更新日: 2022.06.22 暮らし

作るのに3円かかるらしい1円玉。発行年の新しいものがめったに見られないワケとは?

執筆者 : 上野慎一

作るのに3円かかるらしい1円玉。発行年の新しいものがめったに見られないワケとは?
「◯◯◯って、知ってる?」と父親が聞くと、幼い子ども2人が「そうなの!?」と応える。こんなトリビア(雑学)のやり取りが続くテレビCM。最後に、その会社(不動産仲介業の大手)の顧客信頼度などの数値が子どものセリフでPRされるものです。
 
見たことがある方も多いかもしれませんが、ちょっと気になったのは最初のトリビア。「1円玉を作るのに3円かかるって、知ってる?」でした。
 
上野慎一

執筆者:上野慎一(うえのしんいち)

AFP認定者,宅地建物取引士

不動産コンサルティングマスター,再開発プランナー
横浜市出身。1981年早稲田大学政治経済学部卒業後、大手不動産会社に勤務。2015年早期退職。自身の経験をベースにしながら、資産運用・リタイアメント・セカンドライフなどのテーマに取り組んでいます。「人生は片道きっぷの旅のようなもの」をモットーに、折々に出掛けるお城巡りや居酒屋巡りの旅が楽しみです。

「3円かかる」は、推計値

現在発行されている硬貨(貨幣)のうち通常貨幣は、[1円、5円、10円、50円、100円、500円]です。貨幣の製造原価(コスト)については、「国民の貨幣に対する信任を維持するためや、貨幣の偽造を助長するおそれがあると考えられることから、公表していません」とされています(※1)。
 
となると、冒頭の「3円かかる」は公表値ではなく推計のようです。参考になると思われるのが、三菱UFJ信託銀行のサイト「お金の、育て方」の中の記事でしょう(※2)。
 
この記事では、各硬貨の製造原価(推計)を2018年度ベースで【図表1】のように試算しています。
 

図表1

 

「3円かかる」の計算は

各硬貨の重量や成分は公表されています。1円は1グラムでアルミニウム100%、100円は4.8グラムで白銅(銅75%、ニッケル25%)といった具合で、各成分金属の価格相場が分かれば1枚当たりの原料価格が推計可能です。先述の試算では2018年のアルミニウム価格1キログラム当たり約291円を根拠に、1円硬貨1枚当たりの原料価格を0.29円としています。
 
造幣局の各年度事業計画等も公表されています。2018年度予算で貨幣製造事業の支出総額は約146億円、このうち原料価格(原材料の仕入支出)は約24億円です(※3)。原材価格以外の支出額を硬貨ごとに総重量(1枚当たり重量×発行枚数)で割り振ると、各硬貨の製造経費が分かります。上記の原料価格を加えると1枚当たり合計約3.1円になるという計算のようです。
 
ポストコロナを見すえて世界的に経済活動が活発化する一方で、ロシアのウクライナ侵攻による混乱が長引きそうな状況です。需給のアンバランスに物流停滞なども絡んで、金属価格も上昇基調にあります。アルミニウムも例外ではなく、円安基調も相まって先述のアルミニウム価格1キログラム当たり約291円が今や500円前後。大きく値上がりしています。
 
もっとも仮に7割値上がりしても、1円硬貨1枚当たりの原料価格は約0.3円が約0.5円になるだけ。先述の推計値3.1円がもしも3.3円になったとしても、「1円玉を作るのに3円かかる」ことは大枠で変わりなしです。
 

新しい発行年の1円玉を見かけないワケ

ところで、先述の【図表1】を見ると1円硬貨の発行枚数の少なさが際立っています。1955年以来、製造枚数のピークは1990年の約27億6900万枚でした。ところが2011年以降は、2014年と2015年を除くと年間100万枚にも満たない状況が続いています(※4)。
 
硬貨をサイフから出し入れするとき、発行年をわざわざ見る機会はないと思いますが、試しに1円硬貨で確認してみてください。「平成」の終盤や「令和」に発行されたものは、ほぼ見つかりません。どうしてなのか。
 
造幣局は、いろいろな貨幣セットを毎年販売しています。6種類の通常貨幣各1枚(額面合計666円)と特製メダルなどをプラスチックケースに組み込んだものが多く、さらに特製ケースがセットされる場合もあって、それらが外箱に納められています。スタンダードなもので2000円台、表面を特殊加工した「プルーフ貨幣」セットでは1万4000円の販売事例も見られます。
 
近年の1円硬貨、実はこうした貨幣セットに組み込まれる形でしか発行されていません。例えば、2020(令和2)年の1円硬貨の製造枚数は52万8000枚(※4)。その全部が15種類の貨幣セットに組み込まれたものです。
 
つまり、こうした貨幣セットをバラして取り出したものが出回らない限り、「令和2年」と打刻された1円硬貨にお目にかかることはない。近年では、ほかの年も同様なのです。
 

まとめ

支払うとき財布の片すみから探し出すのが面倒。お釣りを出すのも面倒。大量に貯まると銀行に預けるのも手間だし、高い手数料を取られる場合も増えている。キャッシュレス社会がどんどん進展していく中で、1円硬貨は特に“邪魔者”のような扱いです。
 
「1円を笑う者は、1円に泣く」。こんなことわざも忘れ去られて、1円硬貨は貨幣セットのような非日常シーンでしか見ることがない。そんな世の中になっていくのでしょうか。
 

出典

(※1)独立行政法人造幣局「貨幣Q&A」~「貨幣の製造原価を教えてください」
(※2)三菱UFJ信託銀行株式会社「お金の、育て方」~「雑学・豆知識」~「お金の原価を徹底解説!日本の紙幣や貨幣の原価は?世界の貨幣の原価は?」
(※3)独立行政法人造幣局「年度目標・事業計画」~「平成30年度事業計画」(2018年度<平成30年度>予算の数値は、6ページ参照)
(※4)独立行政法人造幣局「貨幣に関するデータ」~「年銘別貨幣製造枚数」
 
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士

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