更新日: 2022.08.19 その他暮らし

家族が電車に飛び込み自殺。そのショックから立ち直れないうちに、鉄道会社から賠償請求されることは本当にあるの?

執筆者 : 柘植輝

家族が電車に飛び込み自殺。そのショックから立ち直れないうちに、鉄道会社から賠償請求されることは本当にあるの?
電車への飛び込み自殺では、家族に数千万や数億円単位にも及ぶ多額の賠償請求がなされると聞いたことはありませんか?
 
大切な家族が自殺した後に鉄道会社から多額の損害賠償の請求、二重苦となるこのうわさ話、果たして本当なのでしょうか。
 
誰もが一度は聞いたことのある、このうわさ話について法的側面から考えていきます。
柘植輝

執筆者:柘植輝(つげ ひかる)

行政書士
 
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2級ファイナンシャルプランナー
大学在学中から行政書士、2級FP技能士、宅建士の資格を活かして活動を始める。
現在では行政書士・ファイナンシャルプランナーとして活躍する傍ら、フリーライターとして精力的に活動中。広範な知識をもとに市民法務から企業法務まで幅広く手掛ける。

飛び込み自殺で遺族に損害賠償を請求される可能性があるのか

理論上、電車に飛び込んで自殺した場合、鉄道会社からその方の遺族に損害賠償がいくことは十分にあり得ます。故意や過失によって他者に損害を与えたときは、その損害を賠償しなければならないと法律で決まっているからです。
 
飛び込み自殺をした場合、電車が止まった事による振り替え輸送、現場の清掃、車両や線路が損傷していればその復旧費用など、多くの損害が発生します。飛び込み自殺をした人はそれら損害を賠償する義務を負い、鉄道会社は損害賠償を請求する権利を有することになります。
 

遺族にまで損害賠償が及ぶ理由

損害賠償をするという責任は、原則、損害を与えた本人が負うものです。それにも関わらず、なぜ遺族がその責任を問われる可能性があるのでしょうか。
 
その答えは相続にあります。相続では、原則、亡くなった方の権利義務の一切を引き継ぎます。お金や家といったプラスの財産はもちろん、ローンといったマイナスの財産も引き継ぐことになります。そのマイナス財産の中に他者への損害賠償義務も含まれます。そのため、飛び込み自殺で亡くなった人が鉄道事業者に与えた損害の賠償責任を、遺族が負う可能性があるのです。
 

遺族が鉄道会社からの損害賠償を回避するには

遺族が鉄道会社から損害賠償請求をされた場合、回避するには、鉄道会社と話し合い損害賠償を免除してもらうのがベストです。しかし、必ずしも免除されるとは限りません。そういった場合に検討したいのが相続放棄です。
 
相続放棄とは、相続開始時にさかのぼり、初めから亡くなった方の相続人でなかったとみなされる制度です。相続人とならない以上、損害賠償責任を引き継ぐこともありません。
しかし、相続放棄をするとプラスの財産も受け取れなくなってしまいます。そのため、マイナスとなる損害賠償の額と、プラスとなる引き継ぎたい財産の内容などを十分に鑑みて決定する必要があります。
 
ただし、いつまでも考えていられるわけではなく、相続放棄をするためには相続の開始を知った時から3ヶ月以内に、管轄の家庭裁判所にて申し立てをする必要があります。3ヶ月を過ぎてしまうと、自動的に単純承認(損害賠償金の全額を含めた、全ての権利義務を相続すること)となってしまうため注意が必要です。
 

現実に数千万や数億円単位の損害賠償請求がされることはあり得るのか

理論的にはともかく、現実的には、飛び込み自殺を理由として鉄道会社から遺族へ数千万から数億円単位の請求がいくことは考えづらいです。
 
通常一個人にそれだけの賠償が可能な資力があるとは限らないこと、飛び込み自殺をする人には責任能力がないとみなされ裁判を起こしても損害賠償が認められない可能性があること、裁判をしても最終的に支払いを受けられない可能性があることを、鉄道会社も分かっているからです。
 
かといって絶対に1円も損害賠償請求がされないというわけでもありませんが、現実的には損害の大きさや遺族の資力に応じて数百万円や1000万円程度など、支払いが可能であろう金額にとどまることがほとんどだと想定されます。
 

電車への飛び込み自殺は、遺族へ損害賠償請求がされる可能性あり

うわさのように数千万や数億円単位とはなりませんが、電車への飛び込み自殺では、遺族に数百万円程度の損害賠償請求がなされることがあるようです。
 
考えたくないことではありますが、万が一家族が電車へ飛び込み自殺を行ってしまった場合は、損害賠償について早めに考え、鉄道会社との話し合いや相続放棄などの検討が必要になるでしょう。
 

出典

裁判所 相続の承認又は放棄の期間の伸長
 
執筆者:柘植輝
行政書士

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