子育てにお金がかかると“感じる”なら客観的な家計管理を! 令和の時代を見越した「家計八策」-その7-
配信日: 2023.03.05 更新日: 2023.03.06
一、家族で協力する
二、家計を管理する
三、資産形成は末代まで行う
四、保険は最低限にする
五、お金のことを学ぶ
六、老後は介護を想定する
七、教育資金は資産を分ける
八、住宅ローンは無理しない
執筆者:重定賢治(しげさだ けんじ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
明治大学法学部法律学科を卒業後、金融機関にて資産運用業務に従事。
ファイナンシャル・プランナー(FP)の上級資格である「CFP®資格」を取得後、2007年に開業。
子育て世帯や退職準備世帯を中心に「暮らしとお金」の相談業務を行う。
また、全国商工会連合会の「エキスパートバンク」にCFP®資格保持者として登録。
法人向け福利厚生制度「ワーク・ライフ・バランス相談室」を提案し、企業にお勤めの役員・従業員が抱えている「暮らしとお金」についてのお悩み相談も行う。
2017年、独立行政法人日本学生支援機構の「スカラシップ・アドバイザー」に認定され、高等学校やPTA向けに奨学金のセミナー・相談会を通じ、国の事業として教育の格差など社会問題の解決にも取り組む。
https://fpofficekaientai.wixsite.com/fp-office-kaientai
子育てにお金がかかると“感じる”総合的な理由
ここ最近、岸田政権が掲げる「異次元の少子化対策」というフレーズが話題になっています。賛否両論あるようですが、議論のなかで子育てにはお金がかかるという意見が多いように感じます。
長年、FP事務所を運営していて、確かに子育てにはお金がかかるという意見にはある意味同意しますが、実務的には昔と比べると、国や地方自治体による子育て支援は充実しているのは事実であるという認識はもっています。
では、なぜ子育てにお金がかかると多くの方が感じるのでしょうか。経済的には、昔と比べて相対的に(1)収入が減っている、(2)子どもにかかるお金だけでなく他の支出も増えている、(3)結果としてお金が貯まりにくい、(4)同時に負債比率が高い傾向がある、といったことが理由として挙げられるかもしれません。
こうした状況になってしまっているのは、一言でいうと時代の流れなのかもしれませんが、これまで子育て世帯の方々からの相談に応じていて思うことは、端的には支出の増加と貯蓄の必要性がともに高まっているからなのではないかと推測しています。
今回は教育資金がテーマなので、その他の項目には話題を広げませんが、子どもの教育費だけでも増加傾向にあることは否めませんので、この点についてどのように対応したらいいか考えていきます。
子育てにお金がかかると“感じる”ことの正体
実際の相談では、子育てにお金がかかる原因について、子どもの塾や習い事の費用がかさんでいる、小学校や中学校といった義務教育過程で私立に通わせたいと保護者が考えている、という2つがあるように考えています。
例えば、子どもを月曜日から土曜日まで塾と習い事に通わせているという保護者の方から、「子どもにお金がかかり過ぎて家計が苦しいです。どうしたらいいでしょうか」といった内容の相談がありました。他にも家計にいくつかの問題を抱えていましたが、解決策を考えるまでもなく、直接的な原因は塾代と習い事代が多いことでした。
一方、別の保護者の方からは、「子どもを私立の中高一貫校に通わせたいのですが、将来の家計が大丈夫かどうか教えてほしいです」という相談もありました。今どき珍しくない内容の相談ですが、このようなことを聞くと「家計が不安なら、無理して私立に通わせなくてもいいのでは」と思う方もいるかもしれません。
しかし、当事者である保護者にとっては切実な問題です。結論をいうと、希望している私立の中高一貫校に進学する場合で大学までの資金シミュレーションをした結果、家計収支が慢性的に赤字になる可能性が高いことが判明しました。
これらの事例に共通するのは至って単純で、いずれも子どもの教育方針が明確に定まっていなかったことです。相談のなかで言われたのは、「周りの保護者が塾に通わせて、習い事もさせている」「私立の中高一貫校に進学させようとしている」「自分もそうしたほうがいいかなと思いました」ということでした。
つまり、子どもにお金がかかるのは、お金がかかる教育方針を選んでいるからという、保護者の自意識に起因している面が大きい部分もあります。
子どもにかかる教育費は、現行の制度においては幼児教育・保育の無償化から始まり、小学校と中学校は義務教育であるため授業料は無償です。高校に至っては私立に通ったとしても授業料は実質無償化されており、大学などの高等教育についても世帯の所得や学力の条件に該当することで、無償化の対象になるケースもあります。
このような意味で、昔と比べて子どもの教育費の負担が減っているのも事実ですが、先ほどの相談の事例のように、保護者の考え方によってはお金がかかることもあります。
実際はそれほど教育費がかからなくなっているにもかかわらず、お金がかかるように思えるというのが、子育てにお金がかかると“感じる”ことの正体です。
子どもにかかるお金は教育費と進学資金に分けて「見える化」する
子育てにお金がかかると感じる理由は前述のとおりですが、その一方で、教育資金を十把ひとからげに考えているという家計における仕訳の問題もあります。
教育資金については「教育費」と「進学資金」に分ければいいということですが、教育費も進学資金も全部ひとくくりにして家計内で考えてしまうため、お金がかかると感じやすくなるということです。
簡単にいうと、教育費は毎月・毎年の支出として計上する子どもにかかるお金です。これに対して進学資金は、子どもが大学などに進学するときに備えて貯めておくお金を指します。つまり、教育費が子どもにかかるランニングコストで、進学資金が子どもに対する投資資金という位置づけです。
まずは進学資金から考えます。児童手当は、制度の趣旨としては子どもが進学するための資金という位置づけではありませんが、これを進学資金に入れて考えます。現行の制度では、児童手当は原則、子どもが生まれてから中学生までの間、1人当たり総額で約210万円が支給されます。
仮に子どもが私立大学に通うという場合、文系では入学金と授業料、施設管理費を含めた4年間の学費が600万円ほどですが、大学に必要なお金を単純に600万円とすると、児童手当の総額との差額である390万円を貯めればいいという計算になります。
進学資金の390万円については、子どもが生まれてから例えば毎月5万円ずつ貯蓄した場合は約6年半、つまり小学校に上がる前後には貯まるという計算ができます。なお、あくまでも私立大学の文系を前提とした一例であり、子どもが国公立大学に進学する場合は、もちろんこれほど進学資金は必要ありませんが、私立大学の理系や薬学部、医学部などに進学するケースではこの試算の金額では足りません。
進学資金の軸足を整えたら、次に毎月・毎年かかる教育費を支出からいくら捻出するのか考えます。この点についても家庭によって異なりますが、おおよそ毎月5万円程度を教育費に計上しておけば、中学校まで公立に通わせることを前提にした場合、足りなくなる可能性は低いといえます。塾や習い事に回すお金が多い場合は成立しませんが、必要に応じて塾などに通わせ、足りないときは少し増額する程度で考えておけばいいでしょう。
このように、教育費と進学資金を分けることで、家計における子どものための予算を計上していきます。もちろん家庭によって異なるのは当然で、子どもが2人目、3人目と増えるに従ってお金が必要になるのも当たり前のことです。
つまり、子どもにかかるお金をあらかじめ家計に計上することで、子どもにはお金がかかるとあいまいに“感じる”のではなく、何が足りていて、何が足りないかを「見える化」するのが重要であるということです。
まとめ
令和は昭和のバブル期のように、日本経済が右肩上がりで成長するような時代にはおそらくならないでしょう。仮に日本経済が好況期に転じるなら、子育てにかかるお金の心配も減るように思いますが、そう考えるのは非現実的のような気がします。
経済的な不安が高まりやすい時代において何が重要かというと、家計をある程度しっかり管理することです。そのためには、子育てにかかるお金についてもそうですが、保護者としての教育方針や家族として何を幸せと感じるかについても考え方を深めていくことが求められます。
子育てにかかるお金は、一方で家計の支出であり、また一方では教育投資の意味も込められています。だからこそ、家計でどのように予算に計上するかが重要で、その根拠になるのが保護者の教育などに対する考え方ということです。
あいまいに「子育てにはお金がかかる」と“感じる”のでは、世間の空気に流され、子育ての本質を見失う可能性があります。子育てについて客観的にどうすべきかを夫婦で話し合うことで、不安が希望に変化するのではないでしょうか。
筆者も子育てをしていますが、子育ては大変だという論調が広がっている現状には少なからず違和感を覚えます。むしろ、大変なこともあるが、楽しいことも多いというのが現実ではないでしょうか。
出典
内閣府 幼児教育・保育の無償化について(日本語)
文部科学省 高校生等への修学支援 高等学校等就学支援金制度
東京都福祉保健局 児童手当
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)