日本学生支援機構の給付奨学金を受給するための「収入基準」の詳細
配信日: 2023.01.20
執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
http://fp-trc.com/
家計基準(収入基準)
学生と生計維持者(父母)が、次の「収入基準」の3区分のいずれかに該当する必要があります。
3つの支援区分ごとに、収入基準が異なり、支援額も異なります。第1区分は「住民税非課税世帯」、第2・3区分が「それに準ずる世帯」です。第1区分を基準にすると、第2区分の給付額は第1区分の3分2、第3区分は第1区分の3分の1の金額です。
それぞれの収入基準は以下のとおりです。
(1) 第1区分:学生と生計維持者の市町村民税「所得割」が非課税であること
具体的には、学生と生計維持者の支給額算定基準額の合計が100円未満であること
(2) 第2区分:学生と生計維持者の支給額算定基準額の合計が100円以上2万5600円未満であること
(3) 第3区分:学生と生計維持者の支給額算定基準額の合計が2万5600円以上5万1300円未満であること
ここでのキーワードは「支給額算定基準額」です。支給額算定基準額は次の算式で求めます。
<算式>
支給額算定基準額=地方税(個人住民税)の所得割の課税標準額×6%-(市町村民税調整控除額+市町村民税調整額*)(100円未満切り捨て)。
*なお、政令指定都市に対して市民税を納税している場合は、(市町村民税調整控除額+市町村民税調整額)に4分の3を乗じた額です。
支給額算定基準額を算出するための「課税標準額」「市町村民税調整控除額」「市町村民税調整額」は、課税証明書や所得証明書で確認できる場合があります。また、「マイナポータル」を活用すれば、市町村民税の課税標準額などを調べることができます。
なお、日本学生支援機構の「進学資金シミュレーター」(給付奨学金シミュレーション)では、お手元に詳細な情報を用意されなくても、給付奨学金制度の対象になりそうかどうかを大まかに調べることができます。
課税標準額、調整控除額、税額調整額
支給額算定基準額を算出するために必要な「課税標準額」「市町村民税調整控除額」「市町村民税調整額」の用語説明をします。
〈課税標準〉
課税標準を理解するには、住民税の計算の仕組みを知ることが大切です。ざっくり、説明します。
(1) 収入-必要経費=所得
*必要経費:給与所得なら給与所得控除額、雑所得(公的年金)なら公的年金等控除額、など
(2) 所得-所得控除=課税所得(課税標準額)
(3) 課税所得×税率10%=税額控除前の所得割額
(4) 所得割額-税額控除=税額控除後の所得割額
(5) 所得割額+均等割額=住民税額
つまり、課税標準額は所得から各種所得控除を差し引いた金額です。
〈調整控除額〉
2007年度に所得税から個人住民税への税源移譲がなされました。その際、人的控除(基礎控除・配偶者控除・扶養控除等の「人」を対象とした控除)の金額に差があるため、税源移譲により所得税と市県民税の合計額が増加になる場合があります。この負担増加を調整するため、市県民税の所得割額を減額するものが調整控除です。
なお、合計所得金額が2500万円を超える場合は、調整控除額の適用はありません。
・調整控除額の計算方法
個人住民税の合計課税所得金額が200万円以下の場合
イとロのいずれか小さい額の5%
イ 人的控除額の差の合計額
ロ 個人住民税の課税所得金額
個人住民税の合計課税所得金額が200万円超の場合
{人的控除額の差の合計額-(個人住民税の合計課税所得金額-200万円)}の5%。
ただし、この額が2500円未満の場合は、2500円とします。
〈税額調整額(所得割の調整措置)〉
税額調整額については、所得割の調整措置ともいわれ、他の税額控除とは意味が異なる調整です。この調整措置は、市県民税の所得割非課税限度を若干超えるような納税義務者の税額差引後の所得が、非課税限度額を若干下回る納税義務者の所得金額を下回らないように調整するものです。
モデルケース世帯の年収目安の根拠
日本学生支援機構の在学採用の奨学金案内を見ると、モデルケースとして、本人(19~22歳)、父(給与所得者)、母(無収入)、高校生の4人世帯の場合、支援を受けられる年収の目安が461万円程度となっています。この根拠を検証してみます。
父の給与収入金額が461万5000円であると仮定して、まず、課税標準額を計算してみましょう。
(1) 収入-必要経費=所得
地方税法の給与所得控除を行うと、給与所得金額は324万9600円です。
(2) 所得-所得控除=課税所得(課税標準額)
所得控除は「基礎控除」「配偶者控除」「扶養控除」「社会保険料控除」のみと仮定します。
1. 基礎控除および配偶者控除は、それぞれ33万円です。
2. 扶養控除は、16~18歳33万円、19~23歳未満45万円なので、合計78万円です。
3. 社会保険料控除は、収入の15%と仮定すると69万2250円になります。
以上より所得控除の合計額は、223万2250円です。
所得金額から所得控除額を引くと、101万7350円です。課税標準額は税法上1000円未満を切り捨てるので、課税標準額は101万7000円となります。
次に、 調整控除額を計算します。税法の定めに従い計算すると、9900円です。さらに、税額調整額を計算します。税法の定めに従い計算すると、0円となります。
最後に、上記の結果を基に支給額算定基準額を計算します。
課税標準額×6%(=6万1020円)-(9900円+0円)=5万1120円、この金額の100円未満を切り捨てて、5万1100円がこの者の支給額算定基準額になります。
以上より、5万1300円を下回っているので、給付奨学金に採用されます。仮に給与収入金額が461万6000円で他の条件も同様であった場合、このケースでは、支給額算定基準額は5万1300円となり、採用されません。たった、給与収入1000円の違いで給付奨学金が受給できるかが決まってしまいます。
「住民税非課税」等の判定はいつの時点を対象?
住民税の課税標準額等については、毎年6月に、前年1月~12 月の所得を基にした最新の内容に更新されます。
例えば、2022年度の時点で高校3年生の方の予約採用の採用候補者としての決定は、2021年の収入に基づき算定される2022年度の地方税情報により判定されます。
また、2023年度の時点ですでに大学等に入学している方の採用(一次採用(春))も、予約採用と同様に、2021年の収入に基づき算定される2022年度の地方税情報により判定されます。なお、双方ともに2022年度の地方税の扶養控除の金額は2021年12月31日現在の年齢により判断されることになります。
まとめ
「住民税非課税」等の判定は、収入ではなく、住民税の課税標準額等に基づく支給額算定基準額です。また、判定の時期も申し込みの時期によりますが前年や前々年です。したがって、給付奨学金を受給したい場合は数年前からの準備が必要です。年収が数千円オーバーするだけで支給対象外になることもあります。
年収が数万円程度のオーバーであれば、収入を抑えるか、所得控除を増やせないか検討しましょう。
出典
日本学生支援機構 ホームページ
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー