更新日: 2019.01.10 その他暮らし

2018年6月~開始された民泊新法。日本人の生活に、【民泊】は普及可能なのか

執筆者 : 菊原浩司

2018年6月~開始された民泊新法。日本人の生活に、【民泊】は普及可能なのか
2018年6月15日より、住宅宿泊事業法(民泊新法)が開始されました。

従来は旅館業法の厳しい条件によって、特区民泊の限られたエリアでしか営業できなかった民泊。しかし、民泊新法では従来のルールをより緩和させ、多くの人が民泊の営業を行えるようになりました。

民泊は訪日外国人の増加による宿泊施設不足への解決策と、人口減少による空き家対策の一挙両得が狙える政策です。

ところが、政府発表によると、2018年6月15日までの届け出の受理は全国で約2200件にとどまり、普及が進まない実態が明らかになってきました。
 
菊原浩司

Text:菊原浩司(きくはらこうじ)

FPオフィス Conserve&Investment代表

2級ファイナンシャルプランニング技能士、管理業務主任者、第一種証券外務員、ビジネス法務リーダー、ビジネス会計検定2級
製造業の品質・コスト・納期管理業務を経験し、Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)のPDCAサイクルを重視したコンサルタント業務を行っています。
特に人生で最も高額な買い物である不動産と各種保険は人生の資金計画に大きな影響を与えます。
資金計画やリスク管理の乱れは最終的に老後貧困・老後破たんとして表れます。
独立系ファイナンシャルプランナーとして顧客利益を最優先し、資金計画改善のお手伝いをしていきます。

http://conserve-investment.livedoor.biz/

目次

<民泊制度の3つの法規制>

宿泊サービスは現在3つの法律により規制されています。最も古い法律は「旅館業法」になります。旅館業法はその名の通り、ホテル・旅館を対象とした法律です。
 
この法律は住宅専用エリアでの営業ができず、客室の面積も一定以上の大きさが必要といった内容だったため、新たに登場した民泊サービスには対応ができませんでした。
 
そこで、平成25年に特定エリア(大阪府、大阪市、大田区、北九州市、新潟市、千葉市)での民泊を認める「国家戦略区域特別区域法」(特区法)が登場します。
 
こちらは条例で定める数日の期間ならば、住宅やマンションなどでも宿泊事業を行えるという法律です。
 
旅館業法よりも規制をゆるくした法律ですが、営業日数の関係から商業的な展開は難しいものでした。
 
そして今回、これらの問題点に最大限配慮した「民泊新法」が登場しました。民泊が全国で開業可能となり、営業日数も年間180日と特区法に比べて大幅に増加。
 
旅館業法・特区法で規定されていた居室に関わる面積制限もなくなりました。行政への届け出のみで事業を開始でき、物件管理を他の事業者に委託できるなどの大幅な緩和が行われたため、民泊普及の端緒となることが期待されています。
 

<民泊新法の事業者となるには>

民泊新法施行後は、都道府県知事への届け出により事業を開始することができます。事業を正しく行うため、以下10項目の措置が義務付けられています。
 
(1)宿泊者の衛生確保
(2)避難機器の設置による安全確保
(3)外国語による施設利用方法説明
(4)宿泊名簿の作成
(5)騒音防止と宿泊者への必要事項の説明
(6)苦情の処理
(7)宿泊者の仲介を受ける場合は登録旅行業者または住宅宿泊業者とする
(8)標識の表示
(9)年間営業日数などの定期的な報告
(10)家主不在の場合は「住宅宿泊管理業者」への管理委託義務
 
また、政令市や中核市などは民泊に関して独自の条例を設定することができますので、民泊事業者はこれらの条例にも対応する必要があります。さらに、周辺環境に配慮した条例への対策も行わなければなりません。
 

<普及率が伸び悩む理由とは?>

前述のように、住宅宿泊事業者が対応することが多くあるとはいえ、空き家を活用できるのは大きなメリットです。
 
しかし、現実には民泊新法の開始による事業者数の増加はかんばしいものではありませんでした。
 
その理由として、法整備で罰則が強化されたことにより脱法民泊が一掃されたことと、全国の政令市・中核市で独自に施行できる「住環境配慮条例」が挙げられます。
 
中でも特区法の対象地であった大田区は、住宅専用地域での民泊の営業を通年で禁止するなど、民泊新法に関して厳しい対応をとっています。
 
政府が「通年禁止や全域禁止は法の目的から逸脱し、適切ではない」とコメントを発することにもなりました。
 
住環境配慮条例は、民泊を実施できるエリア・営業日数に制限を敷いているほか、事前説明会を行うことや事業者名を明らかにすることなど、地域の状況に合わせてさまざまな内容となっています。この点が、小規模な住宅宿泊事業者が参入に二の足を踏む原因にもなっています。

営利目的で民泊を営む場合は、物件価格が比較的安く、設備が整っており、共有部分の管理も行ってくれる区分所有物がうってつけです。しかし、長年脱法的に経営されてきた民泊による騒音やゴミ出しトラブル、不特定の人の出入りなどで、マンション住民に極めて悪い印象を与えてしまいました。
 
今回の住宅宿泊事業法による民泊を禁止するには、マンション管理規約を変更し、「住宅宿泊事業法による民泊を禁止する」と明記する必要があります。
 
過去のトラブルの経験から速やかな変更がなされており、区分所有物件で民泊が可能なものはほぼ存在しない状態になっています。
 
欧米のように、安いマンションを魅力的に改修して経営を営むというビジネスモデルを、国内で行うのは現状では難しいと思われます。
 

<まとめ>

民泊は欧米では一般に利用されているサービスですが、日本国内での普及に法整備が追い付かず、不充分な管理・サービスしか提供できない脱法民泊が横行してしまいました。
 
多くのトラブルが報告され、その一部は裁判にまで発展してしまいました。過去民泊トラブルの温床となったマンションやシェアハウスなどの区分所有物件は、民泊新法施行後も民泊経営が困難な状況です。
 
しかし、人口減少による空き家の活用といった面では、可能性を残しています。
 
今回の民泊新法により民泊物件の管理を代行する「住宅宿泊管理業者」も利用可能になりました。管理業者を利用することにより、遠隔地での物件管理のほか、住環境配慮条例の対応に関して助言をもらえる場合もあります。
 
実家などの空き家は固定資産税の問題もありますが、思い出といった心理面からも取り壊したり、売却したりすることがためらわれます。
 
相続した実家などの空き家を、民泊物件として改修し、多くの人に使ってもらうという新たな選択肢もあります。
 
日本国内における民泊は、戸建て空き家活用といった方向で、今後進化していくと思われます。
 
Text:菊原浩司(きくはらこうじ)
FPオフィス Conserve&Investment代表
2級ファイナンシャルプランニング技能士、管理業務主任者、第一種証券外務員、ビジネス法務リーダー、ビジネス会計検定2級 

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