更新日: 2023.06.02 子育て

【こども・子育て支援加速化プラン】 子育て支援は今後、量から質へ転換が図られる?

執筆者 : 重定賢治

【こども・子育て支援加速化プラン】 子育て支援は今後、量から質へ転換が図られる?
こども家庭庁が令和5年3月末に公表した「こども・子育て政策の強化について(試案)~次元の異なる少子化対策の実現に向けて~」では、「こども・子育て支援加速化プラン」として少子化傾向を反転させるための今後3年間の取り組みが示されています。
 
前回の記事では、そのうちの「ライフステージを通じた子育てに係る経済的支援の強化」を取り上げましたが、今回は「全てのこども・子育て世帯を対象とするサービスの拡充」の内容について確認していきます。
重定賢治

執筆者:重定賢治(しげさだ けんじ)

ファイナンシャル・プランナー(CFP)

明治大学法学部法律学科を卒業後、金融機関にて資産運用業務に従事。
ファイナンシャル・プランナー(FP)の上級資格である「CFP®資格」を取得後、2007年に開業。

子育て世帯や退職準備世帯を中心に「暮らしとお金」の相談業務を行う。
また、全国商工会連合会の「エキスパートバンク」にCFP®資格保持者として登録。
法人向け福利厚生制度「ワーク・ライフ・バランス相談室」を提案し、企業にお勤めの役員・従業員が抱えている「暮らしとお金」についてのお悩み相談も行う。

2017年、独立行政法人日本学生支援機構の「スカラシップ・アドバイザー」に認定され、高等学校やPTA向けに奨学金のセミナー・相談会を通じ、国の事業として教育の格差など社会問題の解決にも取り組む。
https://fpofficekaientai.wixsite.com/fp-office-kaientai

子育て支援は量から質へ

こども・子育て支援加速化プランでは、子育て支援について、量の拡大から質を向上させる方向に政策の重点を移していくとしています。
 
具体的には、「幼児教育・保育の質の向上」「こども誰でも通園制度(仮称)の創設」「病児保育、学童、社会的養護、ヤングケアラー、障害児、医療的ケア児、ひとり親家庭などの支援体制強化」の3つを柱に据えています。
 
図表1

出典:こども家庭庁 「こども・子育て政策の強化について(試案) ~次元の異なる少子化対策の実現に向けて~(概要)」
 
以下、それぞれの概要を確認していきます。
 

(1)幼児教育・保育の質の向上

これは保育所や幼稚園、認定こども園などについて75年ぶりに配置基準を見直し、さらなる処遇の改善を図ることで、幼児教育・保育の質を向上させるというものです。
 
背景としては、待機児童対策の推進により “量”の拡大は進んだ一方で、幼児教育・保育の現場で子どもをめぐる事故や不適切な対応が依然として起こっており、子育て世帯が安心して子どもを預けられる体制を整え、“質”の向上によって問題を解決する必要が出てきていることにあります。
 
具体的には職員の配置基準について、1歳児は現行の保育士1人に対して子ども6人から5人へ、4歳児・5歳児は保育士1人に対して子ども30人から25人に見直すと同時に、民間の給与動向等を踏まえ、保育士などの処遇改善を検討するとしています。
 
以前から指摘されている配置基準の見直しや職員の処遇改善については、共働き世帯の増加で子どもを保育所などに預けたいというニーズが高まるなかで、保育所などの整備が追いついていない点と、保育士などの人手不足をいかに改善していくかという2つの問題が横たわっています。
 
単純に考えて、人手不足が改善される保育所などでは配置基準の見直しに一定の効果は出るでしょうが、そうでないケースでは経営状況が悪化し、保育士などの待遇が余計に悪化する恐れもあると考えられます。こうした政策は、一定程度の質の向上が確保されるまでは、引き続き段階的に拡充されると捉えておいたほうがいいのかもしれません。
 

(2)こども誰でも通園制度(仮称)の創設

「こども誰でも通園制度(仮称)」は、就労用件を問わず、すべての子育て家庭が保育所を利用できるようにすることを目的としています。この制度の創設には、0歳児から2歳児の約6割を占める未就園児を含め、子育て世帯の多くが「孤立した育児」のなかで不安や悩みを抱えているという背景があるようです。
 
孤立した育児は、これまで開催されてきた政府の会議で、その要因を核家族化や人間関係の希薄化としていますが、こうした問題の影響を緩和するために、すべての子育て家庭に対して支援を強化するとあります。いわゆる育児疲れを感じる保護者をいかにケアするかという問題に対するひとつの答えなのかもしれません。
 
具体的には、子どもを保育所などに預ける際に適用される就労要件を不問とし、時間単位などで柔軟に利用できる新たな通園給付の検討が図られるようです。この制度が創設されれば、以前からある保育園などの一時預かりといったサービスについて、保護者の就労要件がなくなるため、例えば専業主婦世帯でも希望する場合は子どもを預けることができるようになります。
 
しかし、こちらは視点のひとつとして、「(1)幼児教育・保育の質の向上」との兼ね合いをどう捉えていくかがあります。
 
(1)では保育所などの職員の配置基準を見直すわけですから、預ける子どもの数が増えると、配置基準を満たすために職員を増やすことが求められてきます。この点に加えて、就労要件を問わず、すべての子育て家庭が子どもを保育所などに預けられるようにするので、保育士などの人手不足をどこまで解決できるのか不透明性が高まるように思われます。
 
こうした問題を和らげるために、保育士などの処遇をさらに改善していこうというのが幼児教育・保育の質の向上ではありますが、どこまで実現できるかが大きな焦点になるのではないでしょうか。また、(1)と同様に地域差が存在するため、都市部と郊外など、子育てをする環境によって政策の効果に違いが生じることも考えられるでしょう。
 

(3)病児保育、学童、社会的養護、ヤングケアラー、障害児、医療的ケア児、ひとり親家庭などの支援体制強化

(3)については、対象となる子どもを絞った取り組みといえます。大きく分けると学童と、それ以外の子どもに対する支援をどうするかという2つのカテゴリーに区分されています。
 
まず学童に対する支援では、国の考え方としては保育の待機児童が減少する一方で、放課後児童クラブは依然として1万5000人程度の待機児童が存在しており、安全対策の強化が求められるなど、学齢期の児童が安心・安全に過ごせる場所の拡充は急務であるとしています。
 
このような背景を基に、国はすべての子どもが放課後を安全・安心に過ごし、多様な体験・活動を行えるよう受け皿の拡大を進めるとともに、職員配置の改善を図ろうとしています。
 
この取り組みにおけるポイントのひとつには、いわゆる「小1の壁」があり、保育園や幼稚園に通っていた子どもが小学校に入学するタイミングで生活リズムや環境が変わり、保護者が仕事と子育てを両立することが難しくなるという問題が絡んでいます。
 
つまり、保育園などの待機児童の数は減りつつあるものの、小学校に上がる段階で学童保育に子どもを預けることに問題が生じており、これに対して改善が急務であるということです。
 
子どもの居場所や時間を家庭で確保するか、社会で確保するかといったスケールの大きい問題でもありますが、特に小さい子どもがいる家庭では子育てと働き方について同時並行的に考える機会が多いと思います。そのような家庭においては、子育ての初期というライフステージのなかで重要な項目として位置づける必要があるでしょう。
 
学童以外の子どもについては、社会的養護、ヤングケアラー、障害児、医療的ケア児、ひとり親家庭の支援が挙げられています。
 
こうした子どもを対象とした支援は切実なものといえますが、子育てに困難を抱える家庭や、家族を介護しているヤングケアラーへの支援については、令和6年度から実施される「こども家庭センター」の体制強化を図り、子育て世帯訪問事業などを拡充するほか、社会的養護の下で育った子どもの自立支援に向けた取り組みを強化するとしています。
 
障害児や医療的ケア児を持つ家庭への支援では、児童発達支援センターの機能強化で地域における障害児の支援体制を強めるとともに、巡回支援の充実によるインクルージョン(包括)を推進し、専門的支援が必要な子どもへの対応として地域での連携体制を強化するとあります。
 
そして、ひとり親家庭の自立を促進するために、ひとり親を雇用し、人材育成・賃上げに向けた取り組みを行う企業への支援のほか、看護師・介護福祉士などの資格取得を目指すひとり親家庭の父母に対する高等職業訓練促進給付金制度については、資格取得期間の短縮や対象資格の拡大といった幅広いニーズに対応できる制度にするとしています。
 
ほかにも養育費に関する相談支援や取り決めの促進も挙げられていますが、ひとり親家庭への支援も切迫した課題と考えられることから、強化や拡充が図られることは現状への対策として有意義といえるでしょう。
 

まとめ

今回お伝えした「全てのこども・子育て世帯を対象とするサービスの拡充」は、国が行ってきた子育て支援策について、ある程度は足りている量的な部分を質の面で見直していこうというところに特徴があります。本質的には、核家族化などによって家庭で低下しつつある子育ての能力を、地域社会においてどのようにサポートしていくかという子育て環境の改善です。
 
今後、個々の家庭に合った形で子育て支援がより行き届きやくなるような取り組みが図られそうですが、いずれも幼少期の子どもを持つ家庭にとっては重要な項目といえます。国が提示する子育て支援策に対して、どのように利用するかという視点で考えると、ライフプラン上の選択がしやすくなるのではないでしょうか。
 

出典

こども家庭庁 こども・子育て政策の強化について(試案) ~次元の異なる少子化対策の実現に向けて~
こども家庭庁 こども・子育て政策の強化について(試案) ~次元の異なる少子化対策の実現に向けて~(概要)
 
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)

【PR】子どもの教育費はいくらかかるの?かんたん30秒でシミュレーション

ライターさん募集