、しょうがでつくったタレと和えていただく、大分県の代表的な郷土料理」(※)です。
このりゅうきゅう、以前は丼ではなく単独の料理として提供され、ライス(漬物付き)が最後に出されていました。また酒の肴として料理を楽しむ人も多いため、ライスを小サイズの冷奴に代えて先に出してもらうことが以前は可能でした。
今回気づいたこと
約1年ぶりの再訪で気づいたのは、冷奴の選択肢が消え、ライスがりゅうきゅうと一体化して「りゅうきゅう丼」になっていたこと。食事のシメに名物郷土料理を盛った丼が提供されるのは、初めて利用する人には違和感がないでしょう。
以前に利用したことのある人にとって、冷奴が選べなくなったのは寂しいかも。しかし名物料理が丼になるとちょっとした特別感もあって、ライスを押し付けられたような気分にはなりません。
一方お店から見ると、ライスに一本化できるコスト減効果よりも、お客によってライスか冷奴かを分別管理したり異なるタイミングで提供する手間が一切省けるメリットが大きいのでしょう。
以前に比べると合理化(一種の手抜き)をしているのに、お客にはそう感じさせない。なかなかやるものだな、と筆者は思いました。
日田市でのこと
その翌日は、日田市に移動。川沿いの温泉街に旅館やホテルが建ち並ぶ一角の宿に泊まりました。
室内の一角にあったのは、「未来への手紙」の案内セット。宿の名前や住所・連絡先が印刷された専用の便箋や封筒が置かれています。未来の自分へのメッセージを便箋に書き、送付先と発送指定日(5年以内)を封筒に記入して宿のフロントに預けておくと、後日発送してくれるという仕組みです。
お客の視点では、宿泊したことのあるホテルや旅館から封書、ハガキ、メルマガなどで定期的に営業案内が届くことは珍しくありません。
しかし、宿の手配もいろいろな先を比較しながらネットで簡単にできる時代です。ありきたりの案内が来ても、正直なところ感動があるでしょうか。それらを見て、また行ってみたい。そんな気持ちには、なかなか直結しないと思われます。
一方、数年も経過して忘れた頃になって、“過去の自分”から旅先でのメッセージが届いたらどうでしょう。楽しかった旅の思い出がよみがえる。あの時は、この宿に泊まったんだっけ……。先述のような単純な営業案内よりもインパクトが大きく、再び宿泊してみたい気分が高まるかもしれません。
宿側の手間は、指定されたタイミングで確実にポストに入れることだけ。相手先と発送時期をリスト化して管理すれば簡単です。切手代の負担も現行で1通84円と、定期的に封書やハガキを出し続けるよりも低コスト。しかし再訪につながる“打率”は、メルマガも含めた3つよりもかなり高まるのではないか。そんな期待感が推測されます。
まとめ
今回ご紹介した2つのポイント。なんだ、そんなこと? そう思われるかもしれませんが、商売上のちょっとしたアイデアや機転に感じられました。
もちろん、手間やおカネをたくさん投入すれば、競合他社との差別化はしやすいでしょう。しかし、必ずしもそうしたコストを(ほとんど)かけなくても、意外と効果的なパフォーマンスが得られる場合だってある。そんなことを実感したのでした。
[出典]
(※)農林水産省「うちの郷土料理」~「大分県 りゅうきゅう」
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士