更新日: 2022.08.09 その他暮らし

増える「都会から地方へ」の移住 現役世代からシニアまで

執筆者 : 黒木達也 / 監修 : 中嶋正廣

増える「都会から地方へ」の移住 現役世代からシニアまで
近年、地方へ移住する人が増加傾向にあります。コロナ禍でリモートワークが定着し、会社へ毎日出勤する必要がなくなった現役世代をはじめ、生活費の高い都会より、静かな地方で暮らしたいというリタイア世代に至るまで、地方移住を決断する方がいらっしゃいます。
黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

中嶋正廣

監修:中嶋正廣(なかじま まさひろ)

行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

長野県松本市在住。

地方移住を決断する人々

地方へ移住したいと考える理由も人によって異なります。昭和の後半から東京などの大都市への一極集中が進み、首都圏、近畿圏などへの人口流入が起こりました。
 
しかし、多くの人の生活が職住接近とはならずに、通勤時間はかかる、家賃から食料品まで生活費が高い、といった事情に苦労し、住みやすさが保障されてきたとはいえません。
 
こうした中で、コロナ禍という社会情勢の変化が、地方への移住のインパクトになりました。密を避けることが重要視され、必ずしもオフィスに出勤しなくてよいテレワークが可能になりました。週に1回程度、オフィスに出勤すればよい社員が増えてきたのです。
 
仮にコロナが収束したとしても、これまでのように毎日出勤することはなくなるかもしれません。作家・デザイナーなど自由業の方であれば、地方暮らしも可能でしたが、会社員でもそれが可能になったのです。
 
さらに、会社をリタイアしたシニア世代でも、「生まれ育った郷里に帰りたい」「生活費の安い地域で暮らしたい」「ついのすみかを地方で見つけたい」といった方がいて、実際に移住も進んでいます。
 
地方の自治体の多くは、人口減に悩んでおり、こうした方々をサポートする対策を独自に打ち出し、都会からの移住者を迎えようと努力しています。
 

都会に住まなくても仕事はできる

これまで東京や大阪などの大都会に居住した理由は、会社勤めなどで職場へ毎日通勤する必要があったためです。通勤時間を短くしようとすると、広い家には住むことができず、劣悪な住環境を受け入れてきました。
 
しかしコロナ禍によるテレワークの普及に伴い、通信環境が整ってさえいれば、都会から脱出が可能になりました。仕事をもちながら、より自然の中で暮らすこともでき、子育てのためにも選択肢が増えたのです。
 
しかし、会社への出勤も月に何度かは必要なため、2時間程度の通勤圏が望ましいと思われます。例えば、東京近辺で比較的住みやすい地域を探すと、東京・奥多摩地域、山梨県、千葉県南部、埼玉県秩父地域、茨城県・栃木県・群馬県の南部などが対象になるでしょう。
 
こうした地域では、これまで人口減少が進んでいるところもあり、現役世代の移住をサポートする自治体も多く、特に住居を安く提供し、新規流入人口の定着に努力しています。
 

リタイア世代が地方移住を選ぶ理由

都会での会社員生活を終え、移住を決断するシニア世代もいらっしゃいます。70歳以前の方のなかには、「生活費が高い都会から離れたい」「郷里の実家に住みたい」「農業の仕事に妙味があり新天地でやってみたい」などといった理由で移住することもあります。
 
特に現在居住している住宅が、持ち家の一戸建てであっても、駅から遠い、老朽化が進んでいる、といった事情があれば、移住を決断する材料になるかもしれません。
 
70歳以上の高齢者は、豊かな自然に恵まれた地域で、介護サポートも受けられる高齢者施設を、新しい入居先として視野に入れている方もいらっしゃいます。
 
移住先も現役世代とは異なり、全国各地におよんでいます。自分の郷里のほか、九州、四国、中国、北陸、東北に至るまで、地方の中核都市への移住もあるでしょう。特に、賃貸住宅に住んでいた方は、家賃が安くなることが大きな魅力です。
 
もちろん、持ち家に住んでいた方でも、生活費が安くなることはあるでしょう。それ以外にも、新鮮な食材が手に入る、自然豊かな快適な空間がある、といったことも移住を決断する理由になっています。ただ人によっては、移住先の生活習慣や人づき合いになじめずに、苦労するケースもあるようです。
 

リゾート暮らしが再評価される

現役世代、リタイア世代を問わず、リゾート地へ移住するケースもあります。軽井沢(長野県)をはじめ、八ヶ岳山麓(山梨県)、熱海・伊東・伊豆高原(静岡県)、箱根(神奈川県)など、人気のリゾート地の不動産価格は、近年高騰している傾向にあります。
 
現役世代のテレワークにも、リタイア世代の定住生活にも適しており、ブームになりつつあるのかも」しれません。軽井沢、伊東、箱根といった地域では、中古の戸建て物件に購入希望者もいて、これまで塩漬けに近かった物件も売買されています。
 
例えば、箱根では、築30年以上の中古マンションが、手軽な価格で購入できるというケースもあります。また軽井沢では、土地を購入し新規に住宅建設をする方もいらっしゃり、在住の方が家の改築を依頼しようとしても、大工さんを手配できないということもあります。
 
1990年代のバブル崩壊以降、売れない中古のリゾート物件が多かった頃とは大違いです。しかし、リゾートの中でも、人気のあるエリアと、そうでないエリアとでは、物件の販売状況が大きく異なります。軽井沢、伊東、箱根など、物件価格が上昇傾向にあり、実際の現場を見て、生活行動を予測してから購入することも重要になります。
 
また、リゾート地ごとの地域環境も考慮する必要があります。具体的には、車が日常生活に不可欠な地域がほとんどです。寒さが苦手な方には、軽井沢、八ヶ岳山麓の冬は、暖房があっても厳しいと思います。足腰が弱く坂道が苦手な方は、熱海をはじめ多くのエリアで移動に負担がかかることもあり、慎重に調べておくとよいでしょう。
 
リゾート地には高齢者向けのマンションもあります。温暖な気候の熱海や伊東に多く見られますが、健常者向けから介護が必要な方まで、マンション建設が進んでおり、都会の住居を処分してついのすみかと考え生活を始めた人もいらっしゃるでしょう。
 
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
 
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

ライターさん募集