更新日: 2022.09.13 その他暮らし

日本の景気は回復したのか? 消費者物価指数で見るアベノミクスの成果

執筆者 : 古田靖昭

日本の景気は回復したのか? 消費者物価指数で見るアベノミクスの成果
2012年12月に成立した第2次安倍内閣は、経済政策として「アベノミクス」を打ち出しました。アベノミクスは、デフレーションからの脱却を経て持続的な経済成長にするための政策です。デフレーションは物価が持続的に下落する現象であるため、物価の変動を表す消費者物価指数の推移で成果の検証が可能です。
 
本記事では、アベノミクスに成果があったのかを検証するために、消費者物価指数を使って日本の景気が回復したのかを見ていきます。
古田靖昭

執筆者:古田靖昭(ふるた やすあき)

二級ファイナンシャルプランニング技能士

アベノミクスとは

アベノミクスは、2012年12月に発足した第2次安倍政権が掲げた経済政策のことです。持続的な経済成長を実現するために、「3本の矢」を示しています。
 
第1の矢は、「大胆な金融政策」でした。日本銀行の金融緩和によってお金の流通量を増やして、デフレマインドを払拭することを目指しました。第2次安倍政権が誕生した時点では、2008年に起きた「リーマンショック」の影響から景気が回復していない状態でした。
 
2013年3月には日本銀行の白川方明総裁(当時)が辞任したことに伴い、黒田東彦氏が総裁に就任しました。就任後、「インフレターゲット」と呼ばれる中長期的な物価安定目標を2%に定めて、大胆な金融緩和を行っています。
 
第2の矢は、「機動的な財政政策」でした。第1の矢を前提として、政府が約10兆円規模の経済対策を行って需要を創出するために行われました。主に、国土強靭化のための公共事業などに支出されました。
 
第3の矢は、「民間投資を喚起する成長戦略」でした。第1の矢を前提として規制緩和や企業活動を促し、個人が活躍できる社会を作るために行われました。
 

消費者物価指数で見るアベノミクス

景気動向を表す指標は、消費者物価指数の他にもいろいろあります。しかし、アベノミクスは、黒田東彦総裁が就任した最初の金融政策決定会合において「消費者物価の前年比上昇率2%の『物価安定目標』」、つまりインフレターゲット2%を目標としているため、消費者物価指数を使って成果を見ていきます。
 

インフレターゲットとは

インフレターゲットとは、基準になる物価から中長期的に期待される物価を目標とするもので、デフレ経済を克服するための目標値のことです。物価が上昇することは悪いことではなく、物価上昇と合わせて、雇用の拡大や給与の引き上げが行われるため、過度なインフレを抑制しつつも緩やかなインフレにすることで、デフレ経済を克服することができるという考え方です。
 
デフレーションは、物価が持続的に下落する現象です。物価が下落することは良いことのように思われることがあります。物価が下落すれば、消費者にとっては物の値段が下がるため、買いやすくなります。
 
しかし、物価の下落は、企業など生産側にとっては物の値段を下げなければ売れない状態となるため、企業収益の減少や個人消費が低迷している状態を引き起こします。個人消費が低迷する原因は、今後も経済状況が良くない状態で、将来不安から悲観的になっているためです。これをデフレマインドといいます。将来不安から、お金の節約や貯蓄をしてしまうため、個人消費が落ち込んでしまいます。
 
デフレ経済を脱却するには、デフレマインドを払拭して、個人消費を拡大していく必要があります。そのためには、大胆な金融緩和を行うことが重要であるとの考えに基づいてアベノミクスは進められました。
 

アベノミクスの成果はあったのか

アベノミクスでは、インフレターゲットを設定しているため、目標を達成できたのかを消費者物価指数を見ることで、検証できます。消費者物価指数とは、全国の世帯が購入する物やサービスの価格などを合わせて、物価変動を時系列的に測定した数値のことです。つまり、個人消費によって物価がどのように変動したのかを表す指標だといえます。図表1で示しています。
 
図表1 対前年比でみた消費者物価指数(生鮮食品およびエネルギーを除く総合)


総務省統計局 2020年基準消費者物価指数 年報 長期時系列指数を元に筆者作成
 
2008年から2010年の下落は、リーマンショックによるものです。2013年から2014年の物価上昇は、金融緩和による影響が見られるものの、2014年から2017年までは再び下落に転じ、少し戻したところで2020年には安倍政権から菅政権に変わっています。
 
つまり、消費者物価指数で見ると、2013年から2014年の間に物価上昇したものの維持できずに下落しており、デフレマインドを払拭したとは言い難い状況だといえるでしょう。
 
安倍内閣の退陣以降、経済情勢が一変しており、2020年から2021年にかけては新型コロナウイルス感染症による影響によって物価が下落してしまいました。2022年になるとロシアのウクライナへの侵攻による影響から穀物やエネルギー価格が上昇したことによって物価上昇となり、アベノミクスで定めた物価安定目標2%とは異なる形になっています。
 
2022年6月に閣議決定された「骨太方針2022」では、2%の物価安定目標を持続的・安定的に実現することが明記され、「新しい資本主義」としながらもアベノミクスに似た内容であり、6月に行われた日本銀行金融政策決定会合においても、2%の物価安定目標を堅持していく方向が確認されました。
 

出典

内閣官房 改訂!やわらか成長戦略
総務省統計局 消費者物価指数(CPI)
総務省統計局 消費者物価指数のしくみと見方
総務省統計局 2020年基準消費者物価指数 年報 長期時系列指数(全国) 生鮮食品及びエネルギーを除く総合
株式会社帝国データバンク ロシアの侵攻、企業の半数で業績に悪影響を見込む(2022年4月7日)
内閣府 経済財政運営と改革の基本方針2022
日本銀行 金融政策決定会合 当面の金融政策運営について(2022年6月16日・17日)
 
執筆者:古田靖昭
二級ファイナンシャルプランニング技能士
 

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