更新日: 2022.05.26 その他暮らし
経済制裁受けているのはどっち? ロシアによる侵攻長期化で小麦や農業肥料が世界で不足する恐れ
ところが、資源大国・農業大国であるロシアからの輸入に頼っている西側の国々は、制裁を強めすぎると自らの経済や社会が立ちいかなくなるというジレンマに陥っているのです。
この記事では、ウクライナ問題の長期化による農業生産への影響について考えます。
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部(ふぁいなんしゃるふぃーるど へんしゅうぶ)
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ロシアとウクライナの今後の穀物輸出の見込み
2022年2月末にロシアがウクライナに侵攻したことにより、2008年以来14年ぶりに小麦相場が急騰しました。同じように、大豆やトウモロコシの相場も上振れし、それ以来高止まりしています。
この原因の一つは「世界の食料庫」としてのウクライナからの穀物輸出が減少する予測が出されたからです。ウクライナの農業生産プロセスにとって春は重要な時期です。4月から5月にかけて冬小麦の収穫があり、その後、6月にかけて春小麦とトウモロコシなどが作付されます。
ロシアの侵攻が長期化してくると、ちょうどこの時期に重なり、すでに実っている小麦の収穫ができなかったり、新しい作付けが困難になったりする可能性があります。また、農業従事者が従軍することによる人手不足や、戦域が拡大することによる農地の荒廃なども農業生産に悪影響を与えるのです。
一方のロシアも多くの農産物を輸出しており、ウクライナ問題により輸出量の減少が見込まれています。米農務省が発表した2021/22年度の農産物需給見通しによれば、小麦の輸出量はロシアが3500万トンから200万トンの減少、ウクライナは2400万トンから500万トンの減少が報告されているのです。
このようなロシアの輸出量減少の原因は、ウクライナのような生産条件の問題だけではなく、政治的な意図があると考えられています。つまり、国家の安全保障という観点から農産物を、国益を最大化するための交渉材料である「戦略物資」として扱っているようなのです。
ロシアからの農業肥料の供給懸念
リン酸、カリ、窒素は3大肥料と呼ばれており、肥料を投入することで成長を促進し、豊かな実りを得る近代農業には不可欠なものです。ロシアはこのような肥料について世界有数の生産量を誇っており「世界の肥料庫」とも呼ばれています。そして、ブラジルやEU諸国など農産物の輸出で知られる多くの国々では肥料をロシアからの輸入に依存しています。
また、農産物を輸出していなくても、国内で生産・消費される農産物に用いる肥料を輸入に頼る国もあります。肥料になる資源は世界的に偏在しているため、輸入する相手国にロシアが含まれている場合も多く、そうなると今回のウクライナ問題の影響が大きくなるのです。
例えば、日本はリン酸アンモニウムや塩化カリウムはカナダ、中国、ロシア、ベラルーシなどからの輸入でほぼ全量をまかなっているため、その影響が懸念されています。
経済制裁は「諸刃の刃」
世界の国々はグローバル化した経済ネットワークに組み込まれています。穀物に限らず、そのような国々の需給関係は相互に密接に結びついているのです。ある物品を輸入に頼る国が、その輸出国に対して制裁を発動すると、かえって自分が不利益を被ってしまいます。その典型が、日本を含む現在の西欧諸国とロシアとの関係です。この「諸刃の刃」の関係については、今後を注意深く観察していく必要があるでしょう。
執筆者 : FINANCIAL FIELD編集部