更新日: 2022.09.29 その他暮らし

「着替え時間」はどんな場合でも労働時間になる?

「着替え時間」はどんな場合でも労働時間になる?
「制服に着替える時間は労働時間である」という平成12年3月9日の三菱重工業長崎造船所の判決は、労働時間の定義に一石を投じました。
 
その後、着替え時間をはじめ、今まで仕事の準備として考えられてきたさまざまな労働時間の意味について議論がなされるようになりました。
 
労働基準法で定められている「労働時間」について、判例をもとに説明します。
羽田直樹

執筆者:羽田直樹(はだ なおき)

二級ファイナンシャルプランニング技能士

【経歴要約】
1983年兵庫県立宝塚西高校入学。野球部入部。高校3年生時生徒会長を務め、首席で卒業。
 
1986年同志社大学法学部法律学科入学。労働法専攻。大学時代は部員300名を擁するESSに在籍し、1回生時は英語弁論大会で関西3位に入る。3回生時はセクションリーダーを務める。英検準一級合格。ディベート・ディスカッションで英語本体と論理的思考を学ぶ。
 
卒業後、都市銀行入行。支店勤務を重ね、住宅ローン、カードローン業務に従事し、渉外担当に従事。証券外務員資格、FP2級資格を取得。
 
2008年には本店事務部門課長に就任。その後、新入社員研修講師を拝命、2012年には事務管理部門の責任者としてコンプライアンスオフィサー・内部管理責任者・衛生管理者2種資格を行使し金融機関の事務管理部門の中枢を務める。
 
特に、特殊業務である、相続トラブル 破産 不渡り 金融犯罪 口座不正利用 当局対応などに精通。警察、国税局、金融庁との交渉経験あり。
 
【保有資格】
英検準一級                 
証券外務員2種       
FP2級           
コンプライアンスオフィサー  
証券外務員1種       
内部管理責任者       
衛生管理者2種       
 
【スキルセット】
個人ファイナンシャルプラン
金融コンプライアンス全般(法令 規制関係 事故関係 個人情報保護)
 
【強みとエピソード】
ファイナンシャルプラン全般、金融商品の仕組み、口座不正利用や振込詐欺などの金融犯罪などのトピックをお伝えできればと思っております。
 
本店の管理職時代は日本を代表する大企業取引・全国一円からの苦情対応当局対応などユニークなエピソードを数多く抱えております。
 
また、ファイナンシャルプランナーと内部管理責任者の両資格を保有していることで『攻め』と『守り』の両側面からの見解を展開できるものと思っています。
 
●メガバンクの金融事務の実体験をもつファイナンシャルプランナー
●証券外務員一級の販売スキルと内部管理責任者としてのリスクマインドを持つフィナンシャルプランナー
●あらゆる相続案件の処理経験がある元メガバンカーのファイナンシャルプランナー
●当局対応などニッチな経験をもつファイナンシャルプランナー

そもそも労働時間とは

労働基準法32条でいう労働時間は、最高裁判決の判例上「使用者の監視下に置かれている場合には労働時間である」とされています。
 
また労働協定や労働契約で決められた範囲以外でも労働時間となることがあります。例えば客観的にみて「指示命令下に置かれている場合」は労働時間となると判断されることもあります。
 

三菱重工業長崎造船所の事件からわかること

三菱重工業長崎造船所事件で争われた「着替えなどの準備時間」の状況は以下の通りでした。


・指定された更衣室で作業服と防護服の着脱
・準備体操場までの移動
・資材の受け出し、月数回の散水

これらの業務を会社側は所定労働時間「外」におこなうことと定めていました。しかし裁判所は以下の観点から労働時間と認定しました。


・客観説・・・労働協定や労働契約によらず、その行為自体を客観的に判断すること
・指揮命令下説・・・その行為が使用者の指揮命令下にあるかどうかを判断すること

 

判例を踏まえていえること

三菱重工業長崎造船所の事例により労働時間の考え方が定着しました。その行為が


・誰が見ても、従事する業務に関係するものであるか
・契約の有無に関係なく、使用者の指示があるものであるか

が判断基準といえそうです。必ずしも労働契約などでの取り決めは必要ありません。
 

労働時間となる行為・ならない行為

厚生労働省の見解や過去の判例をもとに、われわれが日頃おこなっている行為が労働時間になるのか否かをまとめると、図表1のようになります。
 


 
上記事例はさまざまな相談の中から一例を挙げたものです。判断に迷う場合は、最寄りの都道府県労働局または所管の労働基準監督署にご相談ください。
 

着替える時間は何分が妥当

「着替える時間は〇〇分とする」との明確な基準はありません。ただし、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドラインによれば、使用者は適切に労働者の始業時刻と終業時刻を厳正に管理しなければなりません。労働者は、以下の点に注意が必要です。


・タイムカードを使用する際の打刻するタイミングが正当であるか
・労働時間を自己申告している場合は使用者から十分な説明があるか

着替える時間に必要な時間を決定することは実際には困難な場合もあるため、労使間で明確に協議することが大切です。
 

まとめ

「着替え時間」は労働時間であるかについて、過去の判例に基づいて解説しました。労働協定などの労使間の取り決めだけでは判断せず、「着替える」「研修参加」などの行為が実態として「指示があるのか」「業務に関するのか」がポイントです。
 
2020年4月から「労働時間の上限規制」が中小企業にも適用されました。使用者は今まで以上に労働時間について厳正に対応しなければなりません。1日単位では小さな時間ですが、月単位・年単位では見逃せない労働時間数になりますので少しでも気になる方は労使間で確認することをおすすめします。
 

出典

独立行政法人 労働政策研究・研修機構 (37)【労働時間】労働時間の定義
厚生労働省 労働時間の考え方:「研修・教育訓練」等の取扱い
 
執筆者:羽田直樹
二級ファイナンシャルプランニング技能士

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