「3点より取りの通販」欲しいもののほかに、あと2点買わないといけない。どうする?
配信日: 2022.12.16
何気なく見ていると、ちょうど欲しかったものが見つかることだってあります。ところが、売り方は「より取り3点9990円(税別)、今なら送料無料」といった具合です。
これって、欲しいものが手に入るうえにあと2点も選べる。そう受け止めてよいのでしょうか。
執筆者:上野慎一(うえのしんいち)
AFP認定者,宅地建物取引士
不動産コンサルティングマスター,再開発プランナー
横浜市出身。1981年早稲田大学政治経済学部卒業後、大手不動産会社に勤務。2015年早期退職。自身の経験をベースにしながら、資産運用・リタイアメント・セカンドライフなどのテーマに取り組んでいます。「人生は片道きっぷの旅のようなもの」をモットーに、折々に出掛けるお城巡りや居酒屋巡りの旅が楽しみです。
脈絡のない商品並び、そして「3点買うこと」がお約束
紙やネットデータ で見かける通販のカタログなどは、商品のジャンルごとに構成されているのが普通です。
では、冒頭のような「より取り3点」のチラシではどうか。筆者の手元にあるチラシでは、羽根布団の右に刃物の簡単研ぎ器、リビングラックの下は電気ゆで卵メーカーといった具合。かなりアトランダムな印象です。
同じジャンルのものばかり続くと、つい読み飛ばしがちになります。しかし、あまり脈絡がない商品が並ぶと注意散漫にならず、かえってよく目を通してもらえる。そんな狙いかもしれません。
そして、最初に受けた情報や印象が心に残る。まるで錨(いかり=アンカー)を下ろしたように。これを「アンカリング効果」と呼びます。
定価1万円(税別、以下も同じ)を強調してその近くに実際の販売価格7000円を示すと、1万円がアンカーとなって7000円がとても割安に感じられる。こんなイメージです。
先述の「より取り3点9990円」も、総額9990円がまずアンカーになっていると考えられます。実際のチラシでも、冒頭に一番大きな活字で強調されています。
各商品がいくらなのかではなく、とにかく「9990円で3点買うこと」が必須。そんなルールの土俵やリングの上に無意識のうちに乗せられているかもしれないのです。
「本命」が買えた後、心と財布はゆるゆる?
そんなチラシの中に、ちょうど欲しいと思っていたものが見つかったとき。いわば「本命」が手に入れられる喜びや安堵感があるでしょう。さらにこの通販のルールとして、あと2点を選ぶことになります。
ここで「テンション・リダクション効果」が思い浮かびます。決断したり目標達成するまでは、心の緊張(テンション)が高まります。そして達成した後は、緊張感がどっと緩んで減る(リダクション)のです。
例えば、10万円のコートを買う決断をした後、店員から1万円のマフラーをついでに勧められる。10万円の大きな買い物に比べれば、1万円なら手軽だ。こんな風にサイフが緩む流れです。
「より取り3点9990円」では、各商品にここまで価格差はないでしょう。しかし、本命が見つかった。単純に割り算すれば3330円で手に入る。この時点で「テンション」はピークかもしれません。
そうなると、チラシの中からあと2点を選ぶ段階では、テンションは下り坂「リダクション」で、あと2点を選べることは“オマケ”のようになっている。欲しいとまでいかなくても「まあ、あってもいいか」くらいの商品でも、悔いや抵抗感はさほどなくなっているのです。
まとめ
ついで買い。本命のほかに、ついでに買い物を「してしまう」状況ですが、売り手の巧妙なやり方で「させられている」ともいえます。
先述の「より取り3点で9990円」のチラシの中から例示してみると、[気になっていたサイクロンクリーナーが見つかった。あとは、エアーベッド(ポンプ付き)、そしてマーブルコートフライパンセットでも買っておくか……]。こんな流れです。
もしもエアーベッドやフライパンセットが届いてから、やっぱりいらない気持ちになったとしたら、どうでしょうか。結局、サイクロンクリーナーを割高に買わされて、しかもかさばる不要品を増やしているだけかもしれません。
では「より取り3点」の中に魅力的なものが1点だけあったとき、どうすればよいのか。「3点必須」の土俵やリングから降りてしまうのが一案。つまり、同じ(同じような)商品が単独で販売されていないかどうか、ネット検索でチェックしてみるのです。
結構ヒットすると思います。3点総額の3分の1以下で買えるケースだってあるかも。仮に送料分で少し割高になったとしても、かさばる不要品の置き場や将来捨てる手間などを考えると、1点だけ“身軽に”買うほうがはるかに合理的といえます。
ついで買いは、本当におトクなのか。時々はチェックして、必要に応じて見直す姿勢。決して無駄ではないでしょう。
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士