更新日: 2022.09.20 その他暮らし

働き方は多様化の時代。こんなときこそしっかりと雇用保険を利用したい!

執筆者 : 當舎緑

働き方は多様化の時代。こんなときこそしっかりと雇用保険を利用したい!
2022年8月、行動制限のない3年ぶりの夏休みが終わりました。
 
これまで「自重して生活する」という心理から、少しずつ人々の動きが広がっている様子がさまざまな指標に表れていますが、厚生労働省から毎月発出されている一般求人倍率も、じわじわと増えてきています(※1)。
 
収入アップやよりよい生きがいを見つけて、今後転職を試みようと考える方もいらっしゃるでしょう。
 
今回は、これから転職、もしくは起業を考えている人のための雇用保険の利用方法をご紹介します。
當舎緑

執筆者:當舎緑(とうしゃ みどり)

社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。

阪神淡路大震災の経験から、法律やお金の大切さを実感し、開業後は、顧問先の会社の労働保険関係や社会保険関係の手続き、相談にのる傍ら、一般消費者向けのセミナーや執筆活動も精力的に行っている。著書は、「3級FP過去問題集」(金融ブックス)。「子どもにかけるお金の本」(主婦の友社)「もらい忘れ年金の受け取り方」(近代セールス社)など。女2人男1人の3児の母でもある。
 

退職理由で日数も金額も変わる! 基本手当をもらうときに注意したいこと

解雇や倒産など、労働者に責任のない理由で離職となってしまったとき、雇用保険の給付が手厚くなるということをご存じの方もいらっしゃるでしょう。
 
一方、会社に責任がある以外に多く使われている退職理由としては、「自己都合による退職」ですが、自己都合による理由の中には「正当な自己都合」と、自己都合にも種類があります。
 
この正当な理由に該当すると、会社都合と同様に、通常の失業による手当よりも手厚い給付が受け取れます。通勤していた会社のオフィスが遠方に引っ越しをした、自分の結婚により住所が遠くなり通勤が困難になった、契約期間が更新されなかったなど、労働者本人の理由でも該当するケースがあります。
 
会社を退職したときに、「自己都合による」と単に書いていただけでは、単なる自己都合と同様、待期期間7日+給付制限期間2ヶ月+(90日から150日)だけの給付期間となります。もしも自分の退職する理由が「正当な自己都合といえるかもしれない」と感じたなら、会社が離職票を作成する際に、しっかりとその旨を記載してくれるように交渉しましょう。
 

雇用保険受給期間の特例。起業するときに覚えておきたいハローワークの手続き

雇用保険受給期間に「特例」という制度が2022年7月に加わりました。これまで、雇用保険の基本手当は、会社を退職してから1年以内に受給する必要がありました。忙しくてなかなか手続きできなかったなどというときに、給付日数が残っていたとしても、1年経過した時点で給付終了です。
 
例外はあります。病気になったときや妊娠、出産などで求職活動ができないときには、その「働けない期間」が1年にプラスされ、最大4年を受給期間に延長できるのが、従来の制度でした(※2)。
 
今回の特例とは、事業の開始などをした方が、事業を行っている期間などは、最大3年間、受給期間に参入しない制度です。この特例を利用するためには、

(1) 事業の実施期間が30日以上
(2) 当該事業について、就業手当または再就職手当の支給を受けていないこと
(3) 離職の翌日以後に開始した事業であること

など、いくつかの要件があります。
 
今後、仮に事業を休廃業した場合にも、その後再就職活動をする際に、基本手当を受給することが可能となりました。少しでも、無収入の期間がなくなるのは、生活の安心につながるでしょう。
 
注意したいのは、「申請期間」です。失敗するとは考えずに起業の準備をしてしまうかもしれませんが、事業が失敗してから、「やっぱり雇用保険の給付を受けよう」というのでは間に合いません。
 
(1) 事業を開始した日、もしくは (2) 事業に専念し始めた日、または (3) 事業の準備に専念し始めた日のいずれかの翌日から2ヶ月以内、という申請期間は必ず守ってください。
 

転職もしくは開業するときに利用できる雇用保険の給付制度

入社してから1つの会社で定年まで働くことは、今や現実的とはいえなくなっています。今後は転職や起業など、さまざまな働き方を考えていく必要があるでしょう。そんなときに、もっともお世話になるのは、雇用保険制度といえます。
 
雇用保険の給付は、「求職」を前提としますが、給付の種類は失業にとどまりません。「雇用保険の基本手当をもらいきる」だけでなく、早めに再就職できる、もしくは再就職を促進するための「就業促進手当」という給付もあります。この中で再就職手当は、早期に安定した職業に就いた場合だけでなく、事業を開始した場合も支給されます(※3)。
 
すでに支給された基本手当を3分の2以上残している場合には、支給残日数の70%の額、3分の1以上残している場合には残日数の60%の額と、残日数により給付率が異なります。
 
この再就職手当を受け取る際のポイントは、「再就職」を給付理由としていますが、いつの時点の再就職でもよいわけではないということです。自己都合による退職により給付制限期間が2ヶ月ある方は、再就職する日には注意しましょう。
 
給付制限期間の2ヶ月の内、最初の1ヶ月間に自分で見つけてきた再就職先に就職した場合は対象外です。ただ、この期間の再就職であっても、図表1のように、ハローワークや職業紹介事業者の紹介で就職した場合なら対象となります。
 
【図表1】

図表1

 
出典:厚生労働省 都道府県労働局 公共職業安定所(ハローワーク) 地方運輸局 再就職手当のご案内
 
2022年に入ってから、すでに何度も生活用品の値上げがニュースとなっていますが、生活を守るために転職や起業、収入を増やすための副業など、働き方の選択肢は1つではありません。
 
雇用保険は、このようにさまざまな場面で使える制度です。知っておいて損のない制度だといえるでしょう。
 

出典

(※1)厚生労働省 一般職業紹介状況(令和4年6月分)について
(※2)東京労働局東京ハローワーク 求職者給付に関するQ&Aより Q6 病気のためすぐに働くことができません。どのような手続きが必要ですか?
(※3)厚生労働省 都道府県労働局 公共職業安定所(ハローワーク) 地方運輸局 再就職手当のご案内
 
執筆者:當舎緑
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。

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